立教大学

マラリア撲滅に向けたワクチンの開発へ  
~マラリア原虫の受精に必須遺伝子の発見から~

大学ニュース  /  先端研究

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自治医科大学感染・免疫学講座の平井誠助教(松岡裕之研究室)を中心に、立教大学極限生命情報研究センター長、理学研究科黒岩常祥特任教授らのグループは、理化学研究所、東京大学などとの共同研究により、マラリア原虫の受精に必須な遺伝子を発見し、米国の権威あるカレントバイオロジー誌(Current Biology 18,607-613,2008)に発表。一部はサイエンス(29 April,2008, Editor’s choice)などに記事として掲載されている。

 マラリアは単細胞性の原虫(マラリア原虫)によって引き起こされる病気で、エイズ・結核とならぶ世界三大感染症の一つであり、熱帯地域に多い病気だ。蚊によって媒介され、多くの場合、患者は高熱に続く脳の血管閉塞により死亡する。現在3~5億人の罹患者がおり、毎年100万人以上の死者を出している。しかし今のところこの病気を撲滅するための決定的な対策は見つかっていない。困ったことに地球温暖化とともに、媒介する蚊の生息地域は熱帯から温帯地域へと拡大し、わが国も生息域に入りつつある。これから多くの学生が東南アジア方面に旅行すると思われるが、その際には、蚊に刺されないように気をつける必要がある。

 マラリア原虫に感染した血液を蚊が吸血すると、蚊の消化管内で原虫の雌雄配偶子が受精し、1個の接合体から数千個もの原虫が蚊の体内で増殖する。そこでマラリアを撲滅する最も有効な手段の一つとして、この受精を阻止することが考えられる。2年前に黒岩教授・森稔幸博士研究員のグループは、雌雄の配偶子の受精に必須な遺伝子(GCS1,ユイノウ)を発見した(Nature Cell Biology, 2006)。この遺伝子は極限生物シゾンから高等植物まで、植物界に広く存在していることが分かった。一方近年、マラリア原虫は、進化上その起源が植物であることが分かり、ゲノムに、この遺伝子も含まれている可能性が高まった。そこでマラリア原虫の専門家である自治医科大学の松岡教授・平井助教のグループ、東大(医)の北潔教授のグループ等と研究を進めることになった。その結果、今回、ついにマラリア原虫もGCS1(ユイノウ)遺伝子を持っており、そのタンパク質が、雄配偶子で特異的に発現していることを見出した。更にこの遺伝子を欠損したマラリア原虫では、蚊の消化管内腔で起こるべき雌雄配偶子の受精が完全に止まってしまうことを突き止めた。

 長年の研究にもかかわらずマラリア原虫に対する有効なワクチンはいまだ見つかっていない。平井助教は「今回の発見によって、宿主哺乳動物の生殖を損ねることなくマラリア原虫の受精過程のみを特異的に攻撃するワクチンの開発に新しい道が拓けた」と述べている。多くの生物種においてGCS1が保存されていることから、「マラリア原虫以外の感染性病原微生物の制圧のみならず、あらゆる生物における受精進化の解明や生物生産性のコントロールなど応用面でも今後大きく貢献することが期待できる」とコメントしている。本研究は、立教大学の学術フロンティアの当初の研究計画とも密接に関連している。

▼立教大学極限生命情報研究センターのホームページ
http://www.rikkyo.ne.jp/grp/cri/project/kenkyu-06kyokugen-0.htm