龍谷大学

龍谷大学 理工学部(粟井郁雄教授グループ)が、初めて電気自動車(EV)の走行中充電を将来可能とする新技術「移動式ワイヤレス電力伝送」を開発!

大学ニュース  /  先端研究  /  IT情報化

  • ★Facebook
  • ★Twitter
  • ★Google+
  • ★Hatena::Bookmark

従来から固定した電気バスへのワイヤレス充電の実用化は検討されているが、今回は初めて屋外の広い範囲を移動する車への高効率な送電を可能とするとともに、将来は走行中の電気自動車への充電を実現できる「移動式ワイヤレス電力電送」の新技術を、龍谷大学 理工学部(粟井郁雄教授グループ)が開発した。

 龍谷大学(理工学部電子情報学科・粟井郁雄教授グループ)は今世界的に注目を集めている次世代の低CO2交通手段・電気自動車(EV)の走行中充電を将来可能とする新技術「移動式ワイヤレス電力伝送」を開発した。従来から固定した電気バスへのワイヤレス充電の実用化は検討されている。また室内の限定した移動範囲での半移動式とも言えるワイヤレス電力電送の開発は一部あったが、今回は初めて屋外の広い範囲を移動する車への高効率な送電を可能とするとともに、将来は走行中の電気自動車への充電を実現できる「移動式ワイヤレス電力電送」の新技術を開発したもの。
 実験では2.45GHzのマイクロ波を絶縁された線路に流し、その上に受電体(方向性結合器)を線路に沿って走らすとコンスタントに線路側の電力を上部の受電体(方向性結合器)に供給することができた。また模型のパトカー下部に同じ受電体をとりつけ、パトカーを線路の上で走らせると、装着した9つのLED(発光ダイオード)ライトを点燈させた。この内容は2009年11月25日から3日間横浜市パシフィコ横浜で開催されるマイクロウェーブ展2009の大学展示において公開する予定。

■開発の背景
 携帯電話に代表される通信機はワイヤレス化で大きな利便性を提供してきた。そして、情報をワイヤレスでやり取りするという枠を越えて電力もワイヤレスで送ろうという要求が次第に高まってきている。ワイヤレス電力伝送は、電気配線のわずらわしさを解消するだけでなく、感電の危険からの解放、給電線の断線の解消など電気機器の利便性、美感、信頼度の向上をもたらすと期待できるため、住宅産業、家電メーカー、電力会社などから大きな注目を浴びている。
 EVの分野においても、電気バスのワイヤレス充電実験も行われるなど、EVの充電への実用化も検討されてきている。しかし電気バスの充電は常駐させる固定式のため、充電中長時間にわたり運転者が待機せねばならず、自動車の走行中に充電が可能なワイヤレス給電法が強く求められていた。今回の「移動式ワイヤレス電力伝送」方式は従来とは異なり、マイクロ波などの高周波を線路に送電するもので、この技術を応用すれば用意された電力線に沿って走っている限り、継続的に充電が可能で、充電中の待機という条件がなくなる。
 さらに、この技術はEVの充電時間の短縮、充電方法の改善の他、電車のパンタグラフの除去、工場内の高機能搬送機器への給電、センサネットワークへの給電等幅広い応用が考えられ、ワイヤレス電力伝送技術の早期開発を促すものだ。

<お問合せ先>
龍谷大学 理工学部 電子情報学科 粟井研究室  電話:077-543-7547

■移動式ワイヤレス電力伝送技術について
 現在、ワイヤレス電力伝送技術は、誘導法、共鳴法、電波伝播法の大きく3つに分類され、いずれも固定式である。誘導法は、IHヒーターなど古くから実用化されており、電波伝播法はアンテナを利用し、宇宙太陽光発電(SPS)が代表的だ。前者は非常に近距離、後者は遠距離用送電を得意としており、上述の例のような中距離の送電には共鳴法が適している。
 この共鳴法は、2007年6月、米国のMIT(マサチューセッツ工科大学)が、1m程離れたコイル間で電力を送り60Wの電燈を光らせることで成功させ、情報伝送ではなく電力伝送に使ってみせたものとして世界を驚かせた。
 共鳴法は2つの共振器を空間的に離して相対させ、共振器間の結合によって電力を伝送するものです。これはあたかも2つのブランコをゆるいバネでつなぎ、片方をゆらすとそのゆれが徐々に他方に伝わって行くのと同じ原理に基づく。現在EVの充電にはこの方式が最も有望であると考えられており、多くの機関でMITなどの発表したこのシステムの追試・改良が試みられつつある。
 しかし上述の3つの方法はすべて送受両者共に位置が固定されており、移動中の装置に対する給電ができない。もし、その移動が3次元的で、かつ無制限の領域にわたるとすると、アレイアンテナ系などによって電波ビームを任意に振るような電波伝搬法によるしかなく、極めて高価、低効率のシステムとなる。また東大、京大、竹中工務店などが室内の限定した移動領域(2次元領域)でのワイヤレス給電の開発を進めているが、屋外の広い範囲を移動する自動車への充電を可能とするような高効率の移動式電力電送を実現するものではない。
 それに対して今回は初めて屋外で走行中の自動車への充電を可能とする移動式ワイヤレス電力電送で、長さに限定のない1次元ワイヤレス給電法を採用し、地上に張った給電線に沿って移動体が動くとき、線から離れない限りどこへ移っても高効率に電力を供給できる特徴を持っている。
 なお、この技術は、2009年9月18日に新潟大学で開催された電子情報通信学会ソサイエティ大会、及び2009年11月8日に大阪大学で開催された電気系学会関西支部連合大会において学会発表している。 

■開発した方式の概要
 今回開発した技術はマイクロ波回路で用いられる方向性結合器をヒントに、2本の線路を小さい距離だけ離して並べたもので、両線路間の電気・磁気結合によって信号をやり取りする方式。方向性結合器においては一方の線路だけに供給した信号が2本の線路の結合部分で他方へと徐々に移り始め、それが最大になった所で両線路を曲げて遠ざけ、信号を他方に流れるままとする。
 しかし通常の方向性結合器はそのままではワイヤレス電力伝送に用いることができないので次のような工夫をした。(図1-システム構造)

(1) 2本の線路間の結合を強くして多くのエネルギーが他方の線路へと移動するように通常のエッジ結合をブロードサイド結合に改めた。しかし2本の線路間の結合を原理とするこの方法では線路を流れる全電力を取り込む事は原理的に不可能であり、それが必要な時は後述(5)の方法を用いる。

(2) 方向性結合器の2線路は対称的に作製するのが普通であるが、ワイヤレス電力伝送では一方はストレート線路として電力伝送を行い、他方は曲げ線路として電力取出しを行う。そのため非対称構造で回路の整合が取れるよう取出し線側を工夫する。

(3) 方向性結合器では回路との整合のための結合部分の線路幅を少し狭くするが、エネルギー伝送では少なくとも電力供給線は一様な幅の線路にする必要がある。従ってその条件を満たした上で整合がとれるように取出し線側を改造した。

(4) 取出し線側では供給線側との距離を可変とし、それによって結合度を変えて取出し電力を制御する。その結果として供給線側の反射を起こさないよう整合回路を調整する。

(5) 単純な方向性結合器だけでなく2本の線路間にリング共振器を挿入する方向性フィルターも利用する事とした。それによって結合度100%が実現され、線路を流れる全電力を取り込むことができる。

■デモ実験の概要
 図2のような線路(電力供給線)と受電体を作製して実験を行いました。受電体は図3のような折り曲げたマイクロストリップ線路によって供給線と電気・磁気結合させ、取り込んだ電力を回路基板の裏側に用意した整流回路(図4)で直流に変換した上でLEDを点燈させる。
 折り曲げたマイクロストリップ線路を電力供給線に対して平行を保ってずらせる限り電力供給線のどの場所でもLEDが点燈することがポイント。両線路は互いに接触しないよう、絶縁体を介して分離されている。
 また、図5は同様な受電体を組み込んだおもちゃのパトカーであり、4つのヘッドライト、4つのテールランプ、1つの天井燈を点燈させることができた。これも上と同じく線路(電力供給線)に沿って動かす限り、どこでも点燈し続けた。電力供給線には1~2[W]の電力を流している。

▼本件に関する問い合わせ先
 龍谷大学 学長室 (広報) 
 TEL: 075-645-7882 (直通)

987 (図1)システム構成図

988 (図2)電力供給線と受電体

989 (図3)結合線路パターン

990 (図4)整流回路パターン

991 (図5)受電体(右)を取り付けたパトカー