- ★Google+
- ★Hatena::Bookmark
東京医科歯科大学難治疾患研究所・分子遺伝分野の吉田清嗣准教授の研究グループは、このたびがんの進展に鍵となるリン酸化酵素をつきとめた。この研究は文部科学省科学研究費補助金などの支援のもとで行われたもので、その研究成果は、米国科学雑誌The Journal of Clinical Investigation(ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション)に、2012年2月6日付オンライン版で発表された。
1. 研究の成果
「がんの進行を制御する仕組みを解明」
―新しいがん治療に向けた標的分子の発見―
【ポイント】
・がんの進行を制御する新たな仕組みを解明
・がんの進行をコントロールしている鍵タンパク質であるリン酸化酵素を発見
・がんの進展や転移などの病態解明と新規治療法開発への応用が期待できる
2. 研究成果の概要と意義
がんは1981年以降本邦の死因第一位であり、現在では二人に一人ががんにかかり、三人に一人ががんで亡くなるという深刻な事態となっている。
がんによる死亡原因の9割はがんの転移であり、転移を抑えることができれば、がんの根治が望め、再発に苦しまなくてすむ可能性が高くなる。転移はがんがある程度大きくなって広がる(増殖・進展・浸潤する)ことで起こりやすくなる。がんがどのように増殖・進展するのかについては、これまでに多くの研究が行われてきており、その一因として細胞周期の異常が知られている。
細胞周期はG1期、S期、G2期、M期からなり、細胞分裂に要する時間は細胞によって異なるが、それはG1期の長さに依存している。多くのがん細胞でG1期が短くなっており、結果として細胞分裂が活発となり、がん細胞がより増殖することが観察されている。しかしその仕組みはよくわかっていなかった。
東京医科歯科大学難治疾患研究所・分子遺伝分野の吉田清嗣准教授の研究グループは、この細胞周期を制御しているリン酸化酵素として新たにDYRK2を発見した。DYRK2は転写因子c-Junやc-Mycをリン酸化し分解を促すことで、適切なタイミングでG1期からS期に移行していることを明らかにした。細胞からDYRK2を取り除くと、c-Junやc-Mycのリン酸化が見られなくなり、分解されずに蓄積することで、G1期が著しく短くなることが観察された。また、このような細胞をマウスに接種すると、腫瘍塊を形成することもわかった。
c-Junやc-Mycの蓄積は多くのがん細胞で認められていることから、ヒトのがん細胞におけるDYRK2の発現について調べた。するといくつかのがん細胞、例えば乳がん、食道がん、大腸がん、腎臓がんなどでDYRK2の発現が低いことが判明した。そこで乳がんについてごく早期のがん(乳管の内部にとどまっているもの;非浸潤がん)と進行したがん(乳管や小葉を包む基底膜を破って外に出ているもの;浸潤がん)に分けて調べたところ、DYRK2の発現は進行したがんで顕著に下がっており、一方c-Junやc-Mycの発現は高くなっていることがわかった。このことから、がんが進行するにつれてDYRK2の発現が下がり、その結果c-Junやc-Mycが蓄積し、がん細胞の増殖が活発となり、がんが進展・浸潤すると考えられる。
この発見により、DYRK2の発現を元に戻すことで、がんの進行を食い止めるような薬剤開発への道が開かれた。また、この研究をさらに発展させることにより、がんが進展・浸潤する詳細な分子機構解明と、がんの転移を抑える新規治療法開発への応用が期待される。
▼本件に関する問い合わせ先
東京医科歯科大学 難治疾患研究所 分子遺伝分野
吉田 清嗣(よしだ きよつぐ)
TEL: 03-5803-5826
E-mail: yos.mgen@mri.tmd.ac.jp
大学・学校情報 |
---|
大学・学校名 東京医科歯科大学 |
住所 東京都文京区湯島1-5-45 |