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武蔵野大学薬学部薬理学研究室が、多彩な効果を発揮する新しい認知症治療薬候補「J147」を発見――認知症の抑制または改善に大きな期待

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武蔵野大学(東京都西東京市/寺崎修学長)薬学部薬理学研究室の阿部和穂教授と赤石樹泰講師は、米国ソーク研究所のDavid Schubert教授らとの共同研究により、新しいメカニズムの認知症治療薬候補「J147」を見出すことに成功した。この研究成果は2011年12月14日付の米科学誌PLoS ONE(プロスワン)に掲載・発表された。

 高齢化の進行によりアルツハイマー病などを原因とする認知症の患者数は増加の一途をたどり、治療法の確立が切望されている。武蔵野大学薬理学研究室では、認知症治療薬の開発をめざした研究の一つとして、ウコン(別名:ターメリック)の主成分であるクルクミンの効果に注目し、化学構造を変えたさまざまなクルクミン誘導体の中から認知症治療に有用な化合物を探索してきた。
 そして2008年、「CNB-001」と名付けられたクルクミン誘導体のひとつが記憶形成を司る脳の海馬の機能を促進し、記憶向上作用を示すことを発見した。
 その後さらに探索を進めた結果、「CNB-001」よりもっと有効と期待される新薬候補「J147」の発見に至った。

 これまでの認知症治療薬研究では、発症に関わると推定される特定のターゲットだけに作用する薬物が探索されてきたが、臨床試験で期待したほどの治療効果が認められず失敗に終わるケースがほとんどであった。そもそも認知症は複雑な要素が絡み合って発症するため、特定のターゲットだけに作用する薬物を用いても十分な効果が得られないものと思われる。
 今回発見された「J147」は、さまざまな角度の薬理試験において高い活性を示す薬物として選び出されたものであり、例えば、次のような効果が認められた。

1)培養神経細胞を用いた実験において、酸化的ストレス負荷、グルコース除去、アミロイドβ蛋白暴露などにより誘導される神経細胞死を強力に抑制した。

2)ラット海馬スライス標本を用いた電気生理学的実験において、記憶形成に関与すると考えられている長期増強(LTP)の誘導を促進した。

3)正常なマウスを用いた各種行動実験(物体再認試験、水迷路試験、Y迷路試験など)において、経口投与で記憶の獲得および保持を促進した。

4)アルツハイマー病モデルマウスにおける記憶障害を経口投与で改善した。このときアミロイド斑などの脳病変には影響なかった。

5)アルツハイマー病モデルマウスで認められる酸化ストレス関連酵素の上昇ならびにシナプス関連タンパクの低下を抑制した。

6)正常なラットおよびアルツハイマー病モデルマウスにおいて、神経細胞の機能維持に関与する脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現を増加させた。

 「J147」は、従来にない多彩な薬効を発揮し、複雑な要素が絡み合って発症する認知症を抑制または改善するものと大いに期待される。

●武蔵野大学薬学部薬理学研究室ホームページ
 http://www.musashino-u.ac.jp/yakugaku/yakuri/m-yakuri-home.html

▼本件に関する問い合わせ先
 武蔵野大学 企画部 企画・広報課
 TEL: 042-468-3142
 FAX: 042-468-3322
 E-mail: kouhou@musashino-u.ac.jp