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立命館大学理工学部 教授・谷 泰弘研究グループ 希少金属・セリウムのガラス研磨における使用量低減技術を開発

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理工学部 教授・谷 泰弘の研究グループは、ガラスの鏡面研磨材として使用されているセリウムの使用量を、低減させる技術を開発した。この研究は、(株)アドマテックス、(株)クリスタル光学、九重電気(株)とともに経済産業省/NEDOから委託を受け平成21年7月より研究を開始している。このたび顕著な研究成果が得られ、サンプル提供を開始することになった。

 理工学部 教授・谷 泰弘の研究グループは、ガラスの鏡面研磨材として使用されているセリウムの使用量を、低減させる技術を開発した。

 希少金属(レアメタル等)は、日本の成長を支える産業にとり必要不可欠な材料であるが、特定産出国への依存度が高く、その供給リスクが経済成長の制約要因となってきている。  

 経済産業省/NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)ではこの対策の一環として平成19年度からインジウム、ディスプロシウム、タングステン、平成21年度からは白金族、セリウム、テルビウム・ユーロピウムの使用量低減技術開発及び代替材料開発を委託事業として実施している。

 立命館大学は、このうちのガラスの鏡面研磨材として使用されているセリウムについて、(株)アドマテックス(本社:愛知県みよし市 代表取締役:安部 賛)、(株)クリスタル光学(本社:滋賀県大津市 代表取締役社長:桐野 茂)、九重電気(株)(本社:神奈川県川崎市 代表取締役:篠塚 豊)とともにNEDOから委託を受け平成21年7月より研究を開始している。

 このたび顕著な研究成果が得られ、サンプル提供を開始することになったので、ご報告申し上げます。

1.研究体制および研究内容

 研究開発は立命館大学、(株)アドマテックス、(株)クリスタル光学、九重電気(株)が協力して、砥粒、メディア粒子、工具、プロセス技術の研磨における4要素に関して、酸化セリウム砥粒の使用量を低減することを目的に行っている。

 具体的には、母粒子の周囲に砥粒を付着させた複合砥粒の開発、新しい研磨技術である複合粒子研磨法の採用とメディア粒子の開発、高機能な研磨パッド(工具)の開発、化学作用を援用した研磨技術の開発などである。

 研究開発の中核の大学と、砥粒製造企業、研磨パッド製造企業、研磨装置製造企業(研磨専門業者でもある)の垂直連携体制により研究開発を実施している。

2.研究成果

■多孔質エポキシ樹脂研磨パッド

 従来ガラス研磨においては工具として多孔質ウレタン樹脂研磨パッドが使用されてきた。

 プロジェクトチームにおいてガラス研磨に最適な研磨パッド材質の精査を行った結果、研磨パッド材質にエポキシ樹脂を適用した場合、従来研磨の2倍を超える驚くべき研磨能率が達成されることが判明した。

 このことは酸化セリウムの使用量を半減させるばかりではなく、研磨コストの大幅な低減につながる成果である。エポキシ樹脂は研磨パッド材質としてこれまで全く検討されなかった素材である。

 九重電気(株)において、この素材を用いた多孔質エポキシ樹脂研磨パッドの工業的製造の検討を行ってきた結果、このほど500mm角までの多孔質エポキシ樹脂研磨パッドのサンプル提供が可能となった。

 多孔質エポキシ樹脂研磨パッドと酸化セリウム砥粒との組み合わせで、2倍以上の研磨能率を達成するということは、従来は酸化セリウム砥粒よりも研磨能率が低く採用されてこなかった研磨材(砥粒)であっても、多孔質エポキシ樹脂研磨パッドと組み合わせれば、使用が可能になることを意味している。
 事実、光学ガラスの研磨に使用されているジルコニア砥粒は多孔質ウレタン樹脂パッドでは酸化セリウムに対して4割程度の研磨能率であるが、多孔質エポキシ樹脂研磨パッドと組み合わせることで、従来研磨をはるかに上回る研磨能率を達成する。
 今後酸化セリウム砥粒の入手が困難となる事態が発生した場合、この組み合わせで砥粒の代替が可能となる。

■有機無機複合砥粒

 もともと酸化セリウム砥粒は比重が7程度と重いために分散性が悪く、またガラス質工作物との親和性が高いために工作物の洗浄が難しいという問題点があった。そこで、プロジェクトチームではコア(母粒子)に有機物を用い、その周囲に砥粒を付着させたコアシェル構造の有機無機複合砥粒を開発してきた。

 複合砥粒の母粒子の種類の検討と最適化を進めてきた結果、研磨能率を50%改善することに成功した。また同時に(株)アドマテックスにおいて複合砥粒の工業的製造方法の検討を行った結果、1kg単位のサンプル提供が可能になっている。複合砥粒を使用した研磨においては上記のように洗浄性が高く工作物や研磨盤の汚れが少なくなるのみでなく、形状精度(平面度やうねり等)が改善されるという効果も確認されている。