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【兵庫県立大学・宮崎大学】細胞外小胞がケルセチンの吸収性や機能性を高める可能性を発見

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石坂朱里助教、村上明教授(兵庫県立大学環境人間学部)、山崎正夫教授(宮崎大学農学部)らの研究グループは、タマネギなどの野菜や果物類に広く含まれるケルセチンの体内への吸収機構や機能性発現機構についての新しい知見を論文発表しました。

 石坂朱里助教、村上明教授(兵庫県立大学環境人間学部)、山崎正夫教授(宮崎大学農学部)らの研究グループは、タマネギなどの野菜や果物類に広く含まれるケルセチンの体内への吸収機構や機能性発現機構についての新しい知見を論文発表しました。
 ケルセチンは、抗動脈硬化作用や抗肥満作用など多彩な生理機能性を示すポリフェノールの一種で、機能性食品の有効成分として期待されています。その反面、体内への吸収効率が極めて低く、また化学的に分解しやすい特性を持つにも関わらず脳内にまで移行するなど、吸収機構について未解明な側面がありました。
 一方、血液や尿などの体液中には、直径30-2000 nmの細胞外小胞(extracellular vesicles, EV)と呼ばれる極小の小胞が存在し、細胞間コミュニケーションにおいて重要な役割を果たしています。EVには核酸やタンパク質などの機能性分子が内包されていることはすでに知られていますが、ケルセチンなどポリフェノールの存在は報告されていませんでした。
 以上を背景として本研究では、培養細胞や実験動物に投与したケルセチンがEVに内包され、体内を循環する可能性について検証しました。まず、大腸がん細胞にケルセチンを添加し、一定時間培養後、培地中に残存するケルセチンを除去し、培養を続けました。その後、細胞から分泌されたEV内の成分を飛行時間型質量分析装置で精密分析したところ、ケルセチンや代謝産物の存在が確認できました。また、ケルセチンを経口投与したラット血清中EVにケルセチンと代謝産物が含まれていることも証明しました。
 さらに、大腸がん細胞の培地中から調製したEVにケルセチンを内包させると、化学的な安定性は有意に増加しました。このEV内包ケルセチンは、通常の遊離状態に比べて免疫細胞への取り込み効率が極めて高く、抗炎症活性も強いことも判明しました。
 以上から、経口摂取したケルセチンが消化管内でEVに内包され、効率よく吸収された後は安定した状態で体内を循環し、末梢組織で機能性を発現する可能性が示唆されました。
 これらの研究成果は、2023年9月6日にMolecular Nutrition & Food Research誌(Impact Factor 6.5)でオンライン掲載されました。

【本研究成果のポイント(詳細は別添のとおり)】
1.ポリフェノールの1種であるケルセチンを大腸がん細胞へ添加すると、一定時間後に、ケルセチンや代謝産物を含むEVが分泌されることを見出した。
2.ケルセチンをラットに投与すると、その血清のEV中にケルセチンやその代謝産物が存在することを証明した。
3.ケルセチンは水溶液中で化学的に分解しやすい性質を持っているが、EVに内包させると安定性や細胞への取り込み効率が顕著に増加した。
4.EVに内包させたケルセチンは、より低濃度で免疫細胞における炎症反応を抑制し、EVに内包されていない遊離のケルセチンに比べ遥かに高い抗炎症活性を示した。