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新型コロナウイルスに対する消毒薬の効果を検証 日常生活におけるSARS-CoV-2感染予防に有用な製品を評価 -- 北里大学(9月1日)

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北里大学大村智記念研究所ウイルス感染制御学I研究室戸高玲子研究員、芳賀慧特任助教、澤田成史助教、片山和彦教授は、2020年4月17日に公表した「医薬部外品および雑貨の新型コロナウイルス不活化効果について」に続き、市場に流通している医薬部外品・雑貨および医療現場で使用されている消毒剤の、新型コロナウイルス不活化検証試験を行い、その効果を調査、発表しました。本研究成果は、医療現場及び日常生活におけるSARS-CoV-2の感染を抑え、感染制御を確実に実行する指針となることが期待できます。本研究は、専門雑誌『感染制御と予防衛生』(メディカルレビュー社)に2020年9月1日掲載されます。

【研究の背景】
 2019年12月、中国の武漢市に端を発する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大が続いている中、感染拡大を防ぐためには手指の消毒、生活環境のなかで人が触れる物の消毒、医療機関では院内感染防止のために、患者に使用した医療機器等の消毒ならびに院内環境の消毒などがきわめて重要です。また、日常生活の中で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染予防を行うことは、私達が健康な生活を営む上でとても大切です。
 そこで、本研究では、4月に発表した市販雑貨品の新型コロナウイルスに対する消毒効果に関する研究を更に発展させ、より多くの製品の評価を行いました。最初にエタノールと次亜塩素酸ナトリウムのSARS-CoV-2に対する不活性化効果を、次にインフルエンザなどの不活性化に有効とされている各種洗剤の原材料である界面活性剤のSARS-CoV-2に対する消毒効果を調べました。また、実際に病院で用いられている消毒剤、家庭で多用されており、市場に豊富に出回っている市販ハンドソープ、手指衛生用品のSARS-CoV-2の消毒効果を調べました。さらに、ボトル製品として販売されている次亜塩素酸水や亜塩素酸水系雑貨品のSARS-CoV-2消毒効果を調べました。

【研究結果】
1.市販雑貨品のSARS-CoV-2不活性化効果(表1)
 市販雑貨品のSARS-CoV-2不活性化効果について調査しました。市販のアルコール系消毒剤は、アルコール濃度50%以上の製品であれば30,000個の新型コロナウイルスを完全に消毒することが可能でした。またハンドソープ系、台所洗剤類、お掃除ならびにふき取り系製品においても、製品の使用方法に従って使用すれば、新型コロナウイルスを完全に消毒することが可能であることが明らかになりました。
 一方、二酸化塩素系、次亜塩素酸水系の製品は、製品の劣化がないことを確認してから、試験を実施しましたが、30,000個の新型コロナウイルスを完全に消毒することができないことが明らかになりました。

表1:市販製品のSARS-CoV-2不活性化効果 (1分間処理)※下記PDF「表1:市販製品のSARS-CoV-2不活性化効果 (1分間処理)」をご覧ください。

2.エタノールと次亜塩素酸ナトリウムのSARS-CoV-2不活性化効果
 新型コロナウイルスを30,000個含むウイルス液を、約10倍の容量の70%、50%、40%、30%の濃度のエタノールと混合して、1分間、または、10分間置き、消毒効果を調べました。70%、50%濃度のエタノールで1分間処理することで完全消毒が可能でしたが、40%、30%では消毒が不十分で、生き残ったウイルスが増殖して細胞を死滅させてしまいました(不十分)。30%のエタノールでは、10分間処理しても、消毒は不十分でした。
 次亜塩素酸ナトリウム水溶液でも、0.5(5,000ppm)、0.15(1,500ppm)、0.1(1,000ppm)、0.05(500ppm)、0.01(100ppm)の5段階の濃度の水溶液を作り、1分間および10分間の消毒処理を行いました。1分間接触では0.15(1,500ppm)以上、10分間接触では0.1(1,000ppm)以上の濃度の水溶液で完全に消毒できることが分かりました。しかし、厚生労働省が推奨する0.05(500ppm)濃度の水溶液では、10分間処理しても消毒が不十分で、生き残ったウイルスが細胞を死滅させてしまうことが分かりました。1分間で完全にウイルスを消毒するためには、0.15%(1500ppm)の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用する必要があることが明らかになりました。

3.界面活性剤のSARS-CoV-2不活性化効果
 新型コロナウイルスは、表面にあるエンベロープを壊すと、感染性がなくなります。家庭用のハンドソープや中性洗剤、洗濯石鹸の原料として使われる界面活性剤類の新型コロナウイルス不活性化効果について調べました。
 陰イオン系界面活性剤(以下「陰イオン系」という)2剤、非イオン系界面活性剤(以下「非イオン系」という)2剤、両性イオン系界面活性剤(以下「両性イオン系」という)1剤、陽イオン系界面活性剤(以下「陽イオン系」という)1剤の濃度を、0.1%、0.05%ならびに0.01%(いずれもV/V(容量%))の濃度に設定し、1分間および10分間、30,000個の新型コロナウイルスと接させ、その効果を調べました。1分間接触では、非イオン系アルキルグリコシド、は0.1%、両性イオン系アルキルアミンオキシド、陽イオン系塩化ベンザルコニウムについては0.05%および0.1%で完全消毒が可能でした。10分間接触では陰イオン系直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムは0.1%、非イオン系アルキルグリコシド、両性イオン系アルキルアミンオキシドは0.05%および0.1%、陽イオン系塩化ベンザルコニウムについては0.01%で完全消毒が可能でした。

4.医療現場で使用されている消毒剤のSARS-CoV-2不活性化効果
 医療現場での消毒の参考としていただくため、医療現場で使用されている製品の検証を行ったところ、SARS-CoV-2の不活性化効果が不十分な製品が散見され、医療機器の消毒方法の見直しが必要だと思われる結果となりました。

【まとめ】
 エタノールは、50%以上の濃度で30,000個の新型コロナウイルスをほぼ完全に消毒可能でした。次亜塩素酸ナトリウムは、十分な消毒効果を得るためには1,500ppm以上の濃度が必要でした。一般市販医療器具消毒剤は、SARS-CoV-2の不活性化効果が不十分な製剤が散見され、医療機器の消毒方法の見直しが必要だと思われました。第一報に加え、さまざまな身近な市販雑貨品について調べたところ、洗剤系の製品は、ほとんどの製品で十分な消毒効果を確認できました。本研究で得られた情報を、日常生活上、SARS-CoV-2の感染を最小限に抑え、感染制御を確実に実行するために活用していただきたいと思います。

【評価方法】
 新型コロナウイルス感染性粒子10,000個/μLのウイルス液3μL(感染性ウイルス粒子30,000個)を27μLの試験対象液と混合し、常温で1分間または10分間接触させました。その後、細胞を培養に用いる培地を270μL添加して、消毒反応を止め、細胞に感染させ、6日目まで観察を続けました。細胞が死滅せず、培養上清のリアルタイムRT-PCRでウイルスRNA量の増加が確認されなかった場合、屋試験対象液によって、30,000個の感染性ウイルスの感染力を完全に消し去ることができた(完全消毒ができた)と判定しました。

・使用した新型コロナウイルス株:
 2019-nCoV JPN/TY/WK-521 (国立感染症研究所)
 JPN/Kanagawa/KUH003(北里大学病院)
・使用した細胞:Vero-E6/TMPRSS2 (JCRB細胞バンク)

 本研究は、新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業・「新型コロナウイルスの増殖機構の理解と治療剤開発に関する研究」(研究代表・国立感染症研究所・竹田誠)研究参加者である片山和彦の担当課題「天然物ライブラリーからの抗新型コロナウイルス薬開発」のために構築した''抗ウイルス作用(ウイルス不活性化効果)を示す物質を選別するための評価システム''を利用して実施しました。また、本研究は「COVID-19対策北里プロジェクト」への寄付によって実施されました。

▼問い合わせ先
≪報道に関すること≫
 〒108-8641 東京都港区白金5-9-1
 TEL: 03-5791-6422
 E-mail: kohoh@kitasato-u.ac.jp

◎北里研究所は法人の理念*1に則り「COVID-19対策北里プロジェクト」を通じて、新型コロナウイルス治療薬の早期探索を推進しています。詳しくは、ホームページでご覧ください。
 https://www.kitasato.ac.jp/jp/about/activities/covid-19/index.html

*1:学校法人北里研究所の理念:いのちを尊(たっと)び、生命の真理を探究し、実学の精神をもって社会に貢献する。