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北里大学獣医学部(青森県十和田市)の小倉匡俊准教授、同学部生の小林美晴、三浦明子、弘前市弥生いこいの広場の三上渉(それぞれ所属は研究当時)の研究グループは、飼育下ニホンザルの動物福祉に配慮する手法として、環境エンリッチメントにより群内の攻撃行動の頻度を減少させる効果を実証しました。この研究成果は、2025年7月10日付で、国際学術誌「Primates」に掲載されました。
■研究成果のポイント
・環境エンリッチメントの実施により、飼育下ニホンザルの群内の攻撃行動を減らすことができる。
・攻撃行動の減少効果は、給餌場所の増加により群内の個体が分散することによってもたらされる。
・動物福祉の評価の枠組みである5つの領域モデルに当てはめると、ニホンザルの動物福祉が改善されていると評価できる。
・環境エンリッチメントの実施により、飼育下ニホンザルの群内の攻撃行動を減らすことができる。
・攻撃行動の減少効果は、給餌場所の増加により群内の個体が分散することによってもたらされる。
・動物福祉の評価の枠組みである5つの領域モデルに当てはめると、ニホンザルの動物福祉が改善されていると評価できる。
■研究の背景
動物福祉に対する配慮は、動物に関わるさまざまな分野で重要視されています。その評価の枠組みとして、特に動物園業界では「5つの領域モデル」が採用されています。ニホンザルは多くの動物園で飼育されていますが、給餌のタイミングに合わせて同時に採食するため、餌を巡った攻撃行動が起こりがちです。また野生での生息環境に比べると飼育環境は狭くならざるを得ず、利用空間が限られるため、攻撃行動から十分に逃げることができず過度にエスカレートすることがあります。これらの点が原因となって、低順位個体がケガを負い、動物福祉が損なわれることがよく起こります。そこで本研究の研究者らは、この問題を解決する方法として環境エンリッチメントに着目し、攻撃行動の頻度を減少させる効果を確かめるとともに、5つの領域モデルに当てはめた福祉評価を実施しました。
動物福祉に対する配慮は、動物に関わるさまざまな分野で重要視されています。その評価の枠組みとして、特に動物園業界では「5つの領域モデル」が採用されています。ニホンザルは多くの動物園で飼育されていますが、給餌のタイミングに合わせて同時に採食するため、餌を巡った攻撃行動が起こりがちです。また野生での生息環境に比べると飼育環境は狭くならざるを得ず、利用空間が限られるため、攻撃行動から十分に逃げることができず過度にエスカレートすることがあります。これらの点が原因となって、低順位個体がケガを負い、動物福祉が損なわれることがよく起こります。そこで本研究の研究者らは、この問題を解決する方法として環境エンリッチメントに着目し、攻撃行動の頻度を減少させる効果を確かめるとともに、5つの領域モデルに当てはめた福祉評価を実施しました。
■研究内容と成果
本研究は弘前市弥生いこいの広場で飼育されているニホンザルの群れを対象としました。この群れは、側面と天井をフェンスで囲われたケージ状の展示場で飼育されています。10個体から成る群れのうち、低順位である2個体が、他個体からの攻撃によりケガを負っていました。この群れに対し、①消防ホースを張り巡らせ、天井に樹木の枝葉を置く、②竹やアクリルで作った餌を入れる容器をケージ外部の高い位置に吊すとともに、そこから落ちた餌を受ける板を下部に設置する、③藁と細かく切った餌をトロ船に入れて床に置く、の3種類の環境エンリッチメントを順に実施しました。群内での攻撃行動の頻度と、個体の利用場所を記録し、通常の飼育条件と比較しました
本研究は弘前市弥生いこいの広場で飼育されているニホンザルの群れを対象としました。この群れは、側面と天井をフェンスで囲われたケージ状の展示場で飼育されています。10個体から成る群れのうち、低順位である2個体が、他個体からの攻撃によりケガを負っていました。この群れに対し、①消防ホースを張り巡らせ、天井に樹木の枝葉を置く、②竹やアクリルで作った餌を入れる容器をケージ外部の高い位置に吊すとともに、そこから落ちた餌を受ける板を下部に設置する、③藁と細かく切った餌をトロ船に入れて床に置く、の3種類の環境エンリッチメントを順に実施しました。群内での攻撃行動の頻度と、個体の利用場所を記録し、通常の飼育条件と比較しました
その結果、3種類すべての環境エンリッチメントにおいて攻撃行動を減らす効果が確認されました。攻撃行動を種類ごとに分けて詳しく見ると、身体の直接的な接触を伴う「激しい攻撃」と、攻撃的ではない他個体の接近に対して場所を譲る「回避」が共通して減少していました。個体の利用場所は、通常の飼育条件では天井に最も近い高さがよく利用されていたのに対し、①の条件ではそこからやや低い場所の利用が増加していました。②と③の条件では天井に最も近い高さの利用が減少しており、これは最も低い高さである床面から通じる室内居室の利用が増えているためであると考えられました。
これらの結果から、本研究で試した環境エンリッチメントの目的である、攻撃行動の頻度の減少が確かめられました。その背景には個体の利用場所を分散させる効果がありました。また5つの領域モデルに当てはめると、「環境の領域」においてはケージ内の利用空間が増えていること、「身体の健康の領域」においてはケガの減少が見込まれること、「行動の領域」においては高い場所へ登る行動や高い場所で採食する行動など野生環境での自然な行動が促されたこと、「精神的領域」においては回避の減少から他個体に対して抱く恐怖や不快が減少していると推測されることから、総体的に動物福祉が改善していると言えます。
これらの結果から、本研究で試した環境エンリッチメントの目的である、攻撃行動の頻度の減少が確かめられました。その背景には個体の利用場所を分散させる効果がありました。また5つの領域モデルに当てはめると、「環境の領域」においてはケージ内の利用空間が増えていること、「身体の健康の領域」においてはケガの減少が見込まれること、「行動の領域」においては高い場所へ登る行動や高い場所で採食する行動など野生環境での自然な行動が促されたこと、「精神的領域」においては回避の減少から他個体に対して抱く恐怖や不快が減少していると推測されることから、総体的に動物福祉が改善していると言えます。
■今後の展開
本研究の成果が動物園で飼育されているニホンザルの飼育現場へ適用されることで、群内の攻撃行動が減少し、ケガを負うことが少なくなる、ひいては動物福祉が改善されると期待されます。またニホンザルは動物園のみならず、実験動物としても多くの個体が飼育されます。このような個体に対しても本研究の成果を応用していくことができます。
本研究の成果が動物園で飼育されているニホンザルの飼育現場へ適用されることで、群内の攻撃行動が減少し、ケガを負うことが少なくなる、ひいては動物福祉が改善されると期待されます。またニホンザルは動物園のみならず、実験動物としても多くの個体が飼育されます。このような個体に対しても本研究の成果を応用していくことができます。
■論文情報
掲載誌:Primates
論文名:Five-domain-based evaluation of environmental enrichment in Japanese macaques (Macaca fuscata) to reduce aggressive behavior
(ニホンザルの攻撃行動を減らすための環境エンリッチメントの5つの領域モデルに基づく評価)
著 者:小倉匡俊、小林美晴、三浦明子、三上渉
DOI:10.1007/s10329-025-01205-4
原 文:https://rdcu.be/evKVI
掲載誌:Primates
論文名:Five-domain-based evaluation of environmental enrichment in Japanese macaques (Macaca fuscata) to reduce aggressive behavior
(ニホンザルの攻撃行動を減らすための環境エンリッチメントの5つの領域モデルに基づく評価)
著 者:小倉匡俊、小林美晴、三浦明子、三上渉
DOI:10.1007/s10329-025-01205-4
原 文:https://rdcu.be/evKVI
■用語解説
※ 環境エンリッチメント:
動物福祉に配慮して飼育するためのさまざまな工夫の総称。その様式や目的に応じて「採食エンリッチメント」「物理エンリッチメント」「社会エンリッチメント」「感覚エンリッチメント」「認知エンリッチメント」の、排他的ではない5つのカテゴリーに分類される。
※ 動物福祉:
※ 環境エンリッチメント:
動物福祉に配慮して飼育するためのさまざまな工夫の総称。その様式や目的に応じて「採食エンリッチメント」「物理エンリッチメント」「社会エンリッチメント」「感覚エンリッチメント」「認知エンリッチメント」の、排他的ではない5つのカテゴリーに分類される。
※ 動物福祉:
動物の幸福の状態を指す概念。人による動物の利用を認めた上で、動物の状態を科学的に捉えていく。世界動物保健機関(WOAH)によると「動物の生活と死の状況に関連した動物の身体的および精神的状態」と定義される。
※ 5つの領域モデル:
動物福祉を理解し、評価するためのモデルの一つ。世界動物園水族館協会(WAZA)による動物福祉戦略で採用されている。「栄養の領域」「環境の領域」「身体の健康の領域」「行動の領域」の4つからなる「身体的/機能的領域」が「精神的領域」に作用し、「精神的領域」の状態によって動物福祉が決定される。また各領域において正の状態と負の状態が定義されている。
※ 5つの領域モデル:
動物福祉を理解し、評価するためのモデルの一つ。世界動物園水族館協会(WAZA)による動物福祉戦略で採用されている。「栄養の領域」「環境の領域」「身体の健康の領域」「行動の領域」の4つからなる「身体的/機能的領域」が「精神的領域」に作用し、「精神的領域」の状態によって動物福祉が決定される。また各領域において正の状態と負の状態が定義されている。
■問い合わせ先
【研究に関すること】
北里大学獣医学部動物資源科学科 動物行動学研究室
准教授 小倉 匡俊(おぐら ただとし)
e-mail:togura@vmas.kitasato-u.ac.jp
【報道に関すること】
学校法人北里研究所 広報室
TEL:03-5791-6422
e-mail:kohoh@kitasato-u.ac.jp
准教授 小倉 匡俊(おぐら ただとし)
e-mail:togura@vmas.kitasato-u.ac.jp
【報道に関すること】
学校法人北里研究所 広報室
TEL:03-5791-6422
e-mail:kohoh@kitasato-u.ac.jp
大学・学校情報 |
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大学・学校名 北里大学 |
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URL https://www.kitasato-u.ac.jp/ |
住所 〒108-8641 東京都港区白金五丁目9番5号 |
学校法人北里研究所が設置する北里大学は、北里柴三郎を学祖とする生命科学の総合大学で、「開拓」「報恩」「叡智と実践」「不撓不屈」を建学の精神としています。2015年12月、大村智特別栄誉教授が「線虫感染症の新しい治療法の発見」によりノーベル生理学・医学賞を受賞。2024年7月、20年振りに刷新された新千円札の肖像画に北里柴三郎が採用された。 |
学長(学校長) 砂塚 敏明 |