北翔大学

不全心筋エネルギー産生の低下をもたらす機序および治療候補物質の同定に成功 ~心不全治療への貢献に期待~【北翔大学】

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北海道大学医学研究院の高田真吾博士研究員(現:北翔大学生涯スポーツ学部准教授/「高」は正しくは「はしごだか」(以下同))、九州大学大学院医学研究院循環器内科学の絹川真太郎准教授、北海道大学の佐邊壽孝名誉教授(現:北海道大学遺伝子病制御研究所客員教授)らの共同研究グループは、マウスモデルを用い、慢性心不全における心筋ミトコンドリアエネルギー産生能低下の主原因となる代謝変化を捉えることに世界で初めて成功した。また、代謝変化を補完する代謝物の投与は、心不全での心筋ミトコンドリアのエネルギー産生能、心機能、全身の運動能力および生存率の低下を改善した。今回の研究成果は、特定の栄養素を基盤とする「より自然な」慢性心不全治療薬の開発に対し、基礎医学的妥当性を与えるものとなる。本研究成果は、米国時間2022年10月6日(木)公開の『米国科学アカデミー紀要』(PNAS / Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)に掲載された。

■ポイント
・慢性心不全心筋エネルギー産生能低下のメカニズムを解明することに成功。
・低下したエネルギー産生能を回復できる栄養素を同定。
・新規慢性心不全治療の開発を可能とする学問的裏付け(科学的根拠)。

【背景】
 心不全は、わが国をはじめ先進諸国において死因の上位を占める。数多くの心不全治療薬が既に存在し市販されているが、患者の生存率は十分ではない。エネルギー産生の中核であるミトコンドリアでのエネルギー産生能の低下は心不全の発症・進展と深く関係することが知られている。一方、慢性心不全におけるエネルギー関連代謝に関しては不明な点が多く残されている。特に、エネルギー産生能低下との因果関係を示した研究はこれまでなかった。今回、慢性心不全における心筋ミトコンドリアエネルギー関連代謝変化、ならびに、当該変化と心筋ミトコンドリアエネルギー産生能低下との因果関係に関する研究を行なった。慢性心不全治療に新機軸を提示することを目的とした。

【研究手法】
 慢性心不全モデルとして、左冠状動脈を結紮し心筋梗塞を起こさせたマウスが広く用いられている。まず、冠状動脈結紮後28日目の慢性心不全マウス(以下、心不全)から単離した心筋ミトコンドリアを用い、TCA回路(クエン酸回路)代謝中間体の定量解析を行なった(梗塞部やその周辺領域は解析から排除した)。心筋の代謝産物の定量解析、ならびに、酵素量の発現変化を解析した。明らかになった代謝変化を修正する方法および栄養素(代謝産物)の心不全に対する効果(ミトコンドリア機能、心機能、全身運動能力、生存率)を検証した。動物実験は北海道大学の当該する委員会にて承認されており、動物愛護法令を遵守して行なった。

【研究成果】
 心不全マウス心筋では対照群に比して、TCA回路代謝中間体の中でスクシニルCoAだけが量的低下した。心不全マウス心筋ミトコンドリアでは酸化的リン酸化能が低下していることは以前に報告したが(Maekawa S, Takada S (Corr). Cell Commun Signal 2019)、今回の実験においても同様に確認された。心不全マウス心筋から単離したミトコンドリアにスクシニルCoAを直接添加すると、酸化的リン酸化能が回復した。心不全マウス心筋ミトコンドリアを用いたスクシニルCoA関連酵素群の解析から、スクシニルCoAを消費するヘム合成に着目した。ミトコンドリア酸化的リン酸化の中核であるヘムはスクシニルCoAとグリシンの縮合物である。一方で、ヘムの過剰投与は心筋障害を起こすことから、我々はヘムの前駆体5-アミノレブリン酸(5-ALA、アミノ酸)を心不全マウスへ投与した。冠状動脈結紮(心筋梗塞手術)直後からマウスに一定量の5-ALAを日々飲ませたところ、心不全における心筋ミトコンドリア機能、心機能、全身運動能、生存率が改善した。

 一連の研究成果は、(1)スクシニルCoA量低下が心不全マウス心筋ミトコンドリアエネルギー産生能低下の主原因であること、(2)この低下は過剰なヘム合成が主因と考えられること、(3)5-ALA添加はミトコンドリアエネルギー産生を回復させ、心不全進行を抑制すること を実験実証した。マウスで見出されたスクシニルCoA関連酵素群の変化はヒト心不全に関するdatabaseにおいても同様であった。

【今後への期待】
 さまざまな治療薬が開発され臨床で使われるが、心不全患者数は今後ますます増加すると考えられている。今回の研究成果は栄養的介入による心不全治療の妥当性と有効性に関し、医学的生化学的裏付けを与えるものである。栄養的介入という、より自然な心不全治療薬開発に対し学問的妥当性を担保し得るものである。また、この研究結果の一部は国際特許出願(PCT/JP2019/025885、日本、米国、欧州)を行なっており、今後の臨床応用が期待される。

■論文情報
・論文名:Succinyl-CoA-based energy metabolism dysfunction in chronic heart failure
・著者名:高田 真吾1,2、前川 聡1、降旗 高明1、角谷 尚哉1、瀬戸山 大樹3,4、植田 幸嗣5、南部 秀雄1、萩原 光1、半田 悠1、麓 佳月1、畑 宗一郎1、増永 智哉3、福島 新1、横田 卓1、康 東天3,4、絹川 真太郎3、佐邊 壽孝1,5
(北海道大学大学院医学研究院1、北翔大学生涯スポーツ学部スポーツ教育学科2、九州大学大学院医学研究院3、九州大学病院検査部4、公益財団法人がん研究会5、北海道大学遺伝子病制御研究所6)
・雑誌名:米国科学アカデミー紀要(PNAS / Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America) ※数理科学自然科学全般の専門誌
・DOI: https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2203628119
・公表日:米国時間2022年10月6日(木)(オンライン公開)

▼研究に関する問い合わせ先
 北翔大学生涯スポーツ学部スポーツ教育学科
 高田真吾(たかだしんご)准教授
 TEL:011-387-3915
 FAX:011-387-7865
 メール:s-takada@hokusho-u.ac.jp; s-takada@hotmail.co.jp
 URL: https://www.health-medicine-science-pi-shingo-takada.com/

▼本件に関する問い合わせ先
 北翔大学 総務部
 〒069-8511 北海道江別市文京台23番地
 TEL:011-386-8011(代表)
 FAX:011-387-1542
 E-Mail:research@hokusho-u.ac.jp

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