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【玉川大学量子情報科学研究所】世界最高峰の国際会議で注目を集める研究成果 量子技術の有望な応用として期待! 世界最高速50ギガビット毎秒での量子乱数発生器の実証に成功 

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玉川大学量子情報科学研究所(東京都町田市玉川学園6-1-1 所長:相馬正宜)の谷澤健教授と加藤研太郎教授と二見史生教授は、世界最高速の50ギガビット毎秒(1)で真に予測不可能な乱数(2)を発生する量子乱数発生器(3)の実証に成功した。真にランダムな性質をもつ真空場揺らぎ(4)を高速かつ並列に測定・処理することで、これまでにない高速の乱数発生を実現した。近年注目を集めている量子技術の有望な応用であり、通信のセキュリティ向上や大規模な数値シミュレーションなど様々な用途への適用が期待できる。
※注は本文下部の注釈・用語をご参照ください。

 本成果の詳細は、2023年3月5日(日)から9日(木)まで米国カリフォルニア州サンディエゴで開催された光ファイバ通信分野のトップカンファレンスであるOFC(The Optical Networking and Communication Conference & Exhibition)のポストデッドラインペーパー(PDP)*に採択され、同会議の最終日に発表された。国内の大学単独で行われた研究に限れば、少なくともこの10年PDPに採択された実績はなく、大変な快挙である。
*学会の一般論文投稿の締め切り後(ポストデッドライン)に、当該分野の最新技術による最高性能を競う目的で受け付けられる論文。学会期間中の論文選考において高く評価された研究成果のみが採択され、学会最終日の目玉として、最終セッションにて発表される。

■学会発表(PDP):
K. Tanizawa, K. Kato, and F. Futami, ''Real-time 50-Gbit/s Spatially Multiplexed Quantum Random Number Generator Based on Vacuum Fluctuation,'' Optical Fiber Communication Conference and Exhibition (OFC 2023), paper Th4A.8, San Diego, Mar. 2023.

【今回の成果】
 真に予測不可能な乱数は、通信のセキュリティ向上や大規模な数値シミュレーションなどへの応用に不可欠な技術である。量子力学によりランダム性が担保された現象を用いて乱数を生成する量子乱数発生器が、量子技術の応用の一つとして近年注目されている。レーザ光とビームスプリッタ(BS)(5)を使って測定した真空場揺らぎ、つまりレーザ光の量子雑音(6)を利用した量子乱数発生は、比較的簡便な構成で高速の乱数発生を実現できる。これまで、18.8ギガビット毎秒の最高生成速度が報告(7)されていた。
 今回、我々は真空場揺らぎに基づく量子乱数発生器が、多段のBSを用いてレーザ光を分岐することで並列に動作可能であるということに着目した。そして、4チャネル並列かつ各チャネル2ギガヘルツを超える広帯域に真空場揺らぎを測定し、乱数抽出のために並列で後処理を行い、高速に乱数を発生することに成功した。4チャネル合計の生成速度は50ギガビット毎秒となり、これまでの報告の約2.6倍を達成した。出力乱数を米国NISTの定めた検定であるNIST SP800-90B(8)により評価し、良質な乱数であることを確認した。
 本成果の一部は、防衛装備庁が実施する安全保障技術研究推進制度JPJ004596の支援を受けた。

【背景】
 コンピュータやインターネットの爆発的な普及に代表されるように、情報処理・通信技術は我々の生活の利便性の向上に大きく貢献してきた。この情報処理・通信にパラダイムシフトを起こす技術として、最近、量子技術が世界的に注目を集めている。我々は量子技術の応用の一つである量子乱数発生を用いることで、我々が光通信システムの安全性の向上のために長年研究を推進してきたY-00光通信量子暗号(9)の安全性を向上する手法を見出した。そこでは、10ギガビット毎秒を大きく上回るような量子乱数発生技術が必要となる。高速の量子乱数発生を実現できる有望な技術として、レーザ光とBSを使って測定した真空場揺らぎ、つまりレーザ光の量子雑音を利用した乱数発生源を用いる手法がある。これまでの最高生成速度は18.8ギガビット毎秒であった。この速度限界を打破するために、我々は、多段のBSを使って一つのレーザ光を分岐して量子乱数発生器を並列化する方法に着目した。並列化により高速化を実現するためには、各チャネルが広帯域で動作する状況を維持したまま、チャネル数を拡大する必要がある。

【実験の詳細】
 図1に真空場揺らぎの測定に基づく量子乱数発生器のシステム構成を示す。図1(a)は、BSとバランス光検出器(BPD)(10)を用いた基本となる単体の構成である。BSの片側ポートのみからレーザ光を入射する。二分岐したレーザ光は独立であるため、それぞれの光の量子雑音は独立である。よって、これらの差分であるBPDの出力は、真空場揺らぎとなる。この真空場揺らぎをアナログデジタル変換器(ADC)でデジタル化した後に、乱数抽出処理としてランダムなビットで構成されるテプリッツ行列(11)との乗算を行うことで、乱数出力を得る。多段に光を分岐した後でもレーザ光の量子雑音は独立である。よって、図1(b)に示すように、1×8の光スプリッタを用いて、4並列化した量子乱数発生を実現できる。
 今回の実験では、4並列の量子乱数発生器を、高出力パワーの1.3μm帯の分布帰還型レーザダイオード(12)、低損失の石英系平面光波回路スプリッタ(13)、高速ADCを搭載したフィールドプログラマブルゲートアレイ回路(14)基板で実現した。一つのレーザ光をスプリッタで分岐して、許容入力上限である20mWをそれぞれのBPDに分配した。各チャネルで2GHz以上の広帯域にわたり真空場揺らぎを測定し、乱数抽出処理によりチャネルあたり12.5ギガビット毎秒の高速で乱数を発生する。4チャネル合計の生成速度は、50ギガビット毎秒となる。図2に真空場揺らぎのヒストグラムと分散の測定結果を示す。ゼロ平均のガウス分布をもつ揺らぎが4チャネルすべてにおいて安定して得られている。表1に出力乱数をNIST SP800-90Bによる検定で評価した結果を示す。全チャネルにおいて検定を通過しており、良質な乱数の出力を確認した。

【今後の展望】
 今回の成果は、量子乱数発生器の乱数生成速度のこれまでの記録を大きく更新するものである。今後は、チャネル数の増加によるさらなる高速化や、光集積回路技術による小型化の検討を進める。さらに、高速の量子乱数発生器の応用分野の拡大にも挑み、情報処理・通信の高度化を通じて、安心・安全な社会の実現に貢献することを目指す。

■注釈・用語など
(1) ギガビット毎秒
 ビットの通信や生成の速度を表す単位。50ギガビット毎秒の速度で生成されるデータを、1層のブルーレイディスク(25ギガバイト = 200ギガビット)に書き込む場合、4秒分のデータでディスクが一杯になる。
(2) 乱数
 ランダムな数の列。2進表現の場合においては、ランダムな0と1の繰り返しの数列。
(3) 量子乱数発生器
 量子力学によりランダム性が担保された物理現象を用いて、乱数を生成する装置。近年注目を集めている量子技術の応用の一つである。
(4) 真空場揺らぎ
 真空であってもエネルギーがランダムに揺らぐ性質。量子揺らぎとも呼ばれる。
(5) ビームスプリッタ(BS)
 入射した光を、所定の分岐比で二つの光に分岐する光学素子。
(6) 量子雑音
 光が本質的にもつ雑音。真にランダムに振る舞う。光信号伝送や光センシングなどにおいて、性能限界を決める。
(7) 18.8ギガビット毎秒の最高生成速度
 以下の論文にて2021年に報告されている:B. Bai, J. Huang, G.-R. Qiao, Y.-Q. Nie, W. Tang, T. Chu, J. Zhang, and J.-W. Pan, ''18.8 Gbps real-time quantum random number generator with a photonic integrated chip,'' Applied Physics Letters, vol. 118, 264001, 2021.
(8) NIST SP800-90B
 米国国立標準技術研究所(NIST)が定めた乱数エントロピー源の検定であり、乱数発生器の評価に標準的に用いられている。以下に詳細が記述されている:M. S. Turan, E. Barker, J. Kelsey, K. McKay, M. Baish, M. Boyle, ''Recommendation for the Entropy Sources Used for Random Bit Generation,'' NIST Special Publication 800-90B, 2018.
(9) Y-00光通信量子暗号
 2000年に米国Northwestern大学のYuen教授により提案された「盗聴者が暗号文を正しく取得できない」ことを特徴とする光伝送向けの暗号。データ信号(平文)を、共有する鍵を用いて多くの異なる光の強度や位相に変換することで暗号化する。受信時の光電変換で生じる不可避な雑音((6)に示す量子雑音)の影響で、暗号鍵をもたない受信者が正確な光の強度や位相を取得することができない。
(10) バランス光検出器(BPD)
 二つの入力光信号を、内蔵する二つの光検出素子でそれぞれ光電変換し、その差動成分を出力する検出器。
(11) テプリッツ行列
 対角要素が同じ値をもつ行列であり、対角一定行列とも呼ばれる。
(12) 分布帰還型レーザダイオード
 共振器内部に配置した回折格子によるブラッグ反射を利用して、レーザの発振縦モードを抑制したシングルモードの半導体レーザ。波長安定性高い、線幅が狭いなどの優れた特性があり、光ファイバ通信やセンシング等に用いられる。
(13) 石英系平面光波回路スプリッタ
 石英ガラス光導波路のY分岐を用いて構成される光を分岐する回路。ファイバー・トゥ・ザ・ホームを実現するための基本部品として使用されており、低コストかつ高い信頼性をもつ。
(14) フィールドプログラマブルゲートアレイ回路
 設計者が任意の論理回路をプログラムにより構成可能な大規模集積回路。

▼本件に関する問い合わせ先

学校法人玉川学園 教育情報・企画部 広報課

住所

: 〒194-8610 東京都町田市玉川学園6-1-1

TEL

: 042-739-8710

FAX

: 042-739-8723

E-mail

pr@tamagawa.ac.jp

図1.png 図1  真空場揺らぎの測定に基づく量子乱数発生器の構成:(a)基本単体,(b)4チャネル並列

図2.png 図2 乱数発生源となる真空場揺らぎの測定結果

表1.png 表1 NIST SP800-90Bによる出力乱数の検定結果