東京医科歯科大学

東京医科歯科大学が好中球の過剰反応を抑える鍵になる分子を明らかに――好中球由来の活性酸素による炎症や組織障害、および重症細菌感染症での好中球減少症を制御できる可能性も

大学ニュース  /  先端研究

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東京医科歯科大学大学院・発生発達病態学分野の森尾友宏准教授の研究グループは、韓国延世大学、東京大学、防衛医科大学校、富山大学などとの共同研究で、X連鎖無γグロブリン血症の責任遺伝子産物であるBTKが、好中球の過剰な反応を抑える鍵となる分子であることをつきとめた。この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびに厚生労働科学研究難治性疾患克服事業原発性免疫不全症調査研究班の支援のもとで行われたもの。研究成果は国際科学誌Nature Immunology(ネイチャー・イムノロジー)に、2012年2月27日付オンライン版で発表された。

「好中球の過剰反応を抑える鍵になる分子が明らかに」
 ―好中球由来の活性酸素による炎症や組織障害、および重症細菌感染症での好中球減少症を制御できる可能性―


【ポイント】
 ●BTKが欠損する病気では、軽い感染症でも好中球減少が起きる原因をつきとめた。
 ●ヒトの免疫システムにおいて細菌を殺す主役である「好中球」の初期反応が、BTK(ブルトン型チロシンキナーゼ)という分子によって微調整されていることが分かった。
 ●ヒトの好中球でBTKの機能を落としたり、BTKタンパク質を導入(BTKを増や)したりして、その活性酸素産生能を調節できることを示した。
 ●好中球が産生する活性酸素によって起きる炎症が原因とみられるさまざまな病気や、敗血症での好中球減少による細菌感染の拡大などへの治療応用が期待できる。

◆研究成果の概要と意義
 「X連鎖無γグロブリン血症(注1)」はBTK(注2)遺伝子の異常によりB細胞が欠損する免疫不全症である。この病気では軽い細菌感染症でも好中球の数が減り、場合によっては生命が危険になることが知られている。森尾友宏准教授の研究グループは、BTKという分子が好中球の中で特別の働きをしていて、刺激が入る前にはMALという分子が細胞膜に移動するのを抑え、好中球からの活性酸素産生の開始段階を微調整していること(軽い刺激に反応して過剰な活性酸素を産生しないように調節していること)を明らかにした。また、好中球においてMALを制御する詳細なシグナル機構を初めて明らかにした。さらに好中球にBTKタンパク質を効率よく導入したり、BTKの機能を抑えたりすることで、好中球の活性酸素産生やアポトーシスによる細胞死を調節できることが分かった。

 好中球の活性化によって、過剰な活性酸素が産生され、それによって臓器がダメージを受けるさまざまな病気が知られている。過剰な活性酸素産生は動脈硬化や老化にも関与する。また重症な感染症では好中球が次々とアポトーシスを起こすことで死んでしまい、肺などの臓器を障害するとともに、好中球減少を起こし、さらに感染症のコントロールが難しくなることがある。この研究成果を生かすことによって、好中球からの活性酸素産生の制御が可能となるとともに、いろいろな病気で問題になる好中球の過剰反応を抑えることができるようになることが期待できる。

注1: X連鎖無γグロブリン血症とは、免疫グロブリン(抗体)の欠如、ならびにB細胞の欠如を特徴とする。この病気は、X染色体の中にあって、B細胞の分化や増殖に必要なBTKをコードする遺伝子に欠損があるため、B細胞はもちろん、抗体もつくることができないために、肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、ブドウ球菌などの細菌感染に繰り返しかかりやすく、肺炎、気管支炎、中耳炎、副鼻腔炎、皮膚化膿症、髄膜炎、敗血症などを起こすことがある。

注2: BTK(Bruton’s tyrosine kinase)とはブルトン型チロシンキナーゼというチロシンキナーゼの一種。骨髄でつくられ、抗原に反応して抗体をつくるリンパ球「B細胞(Bリンパ球)」の分化や増殖に必須なのがBTKという酵素である。

▼本件に関する問い合わせ先
 東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 発生発達病態学分野
 森尾 友宏(もりお ともひろ)
 TEL: 03-5803-5245
 E-mail: tmorio.ped(ここに@を入れてください)tmd.ac.jp

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