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糖尿病によって脳と脊髄をつなぐ配線が破壊される!? -- 健康科学大学の村松憲准教授らが糖尿病患者の下肢筋力低下のメカニズムを解明か

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健康科学大学(山梨県南都留郡富士河口湖町)健康科学部理学療法学科の村松憲准教授を代表とする研究チームは、糖尿病ラットを対象に研究を行い、足などの下半身を動かすための運動指令を大脳から脊髄に伝える配線(錐体路)が傷つくことを世界で初めて発見した。この発見は、糖尿病患者に生じる下肢筋力低下のメカニズムを明らかにするもので、今後の臨床応用が期待される。なお、この成果は神経科学専門誌『Brain Research』のオンライン版(2017年12月19日)に掲載された。

 糖尿病性神経障害は糖尿病患者の30%~50%が発症する代表的な合併症である。近年、糖尿病神経障害患者には下半身全体の筋力低下が生じ、これが転倒やバランス障害の原因となっていることが明らかになりつつある(図1)。しかし、なぜ筋力低下が下半身に強く出現するのか、詳しい原因は不明だった。

 村松准教授らの研究グループは糖尿病ラットの脳や脊髄について電気生理学的解析や解剖学的解析を行い、糖尿病によって脳から脊髄に運動指令を伝える配線(錐体路)が傷つくことを発見。さらに、配線(錐体路)の損傷は脳から腰髄に足を動かすための運動指令を伝えるものに激しく生じ、これに関連して大脳皮質運動野にある足の運動指令を担当する領域も縮小してしまうことも判明した(図2)。

 現在、糖尿病患者の下半身に生じる筋力低下の原因は筋肉そのものに求められているが、本研究結果は既存の概念と全く異なり、筋肉に運動指令を出す脳内のシステムに問題が生じることを示すものである。また、本研究結果は糖尿病による筋力低下の解釈を大きく変えるだけでなく、脳の障害に着目した新しい治療やリハビリテーションの開発を加速させるものといえる。

■今回の発見のポイント
1.糖尿病は末梢神経だけでなく、中枢神経系をも標的とし、大脳皮質運動野と脊髄をつなぐ錐体路(配線)を傷つけることを発見した。
2.錐体路(配線)の損傷は大脳と脊髄の腰髄をつなぎ、足腰を動かす運動指令を伝えるものに最も激しく生じることを発見した。
3.配線の損傷に伴い、大脳皮質運動野の足腰を動かす領域が縮小することを発見した。

■社会的意義
1.糖尿病は脳内の配線を破壊するという全く新しい事実を示す
 本研究は、糖尿病の標的となりにくいと考えられてきた中枢神経系の障害を初めて報告するものである。また、足腰を動かす中枢神経内のシステム障害は今までその原因に謎の多かった、糖尿病患者の下肢に限局した筋力低下を合理的に説明するものである。
2.糖尿病性神経障害の新たな治療対象を示す
 現在行われている糖尿病の運動療法は脳機能改善を目的としたものではないが、本研究結果を元に、脳機能改善を目的とした各種リハビリテーションの必要性を示し、その開発を加速させるものである。

【論文情報】
 Effect of streptozotocin-induced diabetes on motor representations in the motor cortex and corticospinal tract in rats
 Ken Muramatsu, Masako Ikutomo, Toru Tamaki, Satoshi Shimo, Masatoshi Niwa
 ・神経科学専門誌 Brain Research doi: 10.1016/j.brainres.2017.12.016
  掲載された論文: http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006899317305504

【研究チーム】
・代表:村松憲(健康科学大学 理学療法学科 准教授)
・共同研究者(論文掲載順):生友聖子(健康科学大学 理学療法学科 助教)、玉木徹(健康科学大学 理学療法学科 助手)、志茂聡(健康科学大学 作業療法学科 講師)、丹羽正利(杏林大学 作業療法学科 教授)

(関連記事)
・健康科学大学理学療法学科の村松憲准教授らが糖尿病性神経障害による転倒リスク上昇のメカニズムの一部を解明 -- 糖尿病性神経障害の新たな治療対象の存在を示す(2016.11.28)
 https://www.u-presscenter.jp/2016/11/post-36492.html

▼本件に関する問い合わせ先
<研究について>
 健康科学大学 健康科学部 理学療法学科
 准教授 村松 憲(むらまつ けん)
 TEL: 0555-83-5284(直通)
 E-mail: k.muramatsu@kenkoudai.ac.jp
<広報に関すること>
 健康科学大学 総務課
 TEL: 0555-83-5200
 FAX: 0555-83-5100

1214kenkou1.jpg 図1.糖尿病患者における下肢筋力低下と転倒リスクの上昇

1214kenkou2.jpg 図2. 糖尿病による錐体路障害の概要

健康科学大学.jpg 発見の概要を説明する研究チーム。左から志茂聡講師(共著者)、生友聖子助教(共著者)、研究チームリーダーの村松憲准教授(筆頭・責任著者)、玉木徹助手(共著者)