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崇城大学黒岩敬太教授と池田剛教授らの研究グループがトマトの成分を利用して新たな発光ナノ材料を開発 -- 農作物の活用されない部分を最先端科学でナノテクノロジー材料に

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崇城大学(熊本市西区)工学部ナノサイエンス学科の黒岩敬太教授と薬学部薬学科の池田剛教授らの研究グループは、本来廃棄されるトマトの葉や茎に豊富に含まれる生理活性成分を活用することによって、新しい発光ナノ材料が開発できることを論文発表した。農作物で活用されない部分を最先端科学でナノテクノロジー材料に変えるこの研究は、多くの地域で一筋の光となると考えられる。なお、この研究は一般財団法人キヤノン財団「産業基盤の創出」の助成を受けて実施されている。

 崇城大学工学部ナノサイエンス学科 黒岩敬太教授と薬学部薬学科 池田剛教授は、「トマト由来ステロイドアルカロイド配糖体によるプローブ材料開発」の研究で、平成29年度から一般財団法人キヤノン財団の研究助成プログラム「産業基盤の創出」の助成を受けている(採択率2% 1500万円/2年)。これは、熊本特産であるトマトの葉や茎から抽出される生理活性成分トマチンなどのステロイドアルカロイド配糖体の先端化学への応用を示したもの。
 このたび黒岩教授らは、本来廃棄されるトマトの葉や茎に豊富に含まれる生理活性成分を活用することによって、新しい発光ナノ材料が開発できることを論文発表した。農作物で活用されない部分を最先端科学でナノテクノロジー材料に変えるこの研究は、熊本県のみならず、多くの地域で一筋の光となると考えている。

【研究の背景】
 近年、ナノテクノロジー・バイオテクノロジーに対する材料開発の期待度が高まる中、身近な農作物から抽出される化合物から最先端材料を生み出すことの重要性が増している。研究代表者はこれまで、有機分子の両親媒性、界面活性(液中における泡(ミセル)形成、ベシクル、リポソーム形成などの会合構造)について研究してきた。また、電子軌道、酸化状態、発光状態などの多様な電子機能の宝庫である金属錯体にも着目してきた。これらを程よく組み合わせることで、生体組織が持つような分子マシーンになることが期待される。これらを利用すれば、非侵襲的生体計測と病態診断に応用可能な生体標識(発光プローブ)を形成できることになる。これが、本研究の着想に至った経緯である。

【研究の成果】
 本研究では、熊本の特産物であるトマトの葉や茎から抽出されるステロイドアルカロイド配糖体(トマチン、デヒドロトマチンなど)を、ナノ材料へ変貌させることに成功した。具体的には、「農作物から抽出された物質の探索」と「分子組織性発光材料の開発」を融合し、農工融合型ナノ材料を創成した。特に、この農工融合材料を用いて、ナノチューブやナノシートを形成し、ナノ組織体ならではの青色発光材料にすることができた。もともと、トマチンなどのステロイドアルカロイド配糖体は、LDLコレステロール低下効果などの特異的な生理活性を有しており、生物活性を有する生体標識材料としての利用が考えられる。
 これらの研究は、キヤノン財団のみならず、文部科学省新学術領域研究「元素ブロック高分子材料の創出」からも助成を受けており、これらの成果は、日本化学会刊行の英文学術論文誌「Chemistry Letters誌」に報告された(図1)。

【今後の展開】
 引き続きキヤノン財団の研究助成を受けながら、他の農作物での生理活性成分をナノ材料に変える研究を多方面で展開する。さらに、ナノサイズの病理診断試薬の開発、ナノサイズの次世代半導体や分子機械を開発するための新しい設計指針の提供を目指していく。

【キヤノン財団の研究助成プログラム「産業基盤の創出」について】
 「人々の暮らしを支え、人間社会が将来も発展していく基盤である産業」の礎となる研究や、人類の英知を深め永続的な繁栄を目指す研究に対する助成。

【用語解説】
(1)自己組織化
 比較的単純な分子が種々の相互作用によって規則的に組み上がり、自然と秩序だった構造ができること。最近では、トップダウン型の微細加工技術に対し、分子を組み上げることで機能性デバイスを構築するボトムアップ型のナノテクノロジーの基盤技術として注目が集まっている。

(2)両親媒性・界面活性
 水と油の両方になじむ性質。例えば、今回用いたトマチンなどのステロイドアルカロイド配糖体は、水やイオン性金属錯体になじみやすい部分と、油などの有機溶媒になじみやすい部分の両方をもっている(図2)。

【論文情報】
■掲載誌:Chemistry Letters
■論文タイトル:Self-assembly of [Au(CN)2]- complexes with tomato (Solanum lycopersicum) steroidal alkaloid
 glycosides to form sheet or tubular structures
■和訳:トマトのステロイドアルカロイド配糖体による金錯体の自己組織化とシートやチューブ構造の創成
■著者:Keita Kuroiwa(責任著者), Tsuyoshi Ikeda, Souta Toohara, Yasuaki Tanaka, Shinichi Sakurai, Kazuo Tanaka,
 Masayuki Gon,Yoshiki Chujo
■掲載予定:2018年6月

【研究グループ】
・黒岩 敬太(くろいわ けいた)
 崇城大学 工学部ナノサイエンス学科 教授
・池田 剛(いけだ つよし)
 崇城大学 薬学部薬学科 教授
・遠原 颯太(とおはら そうた)
 崇城大学大学院 工学研究科修士課程応用化学専攻 2年
・田中 泰彬(たなか やすあき)
 崇城大学 工学部ナノサイエンス学科 平成27年度卒

【共同研究者】
・櫻井 伸一(さくらい しんいち)
 京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科バイオベースマテリアル学専攻 教授
・田中 一生(たなか かずお)
 京都大学大学院 工学研究科高分子化学専攻 准教授
・権 正行(ごん まさゆき)
 京都大学大学院 工学研究科高分子化学専攻 助教
・中條 善樹(ちゅうじょう よしき)
 京都大学大学院 工学研究科高分子化学専攻 名誉教授

▼本件に関する問い合わせ先

崇城大学 工学部ナノサイエンス学科

教授 黒岩敬太

TEL

: 096-326-3891

FAX

: 096-326-3891

E-mail

keitak@nano.sojo-u.ac.jp

1.png トマト由来の有用成分を利用した生理活性発光ナノ材料の創成(図1)

2.png (図2)