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金星探査機「あかつき」が金星の雲の中に巨大な筋状構造を発見 数値シミュレーションによる再現・メカニズム解明にも成功 -- 京都産業大学

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京都産業大学 理学部 宇宙物理・気象学科/惑星気象研究センター高木 征弘、神戸大学大学院理学研究科の樫村博基助教ら研究グループは、日本の金星探査機「あかつき」による観測で、金星を覆う雲のなかに巨大な筋状構造を発見した。さらに、大規模な数値シミュレーションにより、この筋状構造のメカニズムを解き明かした。この研究成果は、1月9日に、英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。

 あかつきIR2カメラが捉えた金星下層雲の画像(図1左)は、雲の薄い領域を下から透過してくる赤外線を観測しているため、明るいところほど雲が薄いことを表している。注目すべきは、北半球では北西から南東にかけて、南半球では南西から北東にかけて、幅数百kmの幾本もの白い筋が束になり、1万km近くにわたって斜めに延びている構造である。しかも、赤道を挟んでおよそ南北対称に位置している。この構造は、あかつきIR2カメラによって初めて明らかになったものであり、これを「惑星規模筋状構造」と名づけた。このような惑星規模の巨大な筋状構造は地球で観測されたことがなく、金星に特有の現象であると考えられる。

 なお、AFES-Venusの高解像度シミュレーションで、この惑星規模筋状構造の再現を試み、成功した(図1右)。このような細かな構造が観測とよく一致することは、AFES-Venusのシミュレーションの正しさを示すものだと言える。

 次に、AFES-Venusのシミュレーション結果を詳しく解析することで、惑星規模筋状構造の成因を明らかにした。筋状構造形成の鍵となるのは、意外にも日本の日々の天気とも関わりの深い「寒帯ジェット気流」だった。地球の中高緯度帯では、南北の大きな温度差を解消しようとする大規模な流れ(傾圧不安定)が、温帯低気圧や移動性高気圧、そして寒帯ジェット気流を形成している。本研究でシミュレーションした結果、金星大気の雲層でも同様のメカニズムが働き、高緯度帯にジェット気流が形成されうることが示された。一方、低緯度帯では、大気波動(ロスビー波 )によって、赤道から緯度60度付近にまたがる巨大な渦が生じる(図2左)。そこにジェット気流が加わることで、渦が傾き、引き伸ばされ、北風と南風がぶつかる収束帯が筋状に形成される。収束帯で行き場を失った南北風は、強い下降流となり、雲の薄い領域からなる惑星規模筋状構造を作り出していると考えられる(図2右)。また、このロスビー波は、雲層下部に存在する波動(赤道ケルビン波)と結合しており、これによって南北対称性が維持されていることも分かった。

 本研究では、金星下層雲に惑星規模の巨大な筋状構造が見られること、それがAFES-Venusによるシミュレーションで再現されたこと、そして筋状構造が2種類の大気波動と傾圧不安定、およびジェット気流によって形成されている可能性が高いことを示した。いくつもの大気現象が組み合わさった結果である惑星規模筋状構造が、シミュレーションでよく再現されているということは、シミュレートされた個々の大気現象も実際の金星で発生している可能性が高いことを示している。

 これまでの金星気象学は、観測データもシミュレーションも空間解像度が粗く、東西方向に平均した量での議論や理解が主だった。本研究は、あかつきの観測とAFES-Venusの高解像度シミュレーションを用いることで、金星気象学を、細かな水平構造も議論できる新たな段階に引き上げたと言える。今後も、あかつきとAFES-Venusの連携によって、地球の双子星でありながら、分厚い硫酸雲のベールに包まれた、金星気象の謎が解き明かされることが期待される。

<用語解説>
※ あかつき
日本の金星探査機。金星大気の謎を解明するために開発され、観測波長の異なる5台のカメラと電波掩蔽観測用の超高安定発振器を搭載する。日本の惑星探査機として初めて地球以外の惑星を回る軌道に入ることに成功した。2010年5月に打ち上げられた。同年12月に金星周回軌道に入る予定であったが、メインエンジンの故障により失敗。2015年12月に再挑戦の結果、金星を周回する軌道に入り、観測を開始した。

※ IR2カメラ
あかつきに搭載されたカメラの1つで、波長約2 μmの赤外線を観測する。この波長の赤外線は、高度30 km付近の高温大気から射出されるが、高度50km付近の下層雲によって一部遮蔽される。下層雲の薄いところは、この赤外線が多く宇宙に達するので、IR2カメラで撮像したときに明るく写る。

※ AFES-Venus
金星大気全体の数値シミュレーションを実施するための計算プログラム。地球シミュレータの性能を最大限活用できるように最適化された、地球大気シミュレーション用プログラム「AFES(Atmospheric GCM For the EarthSimulator)」を、金星大気用に改修したものである。地球シミュレータ上で動かすことで、世界最高レベルの高解像度シミュレーションを実現した。

<論文について>
タイトル:''Planetary-scale streak structure reproduced in high-resolutionsimulations of the Venus atmosphere with a low-stability layer''
著 者: 樫村 博基(神戸大学 大学院理学研究科 惑星学専攻/惑星科学研究センター)
   杉本 憲彦(慶應義塾大学 法学部 日吉物理学教室/自然科学研究教育センター)
   高木 征弘(京都産業大学 理学部 宇宙物理・気象学科/惑星気象研究センター)
    他10名
掲 載 紙:Nature Communications
掲 載 日:2019年1月9日(水)

むすんで、うみだす。  上賀茂・神山 京都産業大学

関連リンク
・金星探査機「あかつき」が金星の雲の中に巨大な筋状構造を発見 数値シミュレーションによる再現・メカニズム解明にも成功
  http://www.kyoto-su.ac.jp/news/20190109_345_release_tu01.html

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akatuki.jpg 図1:(左)あかつきIR2カメラで観測された金星下層雲(エッジ強調処理後)。明るい部分が雲の薄い領域を表す。黄色破線で囲った部分に惑星規模筋状構造が見られる。(右)AFES-Venusのシミュレーションで再現された惑星規模筋状構造。明るい部分が強い下降流を表す。(Nature Communications誌掲載論文の図を一部修正。CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/ )

jetkiryu.jpg 図2:惑星規模筋状構造の形成メカニズム。ロスビー波によって生じた巨大な渦(左)が高緯度のジェット気流によって傾き、引き伸ばされる(右)。引き伸ばされた渦の内部では、筋状の収束帯が形成され、下降流が生じ、下層雲が薄くなる。金星は西向きに自転しているため、ジェット気流も西向きに吹くことに注意。