【東京薬科大学】世界初、植物由来「スピロスタノール配糖体」に経鼻ワクチンの増強効果を発見〜既存のサポニン系アジュバントとは異なる骨格で、炎症を伴わない高い安全性を実現〜
・既存のサポニン系アジュバント(QS-21など)とは異なる骨格の化学構造を持つ「スピロスタノール配糖体」*1ギトニンが、経鼻ワクチンのアジュバント*2として機能することを世界で初めて実証
・既存のトリテルペンサポニン*3で課題となる局所刺激性とは対照的に、ギトニンは投与部位における炎症細胞の浸潤(炎症反応)を伴わないことから、高い安全性を有する新規粘膜アジュバントとして有望
・鼻腔や肺などの粘膜面で感染を防御するIgA抗体*4と、重症化を予防する血中IgG抗体の両方を強力に誘導し、次世代の経鼻ワクチン開発への応用が期待
このアジュバントの有力候補として、植物由来成分であるサポニン*8が検討されてきました。代表例のQS-21(シャボンノキ由来のサポニン)は、帯状疱疹ワクチンなどの注射用ワクチンで実用化されています。しかし、これらQS-21を含むトリテルペンサポニン系のアジュバントは、高い効果の一方で、局所反応(痛みや炎症)などの反応原性が高いことが課題とされてきました。
一方で、サポニンの化学構造には「スピロスタノール系骨格」というグループも存在しますが、これまでワクチンアジュバント、特に鼻から投与する「粘膜アジュバント」としての可能性は未解明でした。そこで本研究グループは、高い安全性が期待できる新たな候補物質として、この「スピロスタノール配糖体」に着目しました。
*1 スピロスタノール配糖体:ステロイドサポニンの一種で、トリテルペンとは異なる「スピロスタノール骨格」を持つ化合物群です。これまでアジュバントとしての性質はほとんど知られていませんでした。
*2 アジュバント:ワクチンと一緒に投与することで、免疫反応を増強させる補助物質。
*3 トリテルペンサポニン:現在実用化されているサポニン系アジュバント(QS-21など)の多くが持つ化学構造です。強力な免疫誘導能を持ちますが、細胞膜に対する作用が強く、投与部位での痛みや炎症(反応原性)を引き起こしやすいという課題がありました。
*4 IgA(免疫グロブリンA):粘膜表面で、ウイルスや細菌の侵入を阻止する抗体。
*5 粘膜ワクチン:注射ではなく、鼻や口から投与するワクチン。病原体の侵入口である粘膜面で免疫(IgA)を誘導できるため、感染そのものを防ぐ効果が期待できる。
*6 生ワクチン:病原性を弱めたウイルスや細菌そのものを投与するワクチン。自然感染に近い強力な免疫誘導が可能ですが、感染リスクや、免疫機能が低下している人には接種できないなどの安全性への懸念があります。
*7 サブユニット型ワクチン:ウイルスや細菌の構成成分(タンパク質など)の一部のみを人工的に合成・精製して使用するワクチン。病原体そのものを含まないため感染のリスクがなく、安全性が非常に高いのが特徴です。一方で、単独では免疫誘導能が弱いため、効果を発揮させるために「アジュバント(免疫増強剤)の添加が不可欠となります。
*8 サポニン:植物や動物などに含まれるトリテルペンおよびステロイド配糖体(糖が結合した化合物)の総称。水に溶かすと石鹸のように泡立つ性質(界面活性作用)を持ち、古くから医薬品や洗剤として利用されてきました。免疫細胞を刺激する作用を持つため、ワクチンのアジュバント(増強剤)としても利用されています。
・タイトル:Gitonin, a spirostanol glycoside, acts as a mucosal adjuvant to enhance antigen-specific mucosal and systemic immune responses in mice(スピロスタノール配糖体ギトニンの粘膜アジュバント作用:マウスにおける抗原特異的な粘膜および全身免疫応答の増強)
・著者:Rui Tada, Yukiko Matsuo, Emiri Nomura, Midori Tanaka, Taiki Koenuma, Yudai Honda, Yoshihiro Mimaki, Jun Kunisawa, Yoshiyuki Adachi, Yoichi Negishi
・掲載誌:Vaccine
・巻号・ページ: Volume 71, 128053 (2026)
・DOI: 10.1016/j.vaccine.2025.128053
・発明の名称:粘膜アジュバント
・発明者:多田塁、松尾侑希子、根岸洋一、三巻祥浩
・特許出願人:学校法人東京薬科大学
・出願番号:特願2025-125381
■ 研究支援
本研究は、以下の助成の支援を受けて行われました。
日本学術振興会 科学研究費助成事業(課題番号:23K06185)
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)(課題番号:253fa727001h0004)
■ 研究体制
・研究代表者:多田 塁(東京薬科大学・薬学部・免疫学教室・准教授)
・共同研究者:
- 松尾 侑希子(東京薬科大学・薬学部・漢方資源応用学教室・講師)
- 野村 瑛美梨(東京薬科大学・薬学部・薬物送達学教室)
- 田中 碧(東京薬科大学・薬学部・薬物送達学教室)
- 肥沼 大葵(東京薬科大学・薬学部・免疫学教室)
- 本多 優大(東京薬科大学・薬学部・薬物送達学教室)
- 三巻 祥浩(東京薬科大学・薬学部・漢方資源応用学教室・教授)
- 安達 禎之(東京薬科大学・薬学部・免疫学教室・教授)
- 國澤 純(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBN)・ヘルス・メディカル微生物研究センター・センター長)
- 根岸 洋一(東京薬科大学・薬学部・薬物送達学教室・教授)
東京薬科大学 薬学部 免疫学教室 准教授 多田 塁(ただ るい)
TEL:042-676-5616
E-mail:ruitada[at]toyaku.ac.jp ※[at]を@に置換してください。
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