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【東京医科大学】RSウイルス感染が「鼻の奥にすみつく肺炎球菌」を増やす仕組みを解明 ~免疫細胞に “ブレーキ” をかけるGas6の働きに着目~

東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)微生物学分野 (主任教授 中村茂樹) 柴田岳彦准教授、大学院医学研究科 石川紗妃(修士課程2年)らの研究グループは、RSウイルス (RSV) 感染が、普段は症状を起こさずに鼻の奥 (鼻咽頭) に定着している肺炎球菌を増殖させる仕組みを明らかにしました。本研究成果は、2026年2月2日 、国際学術誌 The Journal of Infectious Diseases に掲載されました。

【概要】 

 東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)微生物学分野 (主任教授 中村茂樹)に所属する柴田岳彦准教授、大学院医学研究科 石川紗妃(修士課程2年)らの研究グループは、RSウイルス (RSV) 感染が、普段は症状を起こさずに鼻の奥 (鼻咽頭) に定着している肺炎球菌を増殖させる仕組みを明らかにしました。
 本研究では、RSV感染により免疫細胞の一種であるマクロファージの性質が変化し、本来持つ細菌を抑える働きが弱まること、その背景にgrowth arrest-specific protein 6 (Gas6) というタンパク質と、その受容体AxlからなるGas6/Axl経路が関与していることを突き止めました。
 肺炎球菌は多くの人の鼻咽頭に定着している細菌であり、通常は悪さをしませんが、ある条件下で増殖し、肺炎などの重篤な感染症を引き起こします。本研究は、RSV感染がその「引き金」となる分子メカニズムを示したものです。 本成果は、RSV感染後に細菌感染が悪化しやすい理由の理解を深めるとともに、RSVワクチンや新たな治療戦略の重要性を裏付ける知見として期待されます。

 本研究成果は、2026年2月2日 、国際学術誌 The Journal of Infectious Diseases に掲載されました。

【本研究のポイント】

  • RSウイルス感染により、鼻の奥(鼻咽頭)で肺炎球菌が増えやすくなる
  • その原因として、免疫細胞 (マクロファージ) の働きが弱まることが示された
  • Gas6というタンパク質が、マクロファージの性質変化を引き起こしていることを明らかにした
  • Gas6/Axlを阻害することで、RSウイルス感染による肺炎球菌の増殖が抑制された

【研究の背景】

 RSウイルスは、乳幼児の細気管支炎や肺炎の主要な原因ウイルスであり、高齢者においても重症肺炎の原因として注目されています。臨床現場では、RSV感染の重症患者では肺炎球菌などの細菌がよく検出されることが知られています。肺炎球菌は、多くの乳幼児や高齢者の鼻咽頭に定着している細菌で、通常は症状を引き起こしません。しかしRSV流行期には、こうした定着肺炎球菌が増殖・拡散することで病態が悪化している可能性が指摘されてきました。その分子機構、特にウイルス感染が免疫細胞の働きをどのように変化させ、定着肺炎球菌の増殖を引き起こすのかについては、これまで十分に解明されていませんでした。

【本研究で得られた結果・知見】

 本研究により、RSV感染によって体内でGas6というタンパク質の産生が増加し、それが受容体Axlを介してマクロファージに作用することが明らかになりました。 通常、マクロファージは細菌を貪食・排除する重要な役割を担っています。しかしRSV感染下ではGas6/Axl経路が活性化し、マクロファージが細菌を十分に排除できない「低反応性」の状態に変化します。その結果、鼻咽頭に定着していた肺炎球菌が増殖しやすくなり、下気道感染や肺炎へ進展するリスクが高まることが示されました。すなわち本研究は、RSV感染後に起こる新たな肺炎球菌感染に加えて (Shibata et al. J Clin Invest 2020)、鼻咽頭に定着していた肺炎球菌の増殖を引き起こす分子機構を明らかにしたものです。

【今後の研究展開および波及効果】

 本研究で明らかになった「RSV感染 à Gas6/Axl活性化 à マクロファージ機能低下 à 定着肺炎球菌の増殖」というメカニズムは、

  • ウイルス感染後に起こる細菌性肺炎の新たな治療標的の提示
  • RSVワクチンや抗ウイルス戦略の重要性の再認識

につながるものです。 現在、肺炎球菌ワクチンは重症肺炎の予防に大きく貢献していますが、ワクチンでカバーされない血清型の増加という課題もあります。本研究は、RSV感染そのものを予防することが、定着肺炎球菌の異常な増殖を防ぎ、肺炎予防につながる可能性を示しています。

【添付資料(図)の説明】

RSウイルス(RSV)に感染すると、鼻の粘膜にある細胞からGas6というタンパク質が産生され、免疫細胞であるマクロファージの受容体Axlを介してその性質を変化させる。この結果、本来細菌を排除する抗菌性のマクロファージ(M1型)の誘導が抑えられる。そのため、普段は症状を起こさず鼻咽頭に定着している肺炎球菌が増殖しやすくなり、肺炎などの感染の重症化につながると考えられる。

【論文情報】

タイトル: Respiratory syncytial virus–mediated Gas6/Axl axis induces hyporesponsive macrophages to promote pneumococcal proliferation in the nasopharynx

著  者: Saki Ishikawa, Nanami Okada, Yuzu Fukui, Rumi Ueha, Toshihiro Ito, Shigeki Nakamura, Takehiko Shibata* (*:責任著者) 

掲載誌名:The Journal of Infectious Diseases

DOI:https://doi.org/10.1093/infdis/jiag004

【主な競争的研究資金】

武田科学振興財団、日本医療研究開発機構 (AMED)

【微生物学分野HP】

https://microbiol-tmed.umin.jp

本件に関するお問い合わせ先

企画部 広報・社会連携推進室

住所
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TEL
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E-mail
d-koho@tokyo-med.ac.jp

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