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【昭和医科大学】顎関節症の発症メカニズムを細胞レベルで可視化 ― 空間トランスクリプトーム解析により滑膜の分子病態を解明 ―

【昭和医科大学】顎関節症の発症メカニズムを細胞レベルで可視化 ― 空間トランスクリプトーム解析により滑膜の分子病態を解明 ―
昭和医科大学(東京都品川区/学長:上條由美)の澁坂和大助教(歯学部歯科矯正学講座)、矢野文子准教授(統括研究推進センター)らの研究グループは、最先端の「空間トランスクリプトーム解析」と「シングルセル解析」を統合することで、変形性顎関節症の発症に関わる滑膜組織の微細な分子挙動を可視化することに成功しました。
本研究成果は、歯科・口腔医学分野でトップクラスの引用頻度を誇る国際学術誌『International Journal of Oral Science』に掲載されました。

1. 研究の背景

 変形性顎関節症(TMJ-OA)は、顎の痛みや噛み合わせの不正などの機能障害を引き起こす、顎関節における最も一般的な変性疾患です。その発症には、過度な力学的負荷、炎症反応、関節円板のずれ(転位)など、複数の要因が複雑に関与していると考えられています。
 しかし、顎関節は非常に微小な組織であるため、「TMJ-OAのどの場所の、どの細胞が、どのような分子応答を示しているのか」を詳細に捉えることは、従来の解析技術では困難でした。

2. 研究の方法と成果

 本研究では、ヒトのTMJ-OA病態を模倣した2種類のマウスモデル(力学的ストレスモデルおよび関節円板転位モデル)を用い、最先端のトランスクリプトーム解析手法を統合して解析を行いました。

■解析手法
 1細胞レベルの遺伝子発現を調べる「シングルセルRNA解析(scRNA-seq)」に加え、細胞内の微細な位置情報を保持したまま遺伝子発現を解析できる最新の「空間トランスクリプトーム解析」を組み合わせました。

■主な研究成果
① 「発症の場」の特定
 顎関節後方の滑膜組織が、力学的負荷や円板転位に対して敏感に反応し、病態形成の起点となっている可能性を明らかにしました。

② 病態プロセスの可視化
 ストレス下において、滑膜組織内で「脂肪変性」「線維化」「マクロファージの活性化」が連動して進行する様子を可視化しました。

③ 異化作用の解明
 特定の細胞クラスターにおいて、組織破壊につながる異化作用が誘発されることを特定し、これがTMJ-OAの発症に寄与している可能性を示しました。

3. 今後の展開

 本研究は、顎関節症の病態を分子・細胞レベルで体系的に理解するための基盤となる「研究リソース」としての価値を有しています。
 本成果は、顎関節疾患の分子病理を解明するための方法論的基盤を提供するとともに、将来的な標的治療戦略の開発に向けた研究の指針となることが期待されます。

4. 論文掲載情報

・掲載誌: International Journal of Oral Science (2024年インパクトファクター:12.2)
・論文タイトル: Defining subcellular synovial responses in TMJ osteoarthritis onset via mechanical stress and articular disk derangement models
・著者: Kazuhiro Shibusaka, Soichiro Negishi, Asuka Terashima, Miki Maemura, Hiroshi Yoshida, Masahiro Hosonuma, Nobuhiro Sakai, Young Kwan Kim, Yutaka Suzuki, Hiroyuki Okada, Fumiko Yano.
・公表日: 2026年3月12日
・DOI: 10.1038/s41368-025-00411-6
・掲載URL: https://www.nature.com/articles/s41368-025-00411-6

5. 用語解説

空間トランスクリプトーム解析(Spatial Transcriptomics)
 組織内の細胞が「どこに存在するか」という位置情報を保持したまま、細胞内の遺伝子発現(トランスクリプトーム)を網羅的に解析する技術。組織内で起きている分子変化を空間的に可視化できるため、疾患がどの部位からどのように進行するのかを詳細に解析することが可能になる。

シングルセルRNA解析(Single-cell RNA sequencing:scRNA-seq)
 個々の細胞ごとに遺伝子発現を解析する技術。従来の組織全体を平均化した解析とは異なり、細胞ごとの特徴や役割の違いを高精度に明らかにすることができる。

トランスクリプトーム
 細胞内で発現しているすべてのRNA(遺伝子の転写産物)の集合を指す。細胞がどのような機能状態にあるかを理解するための重要な指標として用いられる。

変形性顎関節症(TMJ-OA:Temporomandibular Joint Osteoarthritis)
 顎関節に生じる変形性関節症の一種で、関節軟骨の変性や骨の変形、滑膜の炎症などを伴う疾患。顎の痛みや開口障害、噛み合わせの異常などの症状を引き起こす。

滑膜(synovium)
 関節の内側を覆う膜状の組織で、関節液を産生し関節の潤滑や栄養供給に重要な役割を果たす。炎症や線維化などの変化が生じると、関節疾患の進行に関与することが知られている。

▼本件に関する問い合わせ先
 昭和医科大学 統括研究推進センター 准教授
 矢野 文子
 TEL: 03-3784-8000
 E-mail: fumikoyano@dent.showa-u.ac.jp

▼本件リリース元
 学校法人 昭和医科大学 総務部 総務課 大学広報係
 TEL: 03-3784-8059
 E-mail: press@ofc.showa-u.ac.jp

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