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昭和医科大学らの研究グループが、血液1滴による大腸がんスクリーニング技術を開発 ― 階層性ナノ多孔層ガラスと近赤外ラマン分光法を応用 ―

昭和医科大学らの研究グループが、血液1滴による大腸がんスクリーニング技術を開発 ― 階層性ナノ多孔層ガラスと近赤外ラマン分光法を応用 ―
昭和医科大学(東京都品川区/学長:上條由美)の伊藤寛晃准教授(先端がん治療研究所)、東京都市大学の藤間卓也教授(理工学部機械工学科)、埼玉県立がんセンターの川村眞智子診療部長(臨床検査科)・風間伸介前消化器外科副部長(現・焼津市立総合病院院長)らの研究グループは、階層性ナノ多孔層ガラス *¹と近赤外ラマン分光法 *²を応用した、微量の血液による大腸がんスクリーニング技術を開発しました。
本研究は、血液を用いた低侵襲ながん診断技術の社会実装に向けた大きな一歩となる成果です。
本研究成果は、2026年6月2日(米国東部時間)、米国化学会(American Chemical Society)が刊行する学術誌『ACS Applied Optical Materials』オンライン版に掲載されました。

【研究成果のポイント】

  • 階層性ナノ多孔層ガラスと近赤外ラマン分光法を用いて血清中の成分を分析する新たな方法を開発
  • 約1滴の血清をガラス表面に滴下し、近赤外線レーザーを20秒間照射することで、極めて高いS/N比のラマンスペクトルを記録することに成功
  • 本技術ががんの診断だけでなく、治療効果判定や再発の診断(モニタリング)にも使用できる可能性を示唆

【研究の背景】

 大腸がんは、わが国における新規患者数が全がん種の中で最多(2023年 154,039人、男性1位、女性2位)であり、死亡数も54,416人(2024年)と、肺がんに次いで2番目に多いがんです。世界的にも同様の傾向がみられ、今後さらに増加すると予測されています。そのため、低侵襲かつ高精度な診断技術が必要とされています。
 血液の中には、がんの診断に役立つさまざまな物質が含まれていることから、血液検査による診断技術の開発が期待されています。現在、臓器に応じた腫瘍マーカーが臨床現場で利用されていますが、標準的ながんの血液検査法はいまだ確立されていません。
 研究グループは、分子情報を網羅的に取得可能な分析法の一種であるラマン分光法を応用して、血液による大腸がん診断を試みました。

【本研究の内容】

 がんの診断には、大きく分けて「がん細胞そのもの」や「がんに関連した物質」を検出する方法と、「がんによって身体に起きた変化」を検出する方法がありますが、ラマン分光法はこれらを網羅的に分析することができるだけでなく、既知の物質と未知の物質をあわせた複合的な情報を得ることができます。一方で、血液のような複雑な組成の試料を正確に分析することは技術的に困難でした。
 研究グループは、階層性ナノ多孔層(HNL)ガラスという特殊なガラスを用いて血清中の成分を分析する新たな方法を開発しました。HNLガラスは表面がスポンジ状のナノ多孔質構造になっており、水に対して極めて高い濡れ性(超親水性)を示します。この構造が水溶液に対してフィルターとしてはたらくことにより、水分子のような小さな分子を速やかに通過させる一方、がんに関連しているタンパク質など比較的大きな分子はやや浅いところにとどまるため、血液の中のがんの診断に重要な成分を効率よく濃縮できることが分かりました。
 研究グループは、このHNLガラスの上にわずか15マイクロリットル(約1滴)の血清を滴下し、成分が濃縮されたのちに近赤外線レーザーを20秒間照射することで、極めて高いS/N比のラマンスペクトル *³を記録することに成功しました。
 この方法で、大腸がん患者さん20名と、がんがないことが確認された対照者20名の血清から、合計7200個のラマンスペクトルを記録して機械学習による解析を行いました。性別や年齢の構成が可能な限り均等になるよう、3グループ(学習グループ24名、検証グループ8名、テストグループ8名)を30パターンつくり、7種類の機械学習で大腸がん判別成績を比較しました。
 その結果、テストグループにおいて最も高い性能を示したのはサポートベクターマシーン(Support Vector Machine, SVM)であり、スペクトル単位ではAUC 0.9916、一般化R2 0.8871と高い精度が得られました。患者さん単位での判別を行ったところ、本研究の40名全員とテストグループのいずれでも、感度・特異度ともに100%でした。また、大腸がん判別に重要な成分として、近年がんとの関連が注目されているAmide-Iやフェニルアラニンなどが抽出されました。さらに、大腸がん患者さんの術後1か月と術後2年の血清の大腸がん予測式スコアは手術前と比較して有意に低下し、多くの患者さんは術後に数値が下がりました。一方、複数の遠隔転移があり根治手術が困難であった患者さんは2年後まで一貫して高い数値を示していました。これらの結果は、本技術ががんの診断だけでなく、治療効果判定や再発の診断(モニタリング)にも使用できる可能性を示唆しています。

【本研究の意義と今後の展望】

 本研究により、血液を用いてがんの有無や治療中のがんの状態を評価するための基礎技術が確立できたと考えられます。本技術は、低侵襲、迅速、低コストであることに加え、原理的には大腸がん以外のがんや、がん以外の疾患にも応用可能な汎用性の高いものです。
 一方で、本研究は合計40名という限られた患者さんを対象とした結果であり、社会実装に向けては、より多くの患者さんにご協力いただき技術の有効性を検証する必要があります。
 現在、研究グループは本研究の10倍にあたる約400名の患者さんの血液を解析中であり、さらに大規模な実証試験も計画しています。今後も本技術の精度を着実に高め、臨床現場で活用可能な検査法として早期の実用化を目指します。

 本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)(23K06749)の支援を受けました。

【用語解説】

*1 階層性ナノ多孔層(Hierarchically Nanoporous Layer, HNL)ガラス
 アルカリ水溶液中で加熱することで、表面に階層性ナノ多孔層というスポンジ状構造を付与したガラス。東京都市大学 藤間卓也教授らが開発した技術。水に対して極めて高い濡れ性(超親水性)を示すほか、防曇機能などを有する。

 *2 近赤外ラマン分光法
 試料にレーザーを照射し、分子振動に由来するラマン散乱光を検出して試料を分析する非破壊検査法の一種。励起光源に近赤外線レーザーを使用することで自家蛍光の影響が少ないラマン散乱光を得ることができる。一方で散乱光強度が低下するという欠点がある。

 *3 ラマンスペクトル
 物質に特有の振動数を、横軸(励起光波長からの波長シフト量)と縦軸(散乱光強度)に分解して配列した情報。

【掲載論文】

  • 雑誌名:ACS Applied Optical Materials(2024年インパクトファクター: 3.8)
  • 論文名:Hierarchical nanoporous glass enables serum Raman liquid biopsy for colorectal cancer detection and monitoring.
  • 著者名:Hiroaki Ito, Takuya Fujima, Tadanobu Hiratsuka, Naoyuki Uragami, Yuri Ito, Shinsuke Kazama, Machiko Kawamura, Junji Tsurutani
  • 掲載日時:2026年6月2日(米国東部時間)オンライン版掲載
  • DOI:10.1021/acsaom.6c00251
  • URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsaom.6c00251

▼研究内容に関する問い合わせ先

・昭和医科大学 先端がん治療研究所 准教授
 伊藤 寛晃(いとう ひろあき)
 TEL: 03-3784-8145
 E-mail: h.ito@med.showa-u.ac.jp

・東京都市大学
 研究・社会連携推進部 研究推進課
 TEL: 03-6809-7484
 E-mail: sangaku@tcu.ac.jp

・地方独立行政法人 埼玉県立病院機構 埼玉県立がんセンター
 臨床検査科 川村 眞智子(かわむら まちこ)
 TEL: 048-722-1111
 FAX: 048-722-1129

▼広報に関する問い合わせ先

・学校法人 昭和医科大学
 総務部 総務課 大学広報係
 TEL: 03-3784-8059
 E-mail: press@ofc.showa-u.ac.jp

・東京都市大学
 総合企画局 企画・広報部 企画・広報課
 TEL: 03-6809-7450
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・地方独立行政法人 埼玉県立病院機構 埼玉県立がんセンター
 事務局
 TEL: 048-722-1111
 FAX: 048-722-1129
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▼本件リリース元

 学校法人 昭和医科大学
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