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作物増産に貢献する「プラズマ農学」の新展開 ~種子プライミング、バイオスティムラント技術の総説を発表~

作物増産に貢献する「プラズマ農学」の新展開 ~種子プライミング、バイオスティムラント技術の総説を発表~
【本研究のポイント】
・自然模倣した「人工太陽系」としてのプラズマ技術を提案。
・プラズマ活性種注1)が植物成長を促進するメカニズムを体系的に整理。
・「プラズマ農学」という新たな学際分野の確立に向けた基盤を提示。

【研究概要】

 名古屋大学低温プラズマ科学研究センターの石川 健治 教授の研究グループは、九州大学 古閑 一憲 教授、アタリ パンカジ 准教授らとの共同研究で、新学術領域である「プラズマ種子科学」に関するプラズマ種子プライミング注2)やバイオスティムラント注3)の新しい技術の総説を発表しました。  
 近年、世界的な食料需要の増大に伴い、作物生産性の向上が重要な課題となっています。本研究グループは、植物の成長促進および収量増加につながる新技術として、「非熱プラズマ」を用いたプラズマ種子プライミングに着目しました。
 プラズマは、電子やイオンなどを含む状態であり、空気と反応することで反応性酸素・窒素種(RONS)を生成します。これらの活性種を種子に作用させることで、植物の発芽や生育に影響を与えることが近年注目されています。
 本総説では、このプラズマを利用した種子処理手法に関する最新の知見を整理し、作物生産の向上につながる技術基盤として体系的にまとめました。 
 本研究成果は、2026年6月17日付で国際的な学術論文誌『Journal of Advanced Research』に掲載されています。

【背景】

図1:非熱プラズマ種子処理による植物成長促進・増収技術の最新動向を整理。

 近年、気候変動や土壌劣化、病害の増加により、農業生産においては安定的かつ持続可能な作物生産の実現が大きな課題となっています。こうした中、化学農薬や肥料への依存を抑えつつ植物の生育を促進する新規技術として、低温プラズマによる種子処理が注目されています。非熱プラズマによる種子処理は、発芽促進、初期生育促進、根系発達および葉面積拡大、ならびに地上部・地下部バイオマスの増加をもたらし、その結果として収量増加に結び付く技術として期待されています。(図1)。しかし、その生理作用の詳細な機構は未解明であり、実用化に向けた基盤理解が不足しています。特に、プラズマで生成される活性種がどのように種子内部へ取り込まれるのか、さらにそれらがタンパク質やDNA、遺伝子機能にどのような影響を及ぼすのかは重要な未解決課題です。また、直接的なプラズマ照射とプラズマ処理水などを用いた間接処理とで、植物応答にどのような差異が生じるのかについても明確な知見は十分ではありません。 
 本研究は、これらの個別課題を体系的に解明することで、プラズマ種子処理の作用機構を明らかにし、持続可能な農業生産技術の確立に貢献することを目的としています。

【今回発表した総説の内容】

 今回発表された総説では、世界的に進展しているプラズマを活用した種子処理技術の研究動向を体系的に整理しています。これまでの報告を概観すると、プラズマ処理が発芽率の向上や初期生育の促進、ストレス耐性の付与などに寄与することが示されており、種子改質技術としての有効性が広く認識されつつあります。
 非熱プラズマを種子に照射する技術は、植物が自然界で受けてきたさまざまな物理・化学的刺激の一部を、人工的に制御して与える技術として注目されています。太陽から地球へ降り注ぐ荷電粒子や宇宙環境の影響を直接再現するものではありませんが、生物が長い進化の過程で適応してきた環境ストレスを模擬する新たな手法の一つと考えることができます。このような刺激によって、種子が本来備えている発芽や成長に関わる生理機能が活性化され、植物の潜在的な能力が引き出される可能性が期待されています。非熱プラズマは、植物の「隠れたポテンシャル」を引き出す新しい技術として研究が進められています。 一方で、作用機構に関する理解は未だ不十分であり、基礎科学的観点からの整理が求められています。
 本総説では、このような現状を踏まえ、新たに「プラズマ種子プライミング」と「バイオスティムラント」という二つの概念を提唱しています。これまでの農業は、太陽光を主要な外部エネルギー源として利用しながら植物生産を支えてきました。一方、低温プラズマ技術は、生体に有益な反応性酸素・窒素種(RONS)を意図的に生成し、種子、植物、微生物、さらに土壌の機能を活性化できる新たな技術です。さらに、土壌における地産地消型の窒素固定や養分循環への応用可能性も示されています(図2)。すなわち、プラズマ処理を種子の発芽前生理状態を調整するプライミング技術として位置付けるとともに、プラズマにより生成される活性種を用いて処理することで、植物機能を活性化する生理調節因子(バイオスティムラント)として捉える視点です。この考え方に基づけば、農業における低温プラズマは、太陽エネルギーを補完する人工的な反応場として機能し、「人工太陽系」を実現する基盤技術になり得ると考えられます。
 さらに、これらの効果の基盤として、プラズマ由来活性種が種子内部に取り込まれ、タンパク質やDNA、遺伝子発現などの分子レベルの過程に影響を及ぼす可能性について考察しています。すなわち、軽度の酸化刺激がシグナルとして働き、発芽や成長を制御する生理応答を誘導するという枠組みで理解を試みています。
 以上より、本総説はプラズマ種子処理の現状を整理するとともに、その農業応用を「プライミング」と「バイオスティムラント」という統一的視点で再定義し、今後の機構解明と技術発展の方向性を示すものです。

図2:「人工太陽系」:低温プラズマ学に基づく新技術は、植物自身の潜在能力を引き出す直接効果としての種子プライミング、土壌環境を活性化するバイオスティミュラント効果の両面を有する。植物-土壌系全体の機能を高め、生産性向上に貢献する次世代農業技術として期待されている。

【意義】

 本研究の意義は、これまで個別に報告されてきたプラズマ種子処理の効果を、物理・化学・生物・農学を横断する「プラズマ農学」という統一的枠組みの中で整理し、プラズマによる種子制御と植物の分子レベルの応答を結び付けて理解しようとする点に見いだせます。この整理により、新たな農業技術としての理論的基盤と方向性を提示できる一方で、プラズマ処理の効果は条件依存性が高く、場合によっては効果が得られない、あるいは負の影響が生じることもあるため、照射条件や種子特性、活性種制御の標準化が不可欠です。さらに、多様な環境下での実証研究を進めることで、持続可能な農業の推進、化学資材の削減、食料生産効率の向上といった社会的課題への貢献が期待されます。
 本研究は、2024年度から始まった文部科学省『新学術領域研究(A)プラズマ種子科学』の支援のもとで行われたものです。

【用語説明】
注1)プラズマ活性種:
オゾン(O3)や一酸化窒素(NO・)、ヒドロキシルラジカル(OH・)などに代表される、エネルギーによって励起または生成された反応性酸化・窒素種(Reactive oxygen nitrogen species)の高い化学種の総称であり、一般に短寿命で強い化学反応性を有する。

注2)プラズマ種子プライミング:
プラズマを用いて種子に事前処理を施し、発芽や初期生育を改善する技術。従来のプライミング(吸水後に乾燥する処理など)と同様に、種子の生理状態を調整して発芽の均一性や速度を向上させることを目的とする。

注3)バイオスティムラント:
肥料や農薬とは異なり、植物に作用して、生理機能を活性化し、養分利用効率やストレス耐性、生育・収量の向上を促進する物質または技術の総称。これまでに、海藻抽出物、腐植物質、微生物資材などが利用されている。

【論文情報】
雑誌名:Journal of Advanced Research
論文タイトル:Sunlight to Plasma: Mimicking nature’s light for smarter agriculture and crop production
著者:Pankaj Attri (九州大学), Kenji Ishikawa (名古屋大学), Kazunori Koga (九州大学)      
DOI:10.1016/j.jare.2026.06.015 

本件に関するお問い合わせ先

名古屋大学 総務部 広報課

TEL
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FAX
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E-mail
nu_research@t.mail.nagoya-u.ac.jp

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