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【昭和医科大学】一度太ると痩せにくくなる仕組みを解明 ~肥満の“記憶”を生み出すRNAスプライシング異常を発見~

【昭和医科大学】一度太ると痩せにくくなる仕組みを解明 ~肥満の“記憶”を生み出すRNAスプライシング異常を発見~
昭和医科大学(東京都品川区、学長:上條由美)の宮﨑拓郎教授(大学院薬学研究科生物化学分野)を中心とする研究グループは、国内の大学・研究所等との共同研究により、一度太ると痩せにくく、減量後も体重が戻りやすくなる「肥満の記憶」の新たな仕組みを解明しました。脂肪組織のマクロファージに生じるRNAスプライシングの異常が、減量後も維持されることを発見したもので、リバウンドを防ぐ新しい肥満治療法の開発につながることが期待されます。
本研究は、2026年8月27日(日本時間)付で国際学術誌『Science Translational Medicine』に掲載され、本研究で撮影した画像が同誌第18巻第864号の表紙を飾りました。

【発表のポイント】

  • 遺伝情報を適切に利用するために必要なスプライシングの異常により、肥満によって生じた変化が、減量後も脂肪組織の免疫細胞に“記憶”として残ることを発見した
  • この「肥満の記憶」によって、マクロファージが死細胞から脂肪分解を促す物質を回収して脂肪細胞に届ける働きが低下し、減量後も痩せにくい状態が維持されることが明らかになった
  • 本成果は、「リバウンド」の背景にある分子生物学的な仕組みの一端を明らかにしたもの

【概要】

 肥満を改善して体重を減らしても、「以前より痩せにくい」「体重が戻りやすい」と感じる人は少なくありません。しかし、一度増えた体重がなぜ維持されやすくなるのか、その仕組みは十分に分かっていませんでした。
 昭和医科大学を中心とする研究グループは、肥満によって生じた変化が、減量後も脂肪組織の免疫細胞に“記憶”として残ることを明らかにしました。その中心となる仕組みとして、遺伝情報を適切に利用するために必要なスプライシング(RNAを加工して必要な情報を取り出す仕組み)の異常を発見しました。
 研究グループは、肥満により免疫細胞であるマクロファージにおいて生じたスプライシング制御異常が、体重減少後も長期間持続することを示しました。この「肥満の記憶」によって、マクロファージが死細胞から脂肪分解を促す物質を回収して脂肪細胞に届ける働きが低下し、減量後も痩せにくい状態が維持されることが明らかになりました。
 今回の成果は、「一度太ると痩せにくい」という現象を、細胞に残るスプライシング変化として説明する新しい概念を提示するものです。
 食事療法や運動などによって一時的に体重を減らしても、その後に体重が再び増加したり、減量が難しくなったりすることが知られています。本研究は、こうした「リバウンド」の背景にある分子生物学的な仕組みの一端を明らかにしたものであり、今後、「肥満の記憶」やスプライシングの変化がさらに解明され、これらを標的とした研究が進むことで、減量後の体重維持や体重再増加の予測、新たな肥満治療法の開発につながることが期待されます。

 本研究は、2026年8月27日(日本時間)付で国際学術誌『Science Translational Medicine』 にオンライン掲載され、本研究で撮影した画像が同誌第18巻第864号の表紙を飾りました。

【研究の背景】

 肥満は生活習慣病の代表的な危険因子であり、糖尿病や心血管疾患のリスクを高めることが知られています。食事制限や運動によって一時的に体重を減らすことはできても、その状態を維持することは難しく、多くの人がリバウンドを経験します。
 近年の研究により、いったん肥満になった体の細胞には、その状態が一種の「記憶」として刻まれ、やせた後も完全には元に戻らないことが分かってきました。例えば、脂肪細胞やマクロファージには、肥満により生じた炎症性の性質が、体重減少後も記憶として残ることが報告されています。
 脂肪組織には多数のマクロファージが存在し、脂肪組織の健康と病気の両方に深く関わっています。肥満になると、血液中を流れる単球という細胞が脂肪組織に集まり、マクロファージへと変化します。これらのマクロファージには、炎症を引き起こすタイプや、組織の修復を助けるタイプなど、複数の種類が存在することが知られています。
 組織の修復を助けるタイプのマクロファージは、老化したり死んだりした細胞を取り込んで除去する「エフェロサイトーシス」という働きを担っており、組織の健全な入れ替わりに重要です。しかし、肥満とその後の体重減少の過程で、この働きにどのような変化が起きるのかは、これまで十分に分かっていませんでした。
 一方、遺伝子からタンパク質が作られる過程では、「スプライシング」と呼ばれる、遺伝子情報の不要な部分を取り除いて必要な部分をつなぎ合わせる編集作業が行われます。この編集の仕方(選択的スプライシング)によって、同じ遺伝子から異なる性質を持つタンパク質(アイソフォーム)が作られることがあります。
 研究グループはこれまでに、動脈硬化病変において、CWC22というタンパク質がマクロファージのスプライシングを制御し、脂質の取り扱いに影響を与えることを報告してきました(Miyazaki T et al., J Clin Invest. 2016: doi: 10.1172/JCI85880.)。この仕組みが肥満とその後の体重減少にも関わっているのではないかと考え、今回詳細な検討を行いました。

【研究内容と成果】

1.肥満によってマクロファージのスプライシングが変化する
 研究グループは、マウスに高脂肪食を与えて肥満にさせた後、低脂肪食に切り替えて体重を減らす実験を行いました。その結果、体重の減り方には個体差があり、脂肪組織のマクロファージにおけるCWC22の働き(核内への移行)が低い個体ほど、体重が減りにくい傾向が見られました。さらに、マクロファージのCwc22遺伝子を欠損させたマウスを作製したところ、肥満になる過程には影響がない一方で、その後の体重減少が遅れ、脂肪組織の重量が増加しました。これらのマウスの脂肪組織では、死んだ細胞やその塊(王冠様構造)が通常より多く残っており、マクロファージによる死細胞の除去(エフェロサイトーシス)が低下していることが分かりました。
 次にマクロファージの中で起きている変化を遺伝子レベルで網羅的に解析したところ、選択的スプライシングの再構成が生じていることが分かりました。興味深いことに、肥満時に生じたスプライシング変動遺伝子のうち、約半数が体重減少後も持続していました。これは、遺伝子の発現量そのものの変化(トランスクリプトーム)よりも安定して保持される、新しいタイプの「肥満の記憶」であると考えられます。

2.スプライシング異常が死細胞の除去と脂肪分解を妨げる
 スプライシングの変化が起きていた遺伝子の中に、死細胞を細胞に取り込む受容体をつくる「Scarb1」がありました。この遺伝子からは、通常は「SR-BI」というタンパク質が作られますが、CWC22の機能が低下すると、別の型である「SR-BII」が多く作られるようになることが分かりました。SR-BIとSR-BIIが細胞内で一緒に作られると、両者が結合して異常な複合体を形成し、細胞膜に運ばれずに小胞体にとどまって分解されてしまうことが判明しました。その結果、細胞表面で死細胞の取り込みに働くSR-BIの量が減少し、エフェロサイトーシスの働きが低下すると考えられます。さらに、エフェロサイトーシスによって死細胞が取り込まれる際に、その中身から「イノシン」という物質が回収されることも分かりました。イノシンは脂肪分解を促す作用があることが知られています。CWC22の働きが低下したマウスでは、このイノシンの産生が減少しており、脂肪の分解が滞ることで、体重が減りにくくなっていると考えられます。そこで、Scarb1遺伝子の異常なスプライシング産物を除去する人工核酸(アンチセンス核酸)をマウスに投与したところ、SR-BIIの量が減少し、脂肪組織でのイノシン産生と脂肪分解が回復し、肥満後の体重減少が促進されました。

3.ヒトのマクロファージにも同様のスプライシング異常が存在する
 ヒトの脂肪組織に存在するマクロファージを解析したところ、肥満度(BMI)が高い人ほどCWC22の働きが低下していることが分かりました。さらに、ヒトの脂肪組織や血液由来のマクロファージを用いた実験でも、CWC22やSR-BIの働きを抑制すると、エフェロサイトーシスとイノシン産生が低下するため、マウスと同様の仕組みが存在することを確認できました。
 これらの結果から、マウスで明らかになった「CWC22の機能低下→スプライシング異常→死細胞の除去低下→イノシン産生低下→脂肪分解低下」という仕組みが、ヒトにも存在する可能性が示されました。

【今後の展開】

 本研究により、肥満を経験したマクロファージには、遺伝子発現そのものの変化とは異なる「スプライシングの記憶」が刻まれ、これが死細の処理能力の低下とイノシン産生の減少を介して、肥満後の体重減少を妨げる一因となっていることが明らかになりました。
 これまでの肥満研究では、遺伝子の量的な変化(エピジェネティクスやトランスクリプトーム)に注目が集まっていましたが、本研究は、遺伝子そのものが変化するのではなく、スプライシングという特定の遺伝子のバリエーションの変化が、マクロファージの機能に長期的な影響を与えることを示した点に大きな意義があります。
 転写全体を標的とする治療法は、免疫機能や組織修復など他の重要な生命維持機能にも広く影響を及ぼすリスクがありますが、特定のスプライシング異常のみを是正するアプローチは、副作用を抑えつつマクロファージの機能を回復させる、より精密な治療戦略となる可能性があります。
 今後、どのような人が肥満後に「やせにくい」体質になりやすいかを事前に見極める診断法の開発や、SCARB1遺伝子をはじめとするスプライシング異常を標的とした治療法の臨床応用に向けた研究が期待されます。

【用語解説】

  • マクロファージ 
    体内に存在する免疫細胞の一種。異物や死んだ細胞を取り込んで処理するほか、組織の修復や炎症の調節にも関わる。
  • エフェロサイトーシス
    マクロファージなどが、アポトーシス(細胞死)を起こした細胞を取り込んで処理する働き。組織の健全な入れ替わりに重要。
  • 選択的スプライシング
    1つの遺伝子から作られる「設計図(mRNA)」の編集過程で、含める部分・除く部分の組み合わせを変えることで、複数の異なるタンパク質(アイソフォーム)を作り出す仕組み。
  • CWC22
    mRNAのスプライシングに関わるタンパク質。エクソン結合複合体(EJC)の形成に必要な因子の一つ。
  • イノシン
    プリン代謝の中間産物で、脂肪組織における脂肪分解を促す作用が報告されている物質。
  • SR-BI/SR-BII
    Scarb1遺伝子から作られる2種類のタンパク質(アイソフォーム)。コレステロールの取り込みや死細胞の認識に関わる受容体として機能する。

【論文情報】

  • 掲載誌:Science Translational Medicine
  • 題 名:Aberrant alternative splicing memorized in adipose tissue macrophages impedes efferocytosis during post-obesity weight loss
  • 著者名:宮﨑 拓郎¹˒²˒³*、白石 慧⁴、杉浦 悠毅⁵˒⁶、塩沢 英輔⁷、水野 聖哉⁸、山口 碧⁹、中野 僚太¹⁰、内田 有希¹¹、吉川 輝¹¹、細沼 雅弘¹²、原口 省吾²˒³、森戸 大介²˒³、青木 武士¹³、矢持 淑子⁷、上條 翔太郎¹⁰、泉﨑 雅彦¹¹、設楽 浩志⁹、武富 芳隆¹⁴、高橋 智⁸、佐竹 炎⁴
     1. 昭和医科大学大学院薬学研究科生物化学分野
     2. 昭和医科大学大学院医学研究科生化学分野
     3. 昭和医科大学病態分子生化学研究センター
     4. 公益財団法人サントリー生命科学財団
     5. 京都大学大学院医学研究科附属がん免疫総合研究センター マルチオミクス・プラットフォーム
     6. 慶應義塾大学 ヒト生物学-微生物叢-量子計算研究センター(WPI-Bio2Q)
     7. 昭和医科大学大学院医学研究科臨床病理診断学分野
     8. 筑波大学生命科学動物資源センター
     9. 東京都医学総合研究所 動物実験開発室 遺伝子改変動物室
    10. 昭和医科大学大学院薬学研究科生理学分野
    11. 昭和医科大学大学院医学研究科生体調節機能学分野
    12. 昭和医科大学大学院医学研究科医科薬理学分野
    13. 昭和医科大学大学院医学研究科消化器一般外科学分野
    14. 東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター健康環境医工学部門
    *責任著者
  • DOI:10.1126/scitranslmed.adv0221
  • URL: https://www.science.org/doi/10.1126/scitranslmed.adv0221

▼本研究に関する問い合わせ先
 昭和医科大学 大学院薬学研究科 生物化学分野 教授
 宮﨑 拓郎
 TEL:03-3784-8217
 E-mail:taku@pharm.showa-u.ac.jp

▼本件リリース元
 学校法人 昭和医科大学 総務部 総務課 大学広報係
 TEL:03-3784-8059
 E-mail:press@ofc.showa-u.ac.jp

添付資料