光合成反応における光損傷と修復のメカニズム解明 ~傷ついたタンパク質を見つけて分解するしくみを明らかに~–摂南大学
・光は、光合成に必要なエネルギー源ですが、同時にタンパク質でできた光合成を担う装置(光化学系II[1])を傷つけてしまいます。
・光化学系IIには電気系統のヒューズのように傷つきやすい部品タンパク質があり、傷つくと速やかに交換されます。しかし、その部品タンパク質が傷ついていることをどのように見分けるかは謎のままでした。
・今回、部品タンパク質内の特定のアミノ酸が酸化されることがその目印になることを日本、中国、フランス、ドイツの国際共同研究により解明しました。この成果は、光合成の効率を高めるなどの応用への貢献が期待されます。
光合成には光が必要ですが、光は同時に活性酸素を生じ、光合成装置を傷つけてしまうことが知られています。光合成装置の光化学系IIはさまざまなタンパク質からなる複合体ですが、その部品であるタンパク質がダメージを受けてしまうのです。植物などの光合成生物は傷ついた部品タンパク質を取り替えるという仕組みを創り上げてきました(光合成装置の修復)[2]。しかし、細胞の中でどのように傷ついた部品タンパク質と無傷の部品タンパク質を見分けているかは謎のままでした。今回の研究では、光合成装置の中でヒューズのような役割をする部品タンパク質に生じるアミノ酸の酸化[3]がきっかけとなり、傷ついたタンパク質が取り除かれ、修復されることが明らかとなりました。
効率的に傷ついた光合成装置を修復する仕組みをより詳しく理解することは、光合成効率の向上につながると考えられます。
この研究成果は11 月21 日8時(グリニッジ標準時)に、国際科学誌「eLife」に掲載されました。
◆研究者からのひとこと(坂本教授)
たくさんのタンパク質が組み合わさってできている光合成装置は知れば知るほど精密な機械みたいです。その精密な装置ではどうしても部品が壊れてしまうことがあるのですが、壊れた部品をちゃんと見分ける仕組みまであるのは驚きです。
たくさんの部品の中から、壊れた部品を見分け、それだけ作り直す。植物ははるか以前からリサイクルをしていたのですね。
■発表内容
<現状>
光合成は植物だけでなく、私たち人間をはじめ、すべての生物が地球上で生きていくための基盤となっています。地球上ではさまざまな環境で植物をはじめとする光合成生物が繁茂し、多様な生態系の基礎を作り出していますが、光合成生物の起源と考えられるシアノバクテリアから森の木々まで、光エネルギーを吸収する基本的な仕組みは驚くほど共通しています。
坂本教授の研究グループは、斑入り葉の研究から光合成装置の傷ついたタンパク質を選択的に分解するタンパク質分解酵素FtsHを見つけ出し、これまで研究を続けてきました。タンパク質分解酵素FtsHは、強光などにより傷ついたD1タンパク質の分解に重要な役割を果たすことは知られていましたが、どのように傷ついたD1タンパク質を見分けているかは未解明のままでした。今回の研究では、岡山大学の小澤真一郎助教(特任)、摂南大学の加藤裕介講師、東京大学の石北央教授と斉藤圭亮准教授、中国科学院、フランス国立科学研究センター、ミュンスター大学らによる4カ国6機関による国際共同研究で、この疑問の解明に取り組みました。
D1タンパク質は光合成装置である光化学系IIのなかで、明反応の中心的な役割を担っており、その反応の結果として活性酸素が生じることがわかっていました。また、一般に活性酸素はタンパク質を酸化させることでダメージを与えることもわかっていました。これらのことから活性酸素の発生場所であるD1タンパク質が真っ先に損傷するのは活性酸素による酸化と推測できます。
<社会的な意義>
今回の研究で、傷ついたタンパク質を見分けるという最も基本的な仕組みを明らかにすることができました。故障した機械をすぐに修理して生産性を上げるように、機能が低下したタンパク質をすばやく除去し、修復することは光合成の効率を保つために必要不可欠です。今回の研究を通し、さらに効率的な修復機構をつくり出すことは、光合成効率を上げる技術へつながると期待されます。また、同じ仕組みが光合成物で普遍的にあることが期待され、植物だけでなく、バイオ燃料などの生産に使われる藻類などへの応用も期待されます。
■論文情報
論 文 名:Characterization of Tryptophan Oxidation Affecting D1 Degradation by FtsH in the Photosystem II Quality Control of Chloroplasts
掲 載 紙:eLife, 2023年11月21日
著 者:Yusuke Kato, Hiroshi Kuroda, Shin-Ichiro Ozawa, Keisuke Saito, Vivek Dogra, Martin Scholz,Guoxian Zhang,Catherine de Vitry, Hiroshi Ishikita,Chanhong Kim, Michael Hippler, Yuichiro Takahashi, and Wataru Sakamoto
D O I : https://doi.org/10.7554/eLife.88822
■研究資金
本研究は、科学研究費(学術変革領域Aおよび基盤研究B)、公益社団法人大原奨農会の研究助成により行われました。また本研究の一部は、岡山大学の生命科学RECTOR国際光合成拠点プログラムによるドイツとの国際共同研究として行われた成果です。
■補足・用語説明
[1] 光化学系II:光合成の明反応における重要なタンパク質複合体。光エネルギーを利用して、光合成反応の始まりとなる水分子から電子を取り出すプロセスを担う。この水分解の副産物として、酸素が発生する。
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