高速でき裂が完治する自己治癒セラミックスを開発 ~骨の治癒がヒントに!フライト中にヒビを治す航空機エンジン用部材の実現へ大きな一歩~ 横浜国立大学
本研究グループは、自己治癒セラミックスにき裂が入ると、き裂から侵入した酸素と、セラミックスに含まれる炭化ケイ素が反応して二酸化ケイ素が合成され(炎症)、セラミックスの母体であるアルミナと二酸化ケイ素が反応してき裂を充填し(修復)、結晶化して強度が回復する(改変)という三段階で治癒が進むことを明らかにしました。さらに骨の治癒を促進する体液ネットワークをヒントに、セラミックスの治癒を活性化する酸化マンガンを、アルミナの粒界に極微量配置することで(図参照)、従来材では1000℃で1000時間かかっていたき裂の治癒時間を、最速1分程度で完治させることに成功しました。
本研究成果をもとに、治癒活性相の種類を適切に選定することで、優れた自己治癒機能を自在に付与した、「割れが入っても壊れない」革新的高温用セラミックスの開発を目指します。
本研究成果は、Scientific Reports誌のオンライン版に英国時間2017年12月19日10時(日本時間19日19時)に掲載されました。
研究の背景
これまで、酸化反応性の高い自己治癒エージェントの探索によって、自己治癒する温度領域の拡大と、高速化を目指した研究が行われてきました。しかしき裂が入ったあとに、自己治癒エージェントがどのようにき裂部位を充填していくのか、詳細なメカニズムは未解明のままでした。そのため、セラミックスの治癒機構を調査し、治癒速度を決定する因子解明と、求められる温度環境下において超高速でき裂を完治できる、新たな自己治癒セラミックスの開発と設計指針の構築を目指しました。
研究内容と成果
本研究では、航空機エンジン用タービン翼が作動する温度の一つである1000℃において、従来のAl2O3/ SiC複合材に比べ最大で6万倍速い1分という短い時間でき裂を完治できる新たな自己治癒セラミックスの開発に成功しました。この高速化は、Al2O3/ SiC複合材のミクロ組織構造を変えることなく、治癒活性相という新たな物質をごく少量添加するのみで達成することが可能です(図2)。
まず、横浜国大で1995年に提案され、長年の研究によって優れた高温特性を有することが実証されているAl2O3/ SiC複合材の自己治癒機構を、NIMSの有する最先端分析機器とノウハウを用いて詳細に調査しました。その結果、人工的な自己治癒セラミックスにも、骨の炎症・修復・改変期の一部に類似した素過程があることを見出し、これら素過程には、自己治癒エージェントであるSiCだけでなく、周囲に存在する母相であるAl2O3の存在が重要な役割を果たしていることを明らかにしました。き裂が入ると、外部から侵入してきた酸素とSiCが反応して酸化物(SiO2)が生成されます(炎症期)。その後、Al2O3が生成したSiO2と反応し、粘度の低いAl2O3-SiO2の過冷却融体を一時的に生成してき裂を充填します(修復期)。さらに、過冷却融体が結晶化し、機械的に強固なクリストバライト(1)とムライト(2)の結晶相を生成する改変期を有することが明らかとなりました(図1)。
次に、熱力学平衡計算(3)を駆使し、Al2O3と同じ役割を持ち、さらに修復・改変期の反応速度を格段に高速化する「治癒活性相」という新たな物質の探索を実施しました。本研究では、1000℃付近で使用される高温部材を想定して、酸化マンガン(MnO)が極めて有効であることを計算により見いだしました(図3)。
一方、MnOの配置に関しては、骨の骨細胞とそのネットワーク構造をヒントに、添加場所を、主なき裂進展経路である、Al2O3の粒界やAl2O3/ SiC界面に添加場所を限定・局在化させました。これにより、どこにき裂が入っても、必ずき裂面にMnOが存在することになり、微量添加であっても効果を最大化できます。状態図計算より得られた最適な温度で焼結し、最終的に治癒活性相の3次元ネットワーク構造を有する新たな自己治癒セラミックスの開発に成功しました(図4)。
掲載論文
題目: A Novel design approach for self-crack-healing structural ceramics with 3D networks of healing activator
著者: Toshio Osada, Kiich Kamoda, Masanori Mitome, Toru Hara,Taich Abe, Yuki Tamagawa, Wataru Nakao, Takahito Ohmura
雑誌: Scientific Reports
掲載日時: 英国時間2017年12月19日10時(日本時間19日19時)
(1)クリストバライト
ケイ素(Si)の酸化物であるニ酸化ケイ素(SiO2)の結晶構造の一つ。
(2)ムライト
アルミニウムの酸化物であるアルミナ(Al2O3)とSiO2がおよそ3:2の割合で化合した中間化合物。化学式は3Al2O3·2SiO2と示される。アルミナに匹敵する耐熱性を有するため、工業用の耐熱材料としても多く使用されている。
(3)熱力学平衡計算
多成分系(多元系)の酸化物や合金が、平衡時においてどのような状態をとるかを推定する手法で、ここでは、酸化物系のデータベースを備えたソフトウエア(FactSage)を用いた。それにより多元系酸化物の組成、温度、圧力から平衡状態図や過冷却融体の粘度等の予測が可能となる。
本件に関するお問い合わせ先
主任研究員 長田 俊郎(おさだ としお)
- OSADA.Toshio@nims.go.jp