【海洋コア国際研究所】世界初!ヒマラヤ・チベット造山帯における深部起源二酸化炭素の放出量を明らかにー年間約3,680万トンの「隠れた炭素源」を解明
【研究成果のポイント】
- 地球温暖化に関連して大気-海洋間など地球表層での炭素循環は研究が進んでいる。一方、深部起源のマントルに至る炭素循環は不明な点が多い。
- 中央海嶺や沈み込み帯、ホットスポットなど第四紀の火山活動が活発な地域では、二酸化炭素放出量の報告例はあるが、大陸プレート同士が収束する大規模な隆起帯では研究例がない。
- インドとアジアが衝突して形成されたヒマラヤ・チベット造山帯において、二酸化炭素放出量を観測し、それが第四紀の火山帯に匹敵することを明らかにした。
【概要】
高知大学海洋コア国際研究所の佐野有司所長は、中国・天津大学のMaoliang Zhang准教授、内モンゴル工科大学のWei Liu助教らとともに、ヒマラヤ・チベット造山帯における深部起源の二酸化炭素放出量が中央海嶺や沈み込み帯の火山からの放出量に匹敵することを明らかにしました。本研究によって、地球温暖化の要因となる大気中の二酸化炭素の動態に、地球深部からの新たな要素が付け加わりました。本研究成果は2月15日付けの中国科学院機関誌「Science Bulletin」に掲載されました。
【研究の背景】
大気や海洋など地球表層の循環に加わる炭素は地球全体の約20%に過ぎない。一方、マントルに至る深部循環には残りの80%が関与している。2020年までの研究では、深部炭素放出量の推定は中央海嶺、沈み込み帯、ホットスポットなどの第四期の火山帯に限定されていた。本研究ではインドとアジアが衝突して隆起するヒマラヤ・チベット造山帯における深部起源二酸化炭素の放出量を世界で初めて見積もり、第四期の火山帯や東アフリカ地溝帯での放出量と比較検討した。
【研究の目的・内容・成果】
地球には主として2つの炭素循環が存在する。その1つは表層の炭素循環であり、呼吸や光合成といった生物活動、岩石の風化による二酸化炭素の消費、有機物の土壌への埋没と隔離、大気と海洋間の二酸化炭素の交換などを含み、時定数の短い現象である。この表層循環に加わる炭素は地球全体の約20%に過ぎない。一方、マントルや核など地球深部まで含めた時定数の長い深部循環には残りの80%が関与している。しかし、深部炭素循環の研究は表層循環に比べて遅れている。この原因の1つとして、炭素には安定同位体として質量数12と13の2核種が存在するが、この同位体比(δ13C値、注1)から3つ以上の端成分の混合は解析できないためである。表層炭素は、炭酸塩起源の重い炭素(δ13C値=0‰)と光合成活動が関与した軽い炭素(δ13C値=-30‰)の混合とそれらの分別によって説明される。一方、地球深部のマントルには同位体比が中間的な炭素(δ13C値=-6‰)が存在する。沈み込み帯の火山の噴気ガスには、3つの起源の炭素が関与しており、δ13C値から各成分の寄与を推定できない。そこで1990年代にはマントルにある始原的な3He(注2)に注目して、島弧火山ガス中の二酸化炭素はδ13C値とCO2/3He比からマントル起源、炭酸塩起源、有機物起源の3成分の混合で説明され、全球的な二酸化炭素の放出モデルが提出された(文献1)。一方、2020年代になって、伸張的な応力場で大陸が分裂する東アフリカ地溝帯で総合的な観測が行われ、中央海嶺、沈み込み帯、ホットスポットなどの第四期の火山帯に匹敵する大量の深部起源二酸化炭素の放出が示されNature誌に掲載された(文献2)。一方、大陸プレート同士が衝突して隆起する圧縮的な応力場での二酸化炭素放出に関わる報告例はなかった。本研究ではインドとアジアが衝突して隆起するヒマラヤ・チベット造山帯における二酸化炭素の放出量を観測した。具体的には図1に示すヒマラヤ(Himalayas)からラサ地塊(Lhasa block)に至る地域にある76の地熱地帯で土壌ガスや温泉遊離ガスを採取するとともに、現地で二酸化炭素の放出量を計測した。研究室に持ち帰った試料のヘリウム同位体比(3He/4He)や二酸化炭素のδ13C値を測定した。得られたデータを総合した結果、二酸化炭素の総放出量は36.8Mt/年と推定された。

図2に示すように、この値は第四紀の火山帯である中央海嶺(84Mt/年)、沈み込み帯の島弧火山(77Mt/年)、ホットスポット地域のマントルプルーム(33Mt/年)に匹敵するだけでなく、東アフリカ地溝帯の二酸化炭素放出量(71Mt/年)と比較することができる。この結果は全球的な物質循環において重要な成果である。

【成果の意義/今後の展望】
インド・アジア衝突帯における深部二酸化炭素の放出量推定値(36.8 Mt/年)と世界のその他の非火山性放出量を積算すると約157Mt/年になる。この値は火山性放出量の積算値である194Mt/年に匹敵し、地球温暖化予測に必要な長期的気候モデルに統合する必要がある。我が国でも規模は小さいが、本州中央部の伊豆・丹沢地域や北海道中部の日高山脈などでは衝突型の地殻変動が認められる。今後の展望として、これらの地域での観測は地球化学的に重要な課題である。
[用語解説]
注1)試料の炭素同位体比(13C/12C)は標準試料であるベレムナイト化石の同位体比(0.011237)からのズレを1000分率で表し、δ13C値とする。
注2)ヘリウムには安定な同位体として3Heと4Heが存在する。3Heは始原的成分と呼ばれ、46億年前の地球形成時に原始太陽系星雲の一部が地球深部のマントルに取り込まれたとされる。一方、4Heは超半減期のウランやトリウムの放射壊変で形成され、放射性起源成分とされる。この両者の比(3He/4He)をヘリウム同位体比と呼び、地球上では10-9から10-4まで5桁も変動する。
【論文情報】
掲載雑誌:Science Bulletin
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2095927325009958?via%3Dihub
論文名:Extensional rifts liberate substantial amounts of deeply-sourced CO2 from the Himalayan-Tibetan orogen
DOI:https://doi.org/10.1016/j.scib.2025.09.055
著者:Maoliang Zhang, Yi Liua, Wei Liu, Xian-Gang Xie, Yuji Sano, Yun-Chao Lang, Sheng Xu, Cong-Qiang Liu
【文献】
文献1 Sano, Y. and Williams, S.N. Fluxes of mantle and subducted carbon along convergent plate boundaries. Geophysical Research Letters, 23, 2749-2752, 1996.
文献2 Muirhead, J.D., Fischer, T.P., Laizer, A., Oliva, A.S., Judd, E.J., Lee, H., Kazimoto, E., Ebinger, C.J., Sano, Y., Takahata, N., Tiberi, C., van Wijk, J., Dufek, J., Foley, S.F., Currie, C.A. Displacement of cratonic mantle and lithospheric channeling concentrates deep carbon during continental rifting. Nature 582, 67-72, 2020.
研究に関するお問い合わせ先
海洋コア国際研究所 所長/特任教授 佐野有司
TEL:088-864-6712 (事務室)
E-mail:yuji.sano[at]kochi-u.ac.jp ※ [at]を@に置換してください。
本件に関するお問い合わせ先
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