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【昭和医科大学】腸内細菌がつくる「超硫黄分子」が腸内環境と細菌機能を制御 ― 還元環境の形成とタンパク質修飾による新たな仕組みを解明 ―

【昭和医科大学】腸内細菌がつくる「超硫黄分子」が腸内環境と細菌機能を制御 ― 還元環境の形成とタンパク質修飾による新たな仕組みを解明 ―
昭和医科大学(東京都品川区/学長:上條由美)臨床薬理研究所の内山純 特別研究学生(慶應義塾大学大学院薬学研究科博士課程)と秋山雅博 准教授らの研究グループは、腸内細菌が「超硫黄分子」と呼ばれる反応性の高い硫黄化合物を産生し、腸内を還元的な環境に保つとともに、タンパク質の化学修飾を介して自らの機能を調節していることを明らかにしました。
腸内細菌が“自ら環境をつくり、その中で機能を変える”という新たな仕組みを示した成果であり、腸内細菌研究に新しい視点をもたらします。本研究成果は国際学術誌『Redox Biology』に掲載されました。

■研究のポイント

・ 腸内細菌が産生する超硫黄分子が腸内の還元環境を形成することを確認
・ 特定の腸内細菌が超硫黄分子を多く産生し、酸化ストレスから自身を守る仕組みを発見
・超硫黄分子が細菌タンパク質の「超硫黄修飾」を介して、酵素活性を調節することを解明
・腸内細菌種ごとに超硫黄修飾パターンが異なることを発見

■研究概要

 腸の中には数百〜数千種類もの細菌が生息しており、これらの集まりを腸内細菌叢*¹と呼びます。腸内細菌は、短鎖脂肪酸や胆汁酸などのさまざまな代謝物を生み出すことで、宿主の代謝や免疫、体内のバランス(恒常性)の維持に重要な役割を果たしています。
 研究グループはこれまでに、腸内細菌が「超硫黄分子」*²と呼ばれる高い還元力と抗酸化能を持つ硫黄化合物を作り出し、宿主の酸化ストレスから体を守る働きに関与することを報告してきました(Uchiyama et al., Cell Rep., 2022)。しかし、これらの分子が腸内環境や腸内細菌自身の働きにどのように関与しているのかは十分に明らかになっていませんでした。
 本研究では、腸内細菌が産生する超硫黄分子が腸内の還元環境を形成するとともに、細菌タンパク質の化学修飾を介して細菌自身の機能を調節することを明らかにしました。

研究の背景

 腸内は一般に酸化が起こりにくい還元的な環境に保たれていますが、その環境がどのように形成されているのかは十分に解明されていません。一方、超硫黄分子は強い還元力を持ち、宿主細胞では酸化ストレス防御やタンパク質機能の調節に関与することが報告されています。
 そこで研究グループは、腸内細菌が産生する超硫黄分子が腸内環境の形成や細菌自身の機能制御に関わっている可能性に着目し、その役割を解析しました。

■研究結果

1. 腸内細菌由来硫黄化合物が腸内の還元環境の形成に関与する
 抗菌剤を投与して腸内細菌を減少させたマウスでは、糞便中の超硫黄分子を含む硫黄化合物量と還元力が低下しました。一方、シスチンを多く含む飼料を与えたマウスでは、超硫黄分子量と還元力が増加しました。これらの結果から、腸内細菌が作り出す超硫黄分子が腸内の還元環境の形成に寄与していることが明らかになり、腸内細菌が腸内環境を形成する主体であることが示されました。

2. 特定の腸内細菌が強い還元環境を形成する
 単菌培養系を用いた解析の結果、Dorea longicatenaEnterocloster bolteaeなどの腸内細菌は、シスチン存在下で多くの超硫黄分子を産生し、周囲の環境の還元力を高めることが明らかになりました。さらに、これらの細菌では過酸化水素による酸化ストレスが抑えられており、超硫黄分子が細菌自身を酸化ストレスから守る役割を持つ可能性が示されました。これにより、特定の腸内細菌が自ら周囲の環境を制御している可能性が示されました。

3. 超硫黄分子は細菌タンパク質の機能を調節する
 解析の結果、超硫黄分子は腸内環境を還元的に保つだけでなく、細菌タンパク質に「超硫黄修飾」*⁴と呼ばれる化学修飾を加えることで、その機能を調節していることが明らかになりました。この修飾は酸化ストレスによって減少し、シスチンを多く含む食事を与えたマウスでは増加しました。さらに、外部から超硫黄分子を与えると、細胞内の超硫黄分子量やタンパク質修飾状態が変化する菌種が確認されました。特に Lactobacillaceae科の細菌は、周囲の超硫黄分子環境の影響を受けやすいことが明らかになりました。すなわち、腸内細菌は自ら産生する分子を介して自身の機能を調節していることが示されました。

4. 超硫黄修飾によって細菌酵素の働きが変化する
 胆汁酸*⁵の代謝に関わる酵素であるbile salt hydrolase(BSH) に着目して解析を行った結果、この酵素は超硫黄修飾を受けることで活性が高まることが明らかになりました。この結果は、超硫黄分子が細菌タンパク質に化学修飾を加えることで、代謝を含む細菌の機能そのものを変化させる可能性を示しており、細菌機能が化学的に制御される新たな側面を示唆しています。

■今後の展望

 本研究は、腸内細菌が腸内の還元環境を作り出す主体であると同時に、超硫黄分子を利用して自身の機能を調節していることを示した初めての報告です。
 これまでの腸内細菌研究は、菌の種類や量といった量的変化の解析が中心でした。一方、本研究は、腸内細菌が自ら化学的な環境を作り出し、その環境の中でタンパク質の化学修飾を介して機能を変化させることで、同じ菌であっても働きが変わるという質的変化の重要性を示しています。
 今後は、このような腸内細菌の質的変化が、腸内環境の恒常性維持や疾患の発症、さらには宿主(ヒト)との相互作用にどのように関与するのかを解明することが期待されます。本研究の知見は、腸内細菌叢を構成だけでなく機能状態として評価する新たな指標の確立につながるとともに、腸内環境の乱れが関与するさまざまな疾患の理解や、新たな予防・治療戦略の創出に貢献することが期待されます。

■用語説明

*1 腸内細菌叢
 ヒトや動物の腸内に生息する多種多様な細菌の集まり。代謝、免疫、腸内環境の維持などに深く関わり、宿主の健康に大きな影響を与えることが知られています。

*2 超硫黄分子
 複数の硫黄原子を含む反応性の高い硫黄分子群の総称。哺乳細胞においては強い還元力を持ち、酸化ストレスから細胞を守る働きや、タンパク質の機能を調節する働きを持つことが知られています。

*3 シスチン
 アミノ酸の一種であるシステインが2分子結合した化合物。生体内では硫黄代謝に関わる重要な分子であり、腸内細菌による超硫黄分子の主要な基質であることが明らかになっています。

*4 超硫黄修飾
 タンパク質中のシステイン残基などに硫黄原子が付加される翻訳後修飾の一種。これにより、酵素活性やタンパク質の働きが変化し、細胞の機能調節に関与することが明らかになりつつあります。

*5 胆汁酸
 肝臓でコレステロールからつくられ、脂肪の消化・吸収を助ける生体成分。近年では、消化を助けるだけでなく、代謝や免疫を調節するシグナル分子としても重要であり、腸内細菌によってその性質が変化することが知られています。

■研究成果の公表情報

【論文タイトル】
 Formation of a reducing microenvironment and regulation of protein supersulfidation by gut microbial supersulfides
【著 者】
 Jun Uchiyama, Yoshimi Shimizu, Takamitsu Unoki, Shingo Kasamatsu, Tomoaki Ida, Hideshi Ihara, Yun-Gi Kim, Koji Hase, Yuri Miura, Tomohiko Maehama, Maiko Kusano, Keitaro Umezawa, Masahiro Akiyama.
【掲載誌】
 Redox Biology,  2026年3月15日掲載
【DOI】
 10.1016/j.redox.2026.104123
【掲載URL】
 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2213231726001217
【研究助成】
 本研究は日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(課題番号:23K06102, 22H05576, 24H01331, 21H05259, 22H03523)および、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(課題番号:JPMJFR221A)の支援により実施されました。

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 https://www.u-presscenter.jp/article/11307

▼本件に関する問い合わせ先
 昭和医科大学 臨床薬理研究所 腸内細菌機能修飾学部門 准教授・部門長
 秋山 雅博(あきやま まさひろ)
 E-mail:akiyama.sw@med.showa-u.ac.jp

▼本件リリース元
 学校法人 昭和医科大学 総務部 総務課 大学広報係
 TEL: 03-3784-8059
 E-mail: press@ofc.showa-u.ac.jp

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