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従来評価困難だった半導体配線界面の化学構造変化の直接可視化に成功~AFM-IRによりCu/Low-k絶縁膜界面のナノメートルスケール化学構造変化を解析~

従来評価困難だった半導体配線界面の化学構造変化の直接可視化に成功~AFM-IRによりCu/Low-k絶縁膜界面のナノメートルスケール化学構造変化を解析~
株式会社東レリサーチセンター(所在地:東京都中央区日本橋本町一丁目7番2号、代表取締役社長:真壁 芳樹、以下、「TRC」)と芝浦工業大学(東京都江東区豊洲3丁目7−5、学長:山田純)デザイン工学部 田邉 匡生教授(リサイクルデザイン研究室)は、AFM-IR(原子間力顕微鏡赤外分光法)※1を用いて、半導体配線に用いられるCu(銅)配線とLow-k絶縁膜※2の界面近傍で生じるナノメートルスケール(1ナノメートルは10億分の1メートル)の化学構造変化を直接観察することに成功しました。

これまで、実際の半導体配線構造において、従来の赤外分光法では測定領域が広く、周辺領域の信号と平均化されるため、Cu配線近傍のごく限られた領域で生じる化学構造変化を直接評価することは困難でした。今回、TRCと田邉教授は本技術を用いて半導体配線界面における化学構造変化を直接可視化することで、Cu配線近傍においてLow-k絶縁膜の性能維持に重要なSi-CH₃(メチル基)やSi-H結合が減少し、水酸基(OH)に由来する成分が増加していることを明らかにしました。これらの化学構造変化は絶縁膜の誘電特性低下につながる可能性があり、半導体デバイスの性能低下要因の理解に役立つ重要な知見です。

本技術により、半導体製造工程で生じる界面ダメージや材料劣化について、その発生位置や化学変化をナノスケールで詳細に解析できるようになります。半導体材料開発や製造プロセス改善、および高性能・高信頼性半導体の開発への貢献が期待されます。
本成果は、応用物理学分野を代表する国際学術誌の一つであるJournal of Applied Physics誌に掲載(2026年8月5日オンライン公開)されました。

【背景】
AIやデータセンター向け半導体の高性能化に伴い、半導体回路の微細化が急速に進んでいます。配線幅や配線間隔が小さくなるにつれ、信号遅延やリーク電流などの問題が顕在化するため、低誘電率材料であるLow-k絶縁膜とCu配線の組み合わせが広く利用されています。

一方、エッチング、洗浄、CMP※3などの半導体製造工程においては、Cu配線とLow-k絶縁膜の界面近傍に微小な化学構造変化が生じることが知られており、これが絶縁特性低下やデバイス性能劣化の一因となる可能性が指摘されています。

こうした化学構造変化の原因を理解するためには、官能基レベルの分析が有効です。しかし、従来の赤外分光法※4では、赤外光のスポット径を絞っても測定領域が数マイクロメートル以上であるため、数十ナノメートルスケールの局所領域を直接評価することは不可能でした。また、電子顕微鏡による元素分析は可能である一方、官能基レベルの化学構造解析には限界がありました。そこでTRCと田邉教授は、ナノメートルオーダーで化学分析が可能なAFM-IRに着目しました(図1)。

図1 従来の赤外分光法とAFM-IRの分析領域の比較
従来の赤外分光法では、数μm以上の周辺情報も含めて平均的な情報が得られるのに対し、AFM-IRではAFM探針近傍の数十nmスケールの局所領域を分析可能である。


【本技術の概要】
このような背景のもと、今回、半導体配線構造を模擬したCu/Low-k絶縁膜試料(図2)を対象に、AFM-IRを用いて、Cu配線近傍の化学構造を調べました。

図2  評価対象としたCu/Low-k絶縁膜配線構造の模式図
Cu配線近傍のLow-k絶縁膜に対してAFM-IR測定を行い、Low-k絶縁膜中央部とCu配線界面近傍の化学構造を比較した。


Cu/Low-k絶縁膜配線構造の表面に対してAFM-IR測定を行った結果、Low-k絶縁膜中央部と比較して、Cu配線近傍ではLow-k絶縁膜の性能維持に重要なSi-CH₃(メチル基)およびSi-H結合が減少していることが確認されました。また、水酸基(OH)に由来する成分が増加していることも明らかになりました。さらに、このような化学構造変化は界面から数十ナノメートル程度の極めて狭い領域に集中していることも分かりました(図3)。これは、従来の赤外分析手法では捉えることが難しかった実配線構造中の局所的な化学変化を、AFM-IRによって直接観察できることを示しています。

 Low-k絶縁膜中のSi-CH₃基は低誘電率特性を維持するために重要な役割を果たしています。今回観察されたSi-CH₃基やSi-H結合の減少、およびOH成分の増加は、Low-k絶縁膜の絶縁特性低下につながる可能性を示しています。これにより、半導体製造工程が材料へ与える影響を化学構造変化の観点から理解できるようになりました。

(a)

図 3  Cu配線近傍におけるLow-k絶縁膜の化学構造変化
(a) AFM高さ像(左)とSi-CH3成分のAFM-IRマッピング像(右)

Cu界面近傍においてSi-CH3成分の局所的な減少が観察された。

(b)

図 3  Cu配線近傍におけるLow-k絶縁膜の化学構造変化
(b)AFM-IR測定結果から推定される化学構造変化の模式図

製造プロセス後、Si-CH3基の減少およびSi-H結合が消失し、Si-OH基などOH基や吸着水に関連する成分が増加すると推定された。AFM-IRにより、こうした化学変化が界面近傍の数十ナノメートル領域に集中していることが明らかとなった。


本成果は、半導体配線構造中で発生する局所的な化学構造変化をナノスケールで直接評価できることを示したものであり、半導体材料や製造プロセスの改良に向けた新たな解析アプローチとして期待されます。

【今後の展望】
今回確立したAFM-IRによる界面解析技術は、先端ロジック半導体や高性能コンピューティング向けデバイス、高密度配線デバイスなどにおいて、材料劣化や界面ダメージの原因を解析する有力な手法として活用が期待されます。また、エッチング、洗浄、CMPなどの各種製造工程による影響を比較評価できるため、製造条件の最適化や歩留まり向上、新規材料開発への応用も期待されます。

さらに、AFM-IRは半導体分野に限らず、ナノスケールでの化学状態評価が求められる先端材料の研究・技術開発にも応用可能であり、材料設計や不具合解析への活用範囲の拡大が期待されます。

TRCは今後も先端分析技術を活用し、お客様の材料開発やプロセス開発に貢献するとともに、次世代半導体の高性能化と高信頼性化を支援してまいります。

【掲載論文】
・Journal of Applied Physics
米国物理学協会が発行する応用物理学分野の査読付き国際学術誌。半導体・デバイス、電子材料、ナノ構造材料、光学・磁性材料など応用物理学の幅広い分野を対象としており、基礎研究から産業応用まで多様な研究成果を掲載している。

・URL: https://doi.org/10.1063/5.0344213

【用語解説】
※1 AFM-IR(原子間力顕微鏡赤外分光法)
赤外分光法(IR)と原子間力顕微鏡(AFM※5)を組み合わせた分析技術。赤外光レーザーを試料の表面側から照射し、赤外光の吸収によって生じる材料の熱膨張をAFMのカンチレバーで検出することで、ナノメートルスケールの化学分析が可能である。従来の赤外分光法では困難であった局所領域の官能基解析や化学状態評価を行うことができる。

※2  Low-k絶縁膜
半導体チップの中で配線同士が電気的に干渉しにくくするために用いられる絶縁材料。電気をため込む性質(誘電率:k)が低いため、配線間の不要な電気的干渉を低減し、デバイスの高速動作や低消費電力化を実現する重要な材料として利用されている。

※3 CMP(化学機械研磨)
化学反応と研磨を組み合わせて半導体表面を平坦化する製造工程。半導体製造で広く用いられている。

※4 赤外分光法
赤外線を物質に照射し、吸収スペクトルを解析することで、化学構造や成分を特定する分析手法。

※5 AFM(原子間力顕微鏡)
試料表面と探針の間に働く原子間力を検出し、表面の凹凸を高分解能で画像化する顕微鏡。

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入試・広報部 企画広報課

本澤

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