肥満解消に新たなプレイヤー – 北里大学
アクチビンEは、肝臓で特異的に作られる細胞の分化・増殖因子の一種として発見されましたが、長い間その機能は不明でした。今回アクチビンEを肝臓から過剰に分泌するマウスを作製したところ、対照のマウスと比べて血糖値が低く、インスリン感受性が向上しており、体温が高めでエネルギー代謝が亢進していることが分かりました。さらに、このマウスは高脂肪食を与えた場合でも体重増加が抑えられていました。白色脂肪組織を詳しく調べてみたところ、ベージュ脂肪や褐色脂肪のUcp1の量が増加し、ベージュ脂肪細胞自体も増加していたことから、脂肪組織において熱産生が盛んになり、エネルギー代謝が上昇していると考えられました。
一方、アクチビンE遺伝子を欠損させたマウスでは、寒冷刺激に対する反応が鈍く、白色脂肪組織中のベージュ脂肪細胞の減少が原因と考えられる低体温の症状がみられました。さらに、アクチビンEタンパク質を、培養した褐色脂肪細胞にふりかけたところ、Ucp1の量が増加したことから、アクチビンEに褐色脂肪細胞の熱産生を直接活性化させる働きがあることを確認しました。
以上の結果から、アクチビンEは、肝臓から分泌されるヘパトカインとして働き、褐色脂肪を活性化させ、白色脂肪でベージュ脂肪細胞を増加させることで、余分なエネルギーを熱に変換して消費させる役割があることが明らかになりました。このアクチビンEのダイエット効果は、糖尿病をはじめ種々の生活習慣病の原因となる肥満の治療薬につながる可能性があります。
■研究の背景■
日本人男性の約30%、女性の約20%が肥満であり、全世界の3人に1人が肥満または過体重であると言われています。肥満に伴い、糖尿病、高血圧、心臓病、通風、がん等の様々な疾患を発症しやすくなることが知られています。最近、この万病の元である肥満の有効な予防・治療法のターゲットとして褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞が注目されています。
肥満は白色脂肪組織への過剰な脂肪蓄積症であり、過剰に取り込んだエネルギーを脂肪に溜め込んでいる状態です。褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞は、余分なエネルギーを熱に変換して消費することができるため、この細胞の活性化や量を調節する新たな因子の発見が期待されていました。
人間の大人では、げっ歯類のような典型的な褐色脂肪はほとんどなく、白色脂肪組織中に誘導される特殊な褐色脂肪であるベージュ脂肪細胞が熱産生の一部を担っており、そのため白色脂肪をベージュ脂肪へと変化させる外的因子に注目が集まっていました。本研究では、褐色脂肪を活性化したり、ベージュ脂肪化を促進する新たな外的因子として、肝臓から分泌されるホルモン(ヘパトカイン)であるアクチビンEを発見しました。
アクチビンEは、その遺伝子配列情報から、TGF-ベータ【※1】ファミリーに属する細胞の分化・増殖因子の一つで肝臓で作られる因子として発見されましたが、長い間その機能は不明でした。マウスに高脂肪食を与えたり、空腹にすると肝臓のアクチビンE遺伝子の発現が上昇することから、栄養状態に関連する機能が予想されていましたが、その役割は謎でした。
【※1】「ベータ」は、ギリシャ文字小文字のベータ
■研究結果のポイント■
・アクチビンEを血中に多く分泌する遺伝子改変マウスでは、体温が高く、血糖値が低く保たれていた。
・このマウスの高いインスリン感受性とエネルギー代謝亢進は、褐色脂肪の活性化と白色脂肪組織内のベージュ脂肪細胞の出現に起因すると考えられた。
・反対に、アクチビンEを欠損したマウスでは、寒冷刺激でも白色脂肪組織内のベージュ脂肪細胞の出現が抑えられており、体温が低下した。
・アクチビンEをシャーレで培養した褐色脂肪細胞にふりかけると、褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞にのみ存在して熱産生のスイッチとして機能するタンパク質UCP1を増加させることから、アクチビンEが直接脂肪細胞に作用すると考えられた。
■今後の展開■
アクチビンEがどのような仕組みで褐色脂肪細胞の活性化や白色脂肪のベージュ脂肪化を引き起こすのか、その作用メカニズムを詳しく調べることにより肥満治療につながる医薬品の開発を目指す。
■掲載誌■
【雑誌名】
(掲載日:2018年10月30日(現地時間))
(インパクトファクター:8.032 2017年)
【論文名】
【著者名】
【DOI】
■用語説明■
【白色脂肪細胞】
【褐色脂肪細胞】
【ベージュ脂肪細胞】
【Ucp1】
【ヘパトカイン】
【メタボリックシンドローム】
▼研究に関するお問い合わせ先
・北里大学獣医学部獣医学科
実験動物学研究室
准教授 橋本 統(はしもと おさむ)
メール:ohashim@vmas.kitasato-u.ac.jp
・京都大学大学院農学研究科
動物栄養科学
准教授 舟場 正幸(ふなば まさゆき)
メール:mfunaba@kais.kyoto-u.ac.jp
先端科学技術研究科
幹細胞工学
教授 栗崎 晃(くりさき あきら)
メール:akikuri@bs.naist.jp
▼リリースに関するお問い合わせ先
・学校法人北里研究所
総務部広報課
電話:03-5791-6422
メール:kohoh@kitasato-u.ac.jp
・国立大学法人京都大学
総務部広報課 国際広報室
電話:075-753-5729
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・国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学
企画総務課 広報渉外係
電話:0743-72-5026
メール:s-kikaku@ad.naist.jp