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学習院大学理学部化学科の村松康行教授が「ヨウ素の微量分析法の開発と環境・地球化学への応用」に関する研究で2009年度「ヨウ素学会賞」を受賞。10月29日に開催される第12回ヨウ素学会シンポジウムにおいて、受賞講演を行う。
学習院大学理学部化学科の村松康行教授が、ヨウ素の基礎研究、応用研究、ヨウ素産業の分野で、その発展に著しく貢献した個人に対して授与される2009年度「ヨウ素学会賞」を受賞した。10月29日に千葉大学で開催される第12回ヨウ素学会シンポジウムにおいて、受賞講演を行う。
日本はヨウ素の最大級の産出国であり、世界の約4割を日本が占めている。その多くは、千葉県の地下に存在するかん水(塩分に富んだ水)から生産されている。また、新潟、宮崎、北海道などでも、ヨウ素濃度の高いかん水や温泉水が産出する。しかし、なぜヨウ素が濃縮しているのかは謎であった。また、ヨウ素は人や動物にとって必須元素であるが、その環境中での分布や循環については不明な点が多い。さらに、人為起源の放射性ヨウ素についても環境安全の面から注目されている。
村松教授は、ヨウ素とその放射性同位体(129I)の定量分析法を検討し、精度の良い手法を確立。その分析法を用い、上記のかん水や様々な環境試料の分析を行い、ヨウ素の環境や地球における分布と循環に関する多くの新しい知見を得ることができた。今回のヨウ素学会賞受賞は、こうした成果が評価されたものである。
◎受賞タイトル及び概要
「ヨウ素の微量分析法の開発と環境・地球化学への応用」
(1)地殻におけるヨウ素の分布: ICP-質量分析法を用い、地殻を構成する多くの岩石や堆積物に含まれるヨウ素を分析し、地殻におけるヨウ素の分布を明らかにした(添付資料 図1)。その結果、地殻のヨウ素の70%近くが海底堆積物中に存在し大陸を構成する岩石中には少ないことが分かった。
(2)千葉のヨウ素の起源: 上述した千葉のかん水の分析結果から、主成分濃度は海水とほぼ同じであるが、メタンを多く含み、ヨウ素濃度は100ppm以上あり、海水中濃度(0.05ppm)の約2千倍と高い値であることが分かった。また、ヨウ素の同位体である129I(半減期:1600万年)の加速器質量分析法を検討し、かん水中のヨウ素同位体の分析を行い、千葉のヨウ素が集積した年代を推定した。その結果、約4900万年前という値が得られ、これは、かん水が産出する地層の年代である約100~200万年とは大きく異なり、ヨウ素が他の場所から移動してきたことを意味する。海洋プレートはヨウ素に富んだ堆積物をのせマントル中に沈み込んでいくので、ヨウ素は堆積物中の間隙水と共に堆積物から絞り出され、海洋や地層中に放出されると推定した(添付資料 図2の海底の部分の矢印)。そして、千葉のかん水中にはこのプロセスに関係してヨウ素が濃縮したと考えられる。
また、日本近海の海底堆積物中にメタンハイドレートが存在し注目されているが、それと共存する間隙水(堆積物中の水)にもヨウ素が多く含まれていることが分かった。メタンハイドレートの成因には謎が多いが、ヨウ素の研究がそのヒントを与えてくれる可能性がある。
(3)環境中でのヨウ素の分布と挙動: 様々な環境物質(大気、雨水、土壌、植物、生物)に含まれるヨウ素濃度を分析し、環境中でのヨウ素の分布や濃縮に関する知見が得られた。また、土壌や海水から微生物の作用でヨウ素がメチル化され、大気中に揮発し、この経路が環境中でのヨウ素の循環に重要な役割を果たしていることを明らかにした。これら環境中でのヨウ素の挙動についても添付資料の図2にまとめてある。
(4)放射性ヨウ素による環境汚染の研究: 129Iに関しては、天然起源だけでなく、核実験、原子炉事故、核燃料の再処理などに伴い大気中に放出されている。そのため安全面からも環境中での129Iは注目されているが、分析が難しく世界的に見てもデータが少なかった。そこで、放射化分析法や加速器質量分析法を用い測定法を検討し、土壌などに含まれる微量な129Iの濃度を分析することに成功した。そして、日本やチェルノブイリ周辺での汚染状況を明らかにした。
※関連ホームページ
・ヨウ素学会: http://fiu-iodine.org/
・村松研究室: http://www.gakushuin.ac.jp/univ/sci/chem/ より村松研究室をクリック
村松 康行
・略 歴:
1977年6月 ドイツ・ゲッティンゲン大学博士課程終了(地球化学専攻)
1977年7月~1978年7月 ゲッティンゲン大学 地球化学研究所 研究員
1978年8月~2004年3月 放射線医学総合研究所、研究室長、グループリーダーなど
(1983年11月~1985年10月は IAEA(国際原子力機関)に勤務)
2004年4月~現在 学習院大学理学部化学科・教授
・表 彰:
1992年 科学技術庁長官表彰(研究業績賞)、
2004年 三宅賞(地球化学研究協会学術賞)
・学会等の役職(主なもの):
日本放射化学会・理事、地球化学研究協会・常任理事、ラジオアイソトープ誌・編集委員、J.Radiation Research・Associate Editor(1998~2003年)、日本放射線影響学会・幹事(2002~2005年)、原子炉安全専門審査会委員(2000~2008年)、放射線審議会専門部会委員(2001~2003年)、他
▼本件に関する問い合わせ先
学習院大学理学部化学科・教授 村松康行
E-mail: yasuyuki.muramatsu@gakushuin.ac.jp
TEL: 03-3986-0221 内線6477
学校法人学習院 総合企画部広報課
TEL: 03-3986-0221(代)
E-mail: koho-off@gakushuin.ac.jp
大学・学校情報 |
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大学・学校名 学習院大学 |
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URL https://www.univ.gakushuin.ac.jp/ |
住所 東京都豊島区目白1-5-1 |
学習院の教育目標は、「ひろい視野 たくましい創造力 ゆたかな感受性」。学生の個性を尊重しながら、文理両分野にわたる広義の基礎教育と多様な専門教育を有機的につなげる教育を行っています。自ら課題を発見し、その解決に必要な方策を提案・遂行する力を十分に身につけた人材を育成すること。それが学習院大学の使命です。 |
学長(学校長) 遠藤 久夫 |