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東邦大学などの研究グループが、分子性ゼロギャップ伝導体へのキャリア注入に世界で初めて成功――エネルギーロスのないグリーンな分子性電子デバイス開発に期待

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東邦大学理学部物理学科の田嶋尚也准教授(理化学研究所加藤分子物性研究室客員主幹研究員)、理化学研究所の川椙義高研究員、加藤礼三主任研究員、分子科学研究所の須田理行助教、および山本浩史教授らの研究グループはこのたび、ゼロギャップ伝導体として世界で唯一、多層構造を有する分子伝導体「α-(BEDT-TTF)2I3」へのキャリア注入に世界で初めて成功し、特徴的な量子輸送現象を低温で実現した。これは、低コストで環境に優しいグリーンな次世代分子性電子デバイスの開発につながる成果となる。同研究は9月1日付の米国の科学雑誌『Physical Review B』への掲載に先立ち、8月26日(日本日付:8月27日)にはオンライン版に掲載される予定。

 現在の携帯電話やPCといった電子機器は、GaAs等の半導体素子デバイスの発展により目覚ましく進展してきた。こうした半導体は図に示すように(※下図参照)伝導帯と価電子帯との間にエネルギーギャップを持っているため、電気を流すのは少数のキャリア(電子や正孔)となる。従って、わずかな電子や正孔を注入しただけで電気的性質が非常に大きく変化する。しかし、こうした半導体素子は破棄する際に適切な処理が必要となっている。

 このため、近年、環境にやさしい優れた電子機能をもつ新規物質の開発およびその基礎研究が強く求められている。こうした中、田嶋准教授らの研究チームは世界で初めての「3次元単結晶」ゼロギャップ伝導状態を、有機導体「α-(BEDT-TTF)2I3」に圧力をかけることによって発見した。

 ゼロギャップ伝導体とは、半導体の伝導帯と価電子帯が点で接し、エネルギーギャップがゼロの導体を言う。特殊なエネルギー構造をとるために、固体の中で電子があたかも光と同様、質量がゼロであるかのように振る舞い、電気伝導の主役を演じる。そのため、電子デバイスに最も重要な物理量であるキャリア易動度(電子や正孔の動きやすさ)は、低温で信じられないほど高くなる。従って、この物質を舞台にして、エネルギーロスのない高速駆動電子デバイスの実現が期待できる。
 しかし、この物質へのキャリア注入方法はまだ確立していなかった。

 これまで研究チームはゼロギャップ伝導体のデバイス化に向けて、Si基板等を利用した通常の電界効果トランジスタを作製し、この物質へのキャリア注入を試みてきた。しかし、基板と試料「α-(BEDT-TTF)2I3」の圧力や熱による歪(収縮・膨張率)の違いが問題となり、この物質へのキャリア注入は成功していなかった。

 このたびの研究では、試料の圧力や熱による歪効果がさほど変わらないプラスチック基板(PET: ポリエチレンナフタレート)の上に試料厚さ100nm程度の薄片単結晶試料を固定するだけで正孔キャリアを注入することに初めて成功。また、特徴的な量子効果を観測することにも成功した。これは、このデバイスが非常に良質であることを示している。

 今回の成果は、低コストで環境に優しいグリーンな次世代分子性電子デバイスの開発に向けた大きな第一歩となる。成果報告は、平成25年9月1日付の米国の科学雑誌『Physical Review B』への掲載に先立ち、8月26日(日本日付:8月27日)にはオンライン版に掲載される予定。

▼本件に関する問い合わせ先
(研究者)
●学校法人東邦大学理学部物理学科
 物性物理学教室
 准教授 田嶋 尚也
 TEL: 047-472-6990

●独立行政法人理化学研究所
 加藤分子物性研究室
 主任研究員 加藤 礼三
 TEL: 048-467-4504
 FAX: 048-462-4661

●自然科学研究機構分子科学研究所
 協奏分子システム研究センター
 教授 山本 浩史
 TEL: 0564-55-7334  

(報道担当)
●学校法人東邦大学 法人本部経営企画部 広報担当
 TEL: 03-5763-6583
 FAX: 03-3768-0660
 Mail: press@jim.toho-u.ac.jp

●独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
 TEL: 048-467-9272
 FAX: 048-462-4715
 Mail:  ex-press@riken.jp

●自然科学研究機構分子科学研究所 広報室 報道担当
 TEL/FAX: 0564-55-7262
 Mail: kouhou@ims.ac.jp

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