- ★Google+
- ★Hatena::Bookmark
北里大学大学院理学研究科の 林舜 大学院生、伊藤道彦 准教授らの研究グループは、ツメガエル性決定遺伝子dm-Wが、dmrt1遺伝子と利己的DNA(トランスポゾン)とのキメラ遺伝子であることを発見しました。機能解析からトランスポゾンの非コード領域がコード配列に分子機能進化したことがわかり、性決定遺伝子の新たな誕生機構というだけでなく、トランスポゾン関与の遺伝子創生の新たな機構が提案されました。この研究成果は、2022年6月28日付でMolecular Biology and Evolutionに掲載されました。
■研究成果のポイント
・性決定遺伝子dm-Wは、dmrt1遺伝子の一部とDNA型トランスポゾンのhAT-10の一部とのキメラ遺伝子として、約1800万年前のツメガエル異種交配を介した異質4倍体化後に誕生した。
・dm-Wエキソン4由来のアミノ酸配列は、hAT-10の非コード領域がコード配列に分子進化し、DMRT1由来のDNA結合能を促進する機能をもつ。
・dm-Wは、ツメガエル異種交配(交雑)後に生じた性決定システムの不安定下およびhAT-10 DNAトランスポゾンの活性化状況下で、メス決定を強力に推進するキメラ型の性決定遺伝子として新たに誕生した。
・性決定遺伝子dm-Wは、dmrt1遺伝子の一部とDNA型トランスポゾンのhAT-10の一部とのキメラ遺伝子として、約1800万年前のツメガエル異種交配を介した異質4倍体化後に誕生した。
・dm-Wエキソン4由来のアミノ酸配列は、hAT-10の非コード領域がコード配列に分子進化し、DMRT1由来のDNA結合能を促進する機能をもつ。
・dm-Wは、ツメガエル異種交配(交雑)後に生じた性決定システムの不安定下およびhAT-10 DNAトランスポゾンの活性化状況下で、メス決定を強力に推進するキメラ型の性決定遺伝子として新たに誕生した。
■研究の背景
本研究で解析したツメガエル属の性決定遺伝子dm-Wは、本論文の責任著者の伊藤らにより、メス決定型およびZW/ZZ(メスヘテロ)型の性決定遺伝子としては動物界で初めて発見された遺伝子です(Yoshimoto et al. PNAS 2008)。更に研究グループは、dm-Wはツメガエルの異種交配に伴う異質四倍体化(約1800万年前)後にdmrt1というオス化誘導遺伝子の部分重複を介してアンチオス化遺伝子として誕生したことを明らかにしました(Yoshimoto et al. Development 2010; Mawaribuchi et al. Dev Biol 2017; 図1参照)。しかし、dmrt1由来ではないDM-WのC末端部をコードするエキソン4に関しては、その起源と機能は未解明のままでした。そこで、このエキソンが、どのように誕生・分子進化し、どのような機能を持つかを、分子進化解析および機能解析によって調べました。
本研究で解析したツメガエル属の性決定遺伝子dm-Wは、本論文の責任著者の伊藤らにより、メス決定型およびZW/ZZ(メスヘテロ)型の性決定遺伝子としては動物界で初めて発見された遺伝子です(Yoshimoto et al. PNAS 2008)。更に研究グループは、dm-Wはツメガエルの異種交配に伴う異質四倍体化(約1800万年前)後にdmrt1というオス化誘導遺伝子の部分重複を介してアンチオス化遺伝子として誕生したことを明らかにしました(Yoshimoto et al. Development 2010; Mawaribuchi et al. Dev Biol 2017; 図1参照)。しかし、dmrt1由来ではないDM-WのC末端部をコードするエキソン4に関しては、その起源と機能は未解明のままでした。そこで、このエキソンが、どのように誕生・分子進化し、どのような機能を持つかを、分子進化解析および機能解析によって調べました。
■研究内容と成果
(1)dm-Wエキソン4の起源・分子進化:hAT-10というDNAトランスポゾンの非コード領域がコード領域に分子進化した。
(2)dm-Wエキソン4由来のC末タンパク質領域の機能:in vitro解析において、エキソン2, 3由来のタンパク質領域のDNA結合能が、エキソン4コードアミノ酸配列によって促進された。
(3)hAT-10 DNAトランスポゾンの活性化:約1800万年前の異種交配期での活動ピークを検出した。
(4)ツメガエル異質倍数体4種の解析:dm-Wは4種の共通祖先で存在していることから、異種交配後まもなく誕生したと考えられた。
以上から、dm-Wはdmrt1とトランスポゾンとのキメラ型の性決定遺伝子として異種交配後まもなく誕生したことが明らかになりました。興味深いことに、研究グループは最近、この研究とは別にツメガエルの異種交配期、主要なDNA型トランスポゾンがゲノム全体で活性化されることを報告しました(Suda, Hayashi, et al. Front Genet 2022)。
これらの知見を総合し、dm-W誕生と進化について、以下の分子進化モデル【図1】が考えられます。 1)約1800万年前の異種交配(異種ゲノム混合)における主要DNA型トランスポゾンの活性化、 2)異質四倍体化した祖先集団における性決定システムの不安定化(性比の偏り)、 3)DNA型トランスポゾンの活性化を介したdmrt1遺伝子の部分重複とhAT-10 トランスポゾンの染色体2L長腕への転移、 4)hAT-10非コード領域のコード配列への分子進化(DNA結合能促進)を介した新キメラ型のメス誘導性の性決定遺伝子dm-Wの誕生、 5)正の選択圧下でのdm-W分子進化(Ogita et al. iScience 2020)、 6)dm-W擁するZW/ZZ型性決定システムの集団内での確立。
(1)dm-Wエキソン4の起源・分子進化:hAT-10というDNAトランスポゾンの非コード領域がコード領域に分子進化した。
(2)dm-Wエキソン4由来のC末タンパク質領域の機能:in vitro解析において、エキソン2, 3由来のタンパク質領域のDNA結合能が、エキソン4コードアミノ酸配列によって促進された。
(3)hAT-10 DNAトランスポゾンの活性化:約1800万年前の異種交配期での活動ピークを検出した。
(4)ツメガエル異質倍数体4種の解析:dm-Wは4種の共通祖先で存在していることから、異種交配後まもなく誕生したと考えられた。
以上から、dm-Wはdmrt1とトランスポゾンとのキメラ型の性決定遺伝子として異種交配後まもなく誕生したことが明らかになりました。興味深いことに、研究グループは最近、この研究とは別にツメガエルの異種交配期、主要なDNA型トランスポゾンがゲノム全体で活性化されることを報告しました(Suda, Hayashi, et al. Front Genet 2022)。
これらの知見を総合し、dm-W誕生と進化について、以下の分子進化モデル【図1】が考えられます。 1)約1800万年前の異種交配(異種ゲノム混合)における主要DNA型トランスポゾンの活性化、 2)異質四倍体化した祖先集団における性決定システムの不安定化(性比の偏り)、 3)DNA型トランスポゾンの活性化を介したdmrt1遺伝子の部分重複とhAT-10 トランスポゾンの染色体2L長腕への転移、 4)hAT-10非コード領域のコード配列への分子進化(DNA結合能促進)を介した新キメラ型のメス誘導性の性決定遺伝子dm-Wの誕生、 5)正の選択圧下でのdm-W分子進化(Ogita et al. iScience 2020)、 6)dm-W擁するZW/ZZ型性決定システムの集団内での確立。
■今後の展開
(1)性決定カスケードのトップポジションに座する性決定遺伝子は、近縁種間でも相違(多様性)が見られる場合があり、進化的保存性が乏しい稀有なタイプの遺伝子です。今後、トランスポゾンという観点から、性決定遺伝子の多様性と進化の研究の展開が期待されます。
(2)本研究で、トランスポゾンのコード領域の有無に関わらず、遺伝子誕生に参与することが明らかになりました。今後、dm-W遺伝子以外でのトランスポゾンを介したde novo遺伝子創生の発見と機能解析が期待されます。
(3)異種交配後のトランスポゾンの活性化が、ツメガエルを含め様々な異種交配系において、de novo遺伝子創生だけでなく、トランスポゾン再編成にどのように関わっているのか、研究の展開が期待されます。
(1)性決定カスケードのトップポジションに座する性決定遺伝子は、近縁種間でも相違(多様性)が見られる場合があり、進化的保存性が乏しい稀有なタイプの遺伝子です。今後、トランスポゾンという観点から、性決定遺伝子の多様性と進化の研究の展開が期待されます。
(2)本研究で、トランスポゾンのコード領域の有無に関わらず、遺伝子誕生に参与することが明らかになりました。今後、dm-W遺伝子以外でのトランスポゾンを介したde novo遺伝子創生の発見と機能解析が期待されます。
(3)異種交配後のトランスポゾンの活性化が、ツメガエルを含め様々な異種交配系において、de novo遺伝子創生だけでなく、トランスポゾン再編成にどのように関わっているのか、研究の展開が期待されます。
■論文情報
掲載誌:Molecular Biology and Evolution
論文名:Neofunctionalization of a non-coding portion of a DNA transposon in the coding region of the chimerical sex-determining gene dm-W in Xenopus frogs
(キメラ型の性決定遺伝子の創生:ツメガエルにおけるDNAトランスポゾンの非コード領域のタンパク質レベルでの新機能獲得)
著 者:Shun Hayashi, Kosuke Suda, Fuga Fujimura, Makoto Fujikawa, Kei Tamura, Daisuke Tsukamoto, Ben J Evans, Nobuhiko Takamatsu, Michihiko Ito
DOI:10.1093/molbev/msac138
掲載誌:Molecular Biology and Evolution
論文名:Neofunctionalization of a non-coding portion of a DNA transposon in the coding region of the chimerical sex-determining gene dm-W in Xenopus frogs
(キメラ型の性決定遺伝子の創生:ツメガエルにおけるDNAトランスポゾンの非コード領域のタンパク質レベルでの新機能獲得)
著 者:Shun Hayashi, Kosuke Suda, Fuga Fujimura, Makoto Fujikawa, Kei Tamura, Daisuke Tsukamoto, Ben J Evans, Nobuhiko Takamatsu, Michihiko Ito
DOI:10.1093/molbev/msac138
■用語解説
【性決定遺伝子】
雌あるいは雄を決定する遺伝子。脊椎動物では未分化生殖巣を卵巣あるいは精巣形成に導くカスケードのトップポジションに位置する。
【異種交配】
近縁種間での交雑。脊椎動物の祖先の2回目の全ゲノム重複では異種交配を介していると考えられ、種の誕生や体制進化にも関わる。ツメガエル属では、約1800万年前に異種交配が起こり、L種とS種由来のゲノムからなる異質4倍体が形成された【図1 A】。異種交配由来種は現在、アフリカ各地に10数種生息している。
【トランスポゾン(転移因子)】
ゲノム上の位置を転移することのできるDNA断片。断片がゲノムに直接転移するDNA型と、転写(RNA)後に逆転写(DNA)され転移するRNA型(レトロトランスポゾン)が存在する。
■問い合わせ先
【性決定遺伝子】
雌あるいは雄を決定する遺伝子。脊椎動物では未分化生殖巣を卵巣あるいは精巣形成に導くカスケードのトップポジションに位置する。
【異種交配】
近縁種間での交雑。脊椎動物の祖先の2回目の全ゲノム重複では異種交配を介していると考えられ、種の誕生や体制進化にも関わる。ツメガエル属では、約1800万年前に異種交配が起こり、L種とS種由来のゲノムからなる異質4倍体が形成された【図1 A】。異種交配由来種は現在、アフリカ各地に10数種生息している。
【トランスポゾン(転移因子)】
ゲノム上の位置を転移することのできるDNA断片。断片がゲノムに直接転移するDNA型と、転写(RNA)後に逆転写(DNA)され転移するRNA型(レトロトランスポゾン)が存在する。
■問い合わせ先
≪研究に関すること≫
北里大学理学部生物科学科
准教授 伊藤道彦
E-mail: ito@sci.kitasato-u.ac.jp
≪報道に関すること≫
学校法人北里研究所 総務部広報課
〒108-8641 東京都港区白金5-9-1
TEL: 03-5791-6422
E-mail: kohoh@kitasato-u.ac.jp
北里大学理学部生物科学科
准教授 伊藤道彦
E-mail: ito@sci.kitasato-u.ac.jp
≪報道に関すること≫
学校法人北里研究所 総務部広報課
〒108-8641 東京都港区白金5-9-1
TEL: 03-5791-6422
E-mail: kohoh@kitasato-u.ac.jp
【図1】キメラ型の性決定遺伝子dm-Wのde novo創生モデル (A)ツメガエル属の異種交配(異質四倍体化)後の性決定遺伝子誕生の背景:異種交配によりDNAトランスポゾンの活性化(Suda, Hayashi, et al. 2022)と性決定システムの不安定化(性比の偏り)が祖先種で起きた。 (B)DNAトランスポゾンhAT-10 転移による新exon 4の誕生:dmrt1.Sのコード配列の一部とhAT-10の非コード配列が融合し、キメラ遺伝子が創生された。
大学・学校情報 |
---|
大学・学校名 北里大学 |
URL https://www.kitasato-u.ac.jp/ |
住所 〒108-8641 東京都港区白金五丁目9番5号 |
学校法人北里研究所が設置する北里大学は、北里柴三郎を学祖とする生命科学の総合大学で、「開拓」「報恩」「叡智と実践」「不撓不屈」を建学の精神としています。2015年12月、大村智特別栄誉教授が「線虫感染症の新しい治療法の発見」によりノーベル生理学・医学賞を受賞。2024年7月、20年振りに刷新された新千円札の肖像画に北里柴三郎が採用された。 |
学長(学校長) 砂塚 敏明 |