東京薬科大学

【東京薬科大学】大規模データを用いたデータサイエンス研究により抗リウマチ薬の安全性への薬物併用の影響が明らかに

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本学薬学部 臨床薬理学教室の恩田健二講師、社会薬学教育センター薬事関係法規研究室 益山光一教授、株式会社望星薬局 本間 丈士 氏(本学大学院研究生)により、データマイニングの手法を用いた医薬品副作用・有害事象の研究結果がFrontiers in Pharmacology誌(インパクトファクター5.988)に掲載されました。

【ポイント】
◇(本学の取組)様々な臨床情報を有するデータベース(今回は、米国の有害事象報告のデータベース)を活用して、個別の臨床研究では実証の難しい内容を明らかにし、薬剤師の新たな取組みにつなげる研究に着手した。
◇(研究の成果)大規模データマイニングの手法を用いて、関節リウマチの代表的治療薬であるメトトレキサートの有害事象に対する葉酸、生物学的製剤併用の影響が明らかに(Frontiers in Pharmacology誌に掲載)。
◇(今後の展望) 米国データベースのみならず、我が国のナショナルデータベース等も活用し、薬物療法の課題や薬剤師の成果の見える化に向けて新たに取り組む予定。

【概要】
恩田講師らは、実臨床の有害事象報告が集積した世界最大規模のデータベースである米国 FDA Adverse Event Reporting Sytem(FAERS)を用いて、関節リウマチの治療薬であるメトトレキサート(MTX)の使用に関連する種々の有害事象について、データマイニングの手法を用いて併用薬の観点から解析しました。
関節リウマチ症例の約38万件の有害事象報告データを元に、MTX関連の有害事象(間質性肺疾患、肝毒性、骨髄抑制、結核)を、MTXを含む治療パターン毎(MTX、葉酸、腫瘍壊死因子(TNFα)阻害薬の単独または併用の組み合わせ)に統計的(多重ロジスティック解析)に比較しました。
その結果、葉酸の併用は、肝障害や骨髄抑制などMTXの用量依存的な副作用報告を減らす一方、MTXとTNFiの併用は結核感染症のオッズ比を大きく高めていました。また、間質性肺炎に対して葉酸は減少効果を示さず、本解析結果は、先行する疫学研究の結果を概ね裏付けていました。
FAERSなどの自発報告データベースを用いた研究には、報告バイアスの存在などの限界がありますが、今回の研究手法が、薬物の併用パターン毎の安全性の比較に有用であり、様々な領域に応用できる可能性が示されました。関節リウマチ治療における安全性情報を補足するものとして、薬物治療への貢献が期待されます。

【用語解説】
◆データマイニング・・・大量のデータの中から様々な解析や統計手法により、役に立つ情報を見出すこと。
◆FDA Adverse Event Reporting Sytem(FAERS)・・・米国食品医薬品局(FDA)が管理運営する有害事象(薬等の使用後に認められたイベント)に関する症例のデータベース。1100万件以上の自発報告に基づく症例情報から成り立つ。
◆メトトレキサート・・・関節リウマチのアンカー(碇)ドラッグとも呼ばれる重要な治療薬。葉酸の代謝を抑えて薬効を発揮する。間質性肺炎、肝毒性、骨髄抑制、感染症などの副作用が知られる。
◆葉酸・・・ビタミンB群に属する水溶性のビタミン。関節リウマチ治療においてはメトトレキサートに併用され、メトトレキサートの用量依存的副作用(用量が増えるとともに増加する)の肝障害、口内炎などを予防する効果がある。
◆腫瘍壊死因子(TNFα)阻害薬・・・関節リウマチの病態に関わるTNFαというサイトカインを阻害するようにデザインされた分子標的治療薬。生物学的製剤の一つ。高い有効性の反面、感染症などの副作用に注意する必要がある。
◆多重ロジスティック解析・・・多変量解析と呼ばれる統計解析方法の一つ。複数の要因の影響を調整しながら目的の事象の起こりやすさ、リスクを判定する。
◆自発報告・・・医療従事者、製薬企業などが自発的に行う副作用や有害事象報告のこと。国内では副作用報告制度に基づき行われる。
◆報告バイアス・・・自発報告がさまざまな要因によって影響を受けて結果的に報告の頻度や内容に影響があること。自発報告にバイアス(偏り)もたらすもの。

▼本件に関する問い合わせ先

総務部 広報課

住所

: 東京都八王子市堀之内1432-1

TEL

: 0426766711

FAX

: 042-676-1633

E-mail

kouhouka@toyaku.ac.jp

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