福岡女学院大学

東京都の新条例は性的マイノリティに対する支援や理解が将来的に高まることを期待させるが、現在の世論に対する認識は変化させない:現実の条例成立を用いた実験的検討--福岡女学院大・安田女子大・名古屋大・九州オープンユニバーシティ研究グループ

大学ニュース  /  先端研究  /  大学間連携  /  その他

  • ★Facebook
  • ★Twitter
  • ★Google+
  • ★Hatena::Bookmark

福岡女学院大学の宮島 健講師と安田女子大学の中分 遥講師、名古屋大学の孟 憲巍准教授、九州オープンユニバーシティの須藤 竜之介研究員による研究グループは、東京都の新条例(東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例)の成立が、都民にどのような影響を与えるのかを実験的に検証。
その結果、条例が成立したという情報への接触は、性的マイノリティに対する支援や理解が将来的に進むという期待が高まるものの、性的マイノリティに対して都民がどの程度好意的か、他の都民たちはどの程度好意的だと思うか、そして今後ポジティブな意見を表明していこうと思うかの度合いは変化しない可能性が示された。

本件に関する論文が、令和5年(2023年)4月28日(金曜日)に、社会心理学の国際誌''Asian Journal of Social Psychology''に掲載されました。

【本研究のポイント】
● 東京都が新たに制定した性的マイノリティに対する差別禁止条例が、都民にどのような影響を与えるのかを検証した。
● 条例が成立したという情報に触れることで、性的マイノリティに対する支援や理解が将来的に進むという期待が高まった。
● しかし、性的マイノリティに対してどの程度好意的か、他の都民たちはどの程度好意的だと思うか、そして今後ポジティブな意見を表明していこうと思うかの度合いは変化しなかった。

【本研究の背景】
 市民を代表する意思決定機関(政府や裁判所など)の決定は、世論を反映しながら行われることが一般的です。しかし反対に、機関による決定が世論を変容させることもあります。近年、機関による決定が、市民たちの世論に対する認識(「日本人の多くは同性婚に賛成しているだろう」とか「今後、同性婚に賛成する意見が日本で増加していくだろう」など)にも影響するかどうかが研究対象となってきています。しかし、このような研究は主に欧米諸国で行われており、他の地域では未だ十分に行われていませんでした。

【本研究の内容】
 2018年10月に、東京都は性的マイノリティに対する差別を禁止する条例(東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例)を成立させました。これは、機関が下した決定の影響を欧米以外の地域で検証するまたとない機会だといえます。私たちの研究グループは、都民の間で条例成立の事実があまり知られていないという予備調査の結果を受け、積極的にその情報に触れさせることで、その効果を検証しました。
その結果,条例が成立したという情報に触れることで、性的マイノリティに対する支援や理解が将来的に進むという期待が高まるものの、マイノリティに対して回答者がどの程度好意的か、他の都民たちはどの程度好意的だと思うか、そして今後ポジティブな意見を表明していこうと思うかの度合いは変化しないことが示されました。

【論文掲載】
● 掲載誌:Asian Journal of Social Psychology
● 論文名:Ordinance influences individuals' perceptions towards prospects of social circumstance but not the status quo: An experimental field study on sexual minorities issues in Japan
(条例は社会状況の見通しに対する個人の知覚に影響を与えるが、現状には影響を与えない:日本における性的マイノリティ問題に関する実験的フィールドスタディ)
● 著者:宮島 健1,中分 遥2,孟 憲巍3,須藤 竜之介4
● 所属:1福岡女学院大学,2安田女子大学,3名古屋大学,4九州オープンユニバーシティ
● 論文URL: https://doi.org/10.1111/ajsp.12568
● DOI: 10.1111/ajsp.12568

【研究の詳細】
 市民を代表する意思決定機関(政府や裁判所など)の決定が、世論を変容させるほどの影響力をもつことが知られています。近年、機関による決定が「市民たちの世論に対する認識」にも影響するかどうかが研究対象となってきています。「市民たちの世論に対する認識」とは「日本人の多くは同性婚に賛成しているだろう」とか「今後、同性婚に賛成する意見が日本で増加していくだろう」といった、現時点での世論や今後の動向に対する予測を指します。もし、機関が民主主義的なものであれば、そこで下される決定は世論を反映したものになると考えられます。ならば、従来の伝統や慣習に反するような決定が新たになされた場合、その決定は、既に世論が変化していることを人々に知らせるシグナルとして機能する可能性があります。近年、この点についての検討は増えてきたものの、それらは欧米諸国での検討にとどまっており、それ以外の地域での検討は十分に行われていませんでした。

 そうしたなか、2018年10月に東京都は性的マイノリティに対する差別を禁止する条例を成立させました。これは、機関による決定の影響を欧米以外の地域で検証するまたとない機会です。私たちの研究グループは、都民の間で条例成立の事実があまり知られていないという予備調査の結果を受け、積極的にその情報に触れさせることで、その効果を検証しました。具体的には、実験に参加してくれる東京都民を募集し、参加してくれた実験参加者たちをランダムに実験群と統制群のいずれかに割り当てました。実験群には条例が成立したことを知らせるニュース動画を、統制群には条例成立とは無関係なニュース動画を呈示し、視聴するよう求めました。そのうえで、回答者自身が性的マイノリティに対してどの程度好意的か、他の都民たちはどの程度好意的だと思うか、性的マイノリティに対する支援や理解が将来的に高まると思うか、そして、性的マイノリティについて好意的な意見を今後表明していこうと思うかなどを測定しました。

 その結果,条例が成立したという情報に触れることで、性的マイノリティに対する支援や理解が将来的に進むという期待が高まるものの、マイノリティに対して回答者がどの程度好意的か、他の都民たちはどの程度好意的だと思うか、そして今後ポジティブな意見を表明していこうと思うかの度合いは変化しないことが示されました(図1)。つまり、新条例成立が世論変化のシグナルとして機能しなかったことを示唆しています。

 本研究は、欧米諸国以外でも、市民を代表する機関による決定が、社会の変化に対する市民の期待を高める可能性があることを示唆しています。ただ、先行研究とは違って、市民一人ひとりの考えや、市民たちの世論に対する認識には影響がみられませんでした。これは実験参加者の文化的背景の違いによるものではなく、新条例の成立にあたって「オリンピック憲章にうたわれる多様な人々の人権尊重の理念を都民に浸透させるために条例を制定する」という点を強調したことが関係していると考えられます。すなわち、このように成立の経緯を伝えたことで、「性的マイノリティに対する他の都民の考えは未だに否定的なままで、アップデートされていないのだろう」と回答者たちに認識させてしまったのかもしれません。本研究成果は、機関の決定が市民に与える影響は、人々がその決定の経緯をどう受け止めるかによって左右される可能性を示唆しています。

【図1】条例が成立したという情報に触れると、性的マイノリティに対する将来的な支援・理解増への期待が高まる

【研究内容に関する問い合わせ先】
福岡女学院大学 人間関係学部 心理学科
講師 宮島 健(みやじま たける)
TEL:092-575-5861
Email:miyajima@fukujo.ac.jp

▼本件に関する問い合わせ先

福岡女学院大学 入試広報課

土井 誠

住所

: 福岡市南区曰佐3丁目42-1

TEL

: 092-575-2970

FAX

: 092-575-4456

E-mail

doi@fukujo.ac.jp

図1.png 図1