麻布大学

酪農を救う!!ウシの繁殖改善に新たな可能性~子宮内細菌叢(さいきんそう)が受胎に関与か?~

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NOSAI北海道の八木沢拓也 係長と岡山大学学術研究院医歯薬学域の内山淳平 准教授、北海道大学大学院獣医学研究院の市居修 准教授、片桐成二 教授、麻布大学獣医学部の村上裕信 准教授の研究グループは、ウシの子宮内細菌叢1)と受胎との関連性を見出しました。
これらの研究成果は令和5年4月26日、アメリカ微生物学会の雑誌「Microbiology Spectrum」のResearch Articleとして掲載されました。

◆発表のポイントーーーーーーーーーーーーーーーー
・ウシの子宮内膜組織生検のために採材した検体を用いて、ウシの子宮細菌叢解析を行いました。
・子宮内細菌叢は農場ごとの飼養管理の違いで異なる細菌叢を形成し、受胎性と関連して変動することを明らかにしました。
・研究が進むことで、低受胎の原因を診断するための新たなアプローチ方法として子宮マイクロバイオーム検査が確立され、畜産現場における繁殖管理の改善に寄与することが期待されます。
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 NOSAI北海道の八木沢拓也 係長と岡山大学学術研究院医歯薬学域の内山淳平 准教授、北海道大学大学院獣医学研究院の市居修 准教授、片桐成二 教授、麻布大学獣医学部の村上裕信 准教授の研究グループは、ウシの子宮内細菌叢(注1)と受胎との関連性を見出しました。
これらの研究成果は令和5年4月26日、アメリカ微生物学会の雑誌「Microbiology Spectrum」のResearch Articleとして掲載されました。
 受胎性の低下は、ウシが分娩して搾乳がまた可能となるまでの期間が延長することで飼養コストの増大につながり、酪農家への経済的負担を大きくします。今回、農場の飼養管理の違いで子宮内細菌叢が異なること、また、受胎性に関連して子宮内細菌叢が変動することを明らかにしました。この研究成果は、ウシの低受胎を早期診断できる技術を開発できる可能性があり、受胎性の改善に向けた飼養管理方法の提案など、酪農の繁殖における諸問題の解決が期待されます。

◆研究者からのひとこと

八木沢 係長(NOSAI北海道):
繁殖の仕事をしていると、牛の状態は臨床的には問題ないにもかかわらず、受胎しない個体が少なからずいます。「受胎しない牛はなぜ受胎しないのか?」この、畜産に関わる人間にとっての永遠の課題に対して、今回の研究では、農場ごとの飼養管理の違いで個々に形成された子宮内細菌叢が受胎に関係するという、新たな可能性を見出すことができました。この成果を形にしてくださった内山先生をはじめとする各大学の先生方、そして、快く研究に協力していただいた農家の皆様に改めて感謝申し上げます!

内山 准教授(岡山大学):
この研究は、3年前冬の北海道での学会の後の飲み会で、臨床獣医師である八木沢先生と熱く語り合ったのがきっかけでスタートしました。これまでに、多くの先生方の支援があり、ようやくここまで辿り着きました。関係者の方々本当にありがとうございました。
最近、ヒトを含む動物種の間での子宮細菌叢の共通点や相違点が見えてきています。ワンヘルス的な観点からヒトや動物の生殖学と微生物学が融合し、新たな科学が切り開ければと考えています。共同研究に興味がある先生・医療関係者・獣医療関係者の方、お話を頂ければ幸いです。

■発表内容
<現状>
 卵巣・子宮に異常がなく、発情周期も正常であるにも関わらず、人工授精を3回以上繰り返しても受胎しないウシ(以下、リピートブリーダー(注2))は、分娩間隔の延長をきたし、1日700円/頭もの経済的損失を酪農家に与えています。リピートブリーダーの占める割合は5 ~ 24%とされており、我が国では対策が求められています。
リピートブリーダーの中には子宮に異常が認められないにもかかわらず、低受胎となるウシが数多く存在します。しかしながら、これらのウシは子宮内膜炎などの検査可能な臨床的な異常を検出しているだけであって、本当に子宮に異常がないかは不明です。近年、解析技術の進歩により、これまで無菌とされてきた子宮において子宮内細菌叢の存在が明らかにされ、低受胎の新たな原因として注目されています。ヒトにおいては、臨床上、子宮に異常が認められない不妊患者でも子宮内細菌叢の変化が不妊の原因と成り得ることが示され、子宮内細菌叢検査が不妊治療に実用化され始めています。一方、ウシにおいては、議論はされているも、子宮内細菌叢と受胎性の関連性に関しては十分な研究が進められていません。子宮内細菌叢検査の有用性がウシにおいても示されればリピートブリーダー対策の一助となると考え、研究を行いました。

<研究成果の内容>
 NOSAI北海道の八木沢拓也 係長と岡山大学学術研究院医歯薬学域 内山淳平 准教授、北海道大学大学院獣医学研究院の市居修 准教授、片桐成二 教授、麻布大学獣医学部の村上裕信 准教授の研究グループは、リピートブリーダー発生減少のための新規技術の創出を目指して、ウシの受胎性に関連した子宮細菌叢の解析を行いました。

この研究では、
(結果1)農場の飼養管理で子宮内細菌叢が変動すること、
(結果2)子宮内細菌叢と低受胎の関連性
を明らかにしました(図)。

(結果1)
飼養管理が異なる4つの農場のウシ計69頭の子宮内細菌叢の解析を行いました。農場、給与飼料、飼育方法に関して子宮内細菌叢の相違を検討しました。その結果、農場、給与飼料、飼育環境が子宮内細菌叢に影響を与えていることが明らかとなりました。
(結果2)
1つの農場における31頭を対象に子宮内細菌叢と低受胎の関連性を解析しました。はじめに、人工授精の回数に関して細菌種の存在量解析を行いました。その結果、特定の細菌(Arcobacter菌)が低受胎との関連性を見出すことができました。加えて、共起ネットワーク分析(細菌同士の協力体制を見出す解析)を行い、低受胎に関連する細菌間の正と負の関係性を見出しました。これらの結果から、NG農場において低受胎に関連する細菌群の検出ができました。

<社会的な意義>
 今回の私たちの研究成果により、低受胎に関連したウシの子宮内細菌叢解析を行い、低受胎のウシの診断に向けた新たなアプローチ方法として期待される子宮マイクロバイオーム検査(注3)の基礎データが得られました。今後、新たな早期診断技術や対策を提供できるように研究開発を進めていきます。

■論文情報等
論文名: Metataxonomic analysis of the uterine microbiota associated with low fertility in dairy cows using endometrial tissues prior to first artificial insemination
邦題名「初回授精前の乳牛における低受胎に関連した子宮内細菌叢の解析」
掲載誌: Microbiology Spectrum
著者: Takuya Yagisawa, Jumpei Uchiyama, Iyo Takemura-Uchiyama, Shun Ando, Osamu Ichii, Hironobu Murakami, Osamu Matsushita, Seiji Katagiri
DOI: 10.1128/spectrum.04764-22
発表論文はこちらからご確認できます。
https://journals.asm.org/doi/10.1128/spectrum.04764-22

■研究資金
本研究は、令和2年度伊藤記念財団研究助成(研究代表:内山淳平)の支援を受けて実施しました。

■補足・用語説明
(注1)細菌叢・マイクロバイオーム
共生する微生物(特に細菌)の総体

(注2)リピートブリーダー
卵巣・子宮に異常がなく、発情周期も正常であるにも関わらず、人工授精を3回以上繰り返しても着床しない低受胎なウシ

(注3)子宮マイクロバイオーム検査
子宮内の微生物環境が胚の着床に最適かどうか判断する検査

<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院医歯薬学域 病原細菌学分野
准教授 内山 淳平
(電話番号)086-235-7158
(FAX番号)086-235-7162
(メール)uchiyama@okayama-u.ac.jp

▼本件に関する問い合わせ先

事務局 渉外課

磯野、野鶴

住所

: 神奈川県相模原市中央区淵野辺1-17-71

FAX

: 042-754-7661

E-mail

koho@azabu-u.ac.jp

pr_230516.jpg (図)ウシの受胎性に関連した子宮内細菌叢解析で明らかになったこと.(A)給餌管理、飼養形態により子宮細菌叢の形成は異なる.(B)低受胎になると子宮内細菌叢において悪玉菌群が優勢となる.