東京工科大学

酪酸菌を活性化する次世代プレバイオティクスの論文発表 ⽣理学/内分泌学のトップジャーナルに掲載、表紙に採⽤--東京工科大学応用生物学部

大学ニュース  /  先端研究  /  その他

  • ★Twitter
  • ★Google+
  • ★Hatena::Bookmark

東京工科大学(東京都八王子市、学長:香川豊)応用生物学部の佐藤拓己教授は、バクテリア由来の生分解性プラスチックであるポリヒドロキシ酪酸(PHB)(注1)が、酪酸菌にケトン体(3-ヒドロキシ酪酸:3HB)(注2)を供与し、酪酸菌優位な腸内細菌叢を誘導することを提唱しました。同論文は、生理学および内分泌学のトップジャーナルである「Trends in Endocrinology and Metabolism」(注3)オンライン版(現地時間 2023年6月2日)に掲載されるとともに、同誌7月(6月14日発売)号の表紙に採用されます。

酪酸菌は、乳酸菌とともに主な善玉菌のひとつであり、PHBは酪酸菌を短期間で増殖させることができる次世代のプレバイオティクスとして期待されます。

[図1] ポリヒドロキシ酪酸(PHB)によるケトバイオティクス
ケトン体のポリエステルであるPHBは大腸に届くと腸内細菌の酵素により加水分解され、ケトン体を放出。これにより酪酸菌を活性化して酪酸の放出を促すという新しいプレバイオティクスのイメージ図。

【研究概要】
 佐藤教授は、ケトン体がアンチエイジング分子であることに注目し、小腸や大腸内でケトン体を放出する分子(ケトン供与体)について研究開発を続けてきました。ケトン供与体には、小腸でケトン体を放出するケトンエステル(KE)(注4)と、大腸でケトン体を放出するPHBがあります。KEは、小腸の消化酵素で加水分解されるため、数分でケトン体(3HB)の濃度を大きく増加させるのに対して、PHBは腸内細菌が加水分解しながら放出するため増加幅は小さいですが、持続的にケトン体濃度を増加させます。また、PHBは酪酸菌を活性化し酪酸を増加させ、制御性T細胞(注5)を活性化し炎症を抑制することがこれまでの研究でわかっています(注6)。

 Javier Fernandezらの研究(文献1)によると、ラットにPHB10%を5週間摂取させると、善玉菌を多く含むファーミクテス門が有意に増加し、悪玉菌を多く含むプロテオバクテリア門が有意に減少。またファーミクテス門の中で属および種レベルでは、長寿に関係する酪酸菌のグループであるロゼブリア属やルミノクロストリジウム属、クロストリジウム属などの酪酸菌が有意に増加し、大腸内の酪酸濃度を増加し、大腸がんを抑制することがわかっています。

佐藤教授は、大腸管腔において、PHBは腸内細菌へのケトン体の供与から始まる新しいプレバイオティクスとして「ケトバイオティクス」を提唱(注7) しています。「ケトバイオティクス」は腸内細菌へのケトン体の供与から始まるという点で既存のプレバイオティクスとは一線を画します。

[図2] KEとPHBの分解
KEは3HBと1,3-ブタンジオール(BD)に加水分解され、肝臓から3HBとして全身循環に入り、組織でエネルギー基質として働く。これに対してPHBは大腸内でケトン体を放出し、腸内細菌のエネルギー基質となる。一部のケトン体は大腸上皮から吸収され、血中のケトン体濃度を増加させる。

【社会的・学術的なポイント】
 ケトン体は、消化管上皮の幹細胞の維持に必須であるとわかっています(文献2)。PHBはケトン体を大腸管腔で放出するため、腸内細菌(特に酪酸菌)から始める大腸管腔全体の若返りの有効なツールになると考えられます。また、酪酸菌の製剤は整腸剤として内科臨床の世界では既に広く使われています。酪酸菌の製剤とPHBを同時に使うことができれば、さらに短時間で酪酸菌優位な腸内環境を誘導できることが期待されます。

[図3] PHB摂取による酪酸菌の増加 (文献1)

【論文情報】
論文名:New Prebiotics by Ketone Donation
掲載誌:Trends in Endocrinology and Metabolism 2023 in press
掲載URL:
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1043276023000917

【参考文献】
(文献1) Fernandez J, et al, Antitumor bioactivity and gut microbiota modulation of polyhydroxybutyrate (PHB) in a rat animal model for colorectal cancer. Int J Biol Macromol. 2022 Apr 1;203:638-649.
(文献2) Cheng CW, et al. Ketone Body Signaling Mediates Intestinal Stem Cell Homeostasis and Adaptation to Diet. Cell. 2019 Aug 22;178(5):1115-1131.e15.

【用語解説】
(注1) ポリヒドロキシ酪酸(PHB): 3-ヒドロキシ酪酸(ケトン体)のポリエステルであり、腸内細菌だけが加水分解できる。
(注2) 3-ヒドロキシ酪酸(3HB):脂肪由来のエネルギー基質であり、種々の受容体を活性化する生理活性物質。アンチエイジング効果が注目される。
(注3) Cell Pressが発行するReview/opinion誌 インパクトファクター:10.586
(注4) ケトンエステル(KE):3HBとBDのエステル化合物であり、消化酵素で急速に加水分解される。
(注5) 制御性T細胞:Tリンパ球の一種で、過剰な免疫応答を抑制する役割を担っている。
(注6) Suzuki R, Satoh T et al. The novel sustained 3-hydroxybutyrate donor poly-D-3-hydroxybutyric acid prevents inflammatory bowel disease through upregulation of regulatory T-cells. FASEB J. 2023 Jan;37(1):e22708.
(注7) 佐藤拓己「腸内細菌の酵素でケトン体を生産させ酪酸菌を活性化する新しいプレバイオティクスとしてのケトバイオティクス」 アンチエイジング医学 Vol.18(2022年)048-051.


■東京工科大学応用生物学部 佐藤拓己(アンチエイジングフード)研究室
ミトコンドリアは人間の体内で細胞の生死を司るという決定的な役割を持っています。私たちの研究テーマは、活性酸素などに注目してミトコンドリアを活性化させる分子の機能を解き明かすことです。
[研究室ウェブサイトURL]
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/bio/dep.html?id=34

■応用生物学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/bionics/index.html


本件に関する報道関係からのお問い合わせ先
片柳学園 コミュニケーション企画部
担当:大田
Tel 042-637-2109
E-mail ohta(at)stf.teu.ac.jp
※(at)は@に置き換えてください。


takumi01.jpg [図1] ポリヒドロキシ酪酸(PHB)によるケトバイオティクス

takumi02.jpg [図2] KEとPHBの分解

takumi03.jpg [図3] PHB摂取による酪酸菌の増加 (文献1)

takumi04.jpg