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大阪大学大学院情報科学研究科岡橋伸幸准教授、松田史生教授ら(バイオ情報工学)と金沢大学がん進展制御研究所髙橋智聡教授、河野晋助教の研究グループは、バイオテクノロジーと情報技術を融合させることで、がん細胞のエネルギー代謝の流れを計測しコンピュータ上で正確に予測できる技術を、世界で初めて開発しました。
【研究成果のポイント】
●バイオテクノロジーと情報技術を融合した代謝解析技術を開発。がん細胞のエネルギー代謝状態の数値化やコンピュータ上でのがん細胞の代謝予測が可能に。
●そのシミュレーションにより、がん細胞があえて非効率なエネルギー生産経路(解糖系)を使うのは、細胞のオーバーヒートを防ぐためであることを解明。
●代謝を標的としたがん治療法の開発や、生物工学分野で重要な細胞の解析への応用に期待。
◆概要
がん細胞は、活発な増殖に必要な多量のエネルギーを、細胞内のがん特異的代謝*¹経路で獲得しています。しかし、エネルギー生産効率が低い不合理な代謝経路を、なぜがん細胞があえて選択しているのか、がん研究者は長らく頭を悩ませてきました。
開発した技術を用いてがん細胞の代謝を解析したところ、がん細胞がATP*²獲得効率の悪い解糖系*³を用いることで、細胞内の過剰な代謝熱*⁴の発生を回避していることが示唆されました。つまり、がん特異的代謝の役割の一つが、暑さ対策であることを示しました(図1)。
本研究の知見は代謝を標的としたがん治療法の開発への応用が期待できます。また、開発した計測技術は、免疫細胞やiPS細胞、抗体生産細胞など、医学、生物工学分野で重要な細胞の解析にも応用することができます。
本研究成果は、米国科学誌『Metabolic Engineering』に、2025年8月20日(水)に公開されました。
【岡橋准教授のコメント】
代謝解析技術の開発を通して、長年の謎であったがん細胞がエネルギー獲得効率の悪い代謝を行う理由に新たな説を提示できたことを嬉しく思います。本技術は、がん細胞以外の様々な培養細胞の解析にも応用可能なので、多くの研究の発展に貢献できるよう異分野融合を進めていきたいと考えています。
◆研究の背景
すべての細胞は、栄養源を分解してエネルギーを得る代謝という機能を備えており、目的に応じて複数の経路を適切な比率で使い分けることで生存することができます。がん細胞は、100年以上も前から活発な増殖に多くのエネルギーを必要としながら、正常細胞とは異なるエネルギー効率の悪い代謝経路を特異的に用いることが知られています。しかし、がん細胞があえてエネルギー生産効率が低い経路を用いる意味は未解明のままであり、がん治療のターゲットとして活用する妨げとなってきました。
◆研究の内容
研究グループでは、生物工学分野で用いられてきた代謝解析技術である¹³C代謝フラックス解析法*⁵と、コンピュータ上で代謝を予測するフラックスバランス解析法*⁶を用いてがん細胞の解析に特化した手法を開発しました。
がん細胞は、活発な増殖に必要な多量のエネルギーを、細胞内のがん特異的代謝*¹経路で獲得しています。しかし、エネルギー生産効率が低い不合理な代謝経路を、なぜがん細胞があえて選択しているのか、がん研究者は長らく頭を悩ませてきました。
開発した技術を用いてがん細胞の代謝を解析したところ、がん細胞がATP*²獲得効率の悪い解糖系*³を用いることで、細胞内の過剰な代謝熱*⁴の発生を回避していることが示唆されました。つまり、がん特異的代謝の役割の一つが、暑さ対策であることを示しました(図1)。
本研究の知見は代謝を標的としたがん治療法の開発への応用が期待できます。また、開発した計測技術は、免疫細胞やiPS細胞、抗体生産細胞など、医学、生物工学分野で重要な細胞の解析にも応用することができます。
本研究成果は、米国科学誌『Metabolic Engineering』に、2025年8月20日(水)に公開されました。
【岡橋准教授のコメント】
代謝解析技術の開発を通して、長年の謎であったがん細胞がエネルギー獲得効率の悪い代謝を行う理由に新たな説を提示できたことを嬉しく思います。本技術は、がん細胞以外の様々な培養細胞の解析にも応用可能なので、多くの研究の発展に貢献できるよう異分野融合を進めていきたいと考えています。
◆研究の背景
すべての細胞は、栄養源を分解してエネルギーを得る代謝という機能を備えており、目的に応じて複数の経路を適切な比率で使い分けることで生存することができます。がん細胞は、100年以上も前から活発な増殖に多くのエネルギーを必要としながら、正常細胞とは異なるエネルギー効率の悪い代謝経路を特異的に用いることが知られています。しかし、がん細胞があえてエネルギー生産効率が低い経路を用いる意味は未解明のままであり、がん治療のターゲットとして活用する妨げとなってきました。
◆研究の内容
研究グループでは、生物工学分野で用いられてきた代謝解析技術である¹³C代謝フラックス解析法*⁵と、コンピュータ上で代謝を予測するフラックスバランス解析法*⁶を用いてがん細胞の解析に特化した手法を開発しました。
具体的には、12種類のがん細胞の代謝の流れを調べ、その特徴をコンピュータ上で再現するには、計算に代謝熱を加味する必要があることを見出しました。これにより、がん細胞のエネルギー代謝状態の数値化やコンピュータ上でのがん細胞の代謝予測ができるようになりました。このシミュレーションによると、エネルギー獲得効率の低い解糖系には、代謝熱の発生を低く抑える役割があることが分かりました。
この知見から、正常細胞ががん細胞へと変化する新たなシナリオを描くことが可能となりました(図2)。正常細胞(図2左下)ががん細胞に変化する時には、多量のエネルギー(ATP)が必要となります。正常細胞と同じ経路でATPを供給すると、熱が生成しすぎて、オーバーヒート状態となります(図2右上)。つまり、がん細胞はATP生成効率が低く、熱生成が少ない経路を用いることでオーバーヒートを回避していると考えられます(図2右下)。
◆本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、がん細胞の代謝メカニズムの解明や代謝を標的とした創薬の実現が期待されます。また、本技術は他の哺乳類細胞の解析にも応用可能であり、研究チームでは、免疫細胞やiPS細胞、抗体生産細胞など、医学、生物工学分野で重要な細胞の解析への応用を進めています。
◆特記事項
本研究成果は、2025年8月20日(水)に米国科学誌『Metabolic Engineering』(オンライン)に掲載されました。
・タイトル: "Metabolic flux and flux balance analyses indicate the relevance of metabolic thermogenesis and aerobic glycolysis in cancer cells"
・著者名: Nobuyuki Okahashi, Tomoki Shima, Yuya Kondo, Chie Araki, Shuma Tsuji, Akane Sawai, Hikaru Uehara, Susumu Kohno, Hiroshi Shimizu, Chiaki Takahashi, and Fumio Matsuda
*DOI: https://doi.org/10.1016/j.ymben.2025.08.002
なお、本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 新学術領域研究「代謝アダプテーションのトランスオミクス解析」および若手研究、金沢大学がん進展制御研究所 共同利用・共同研究拠点 若手奨励研究の一環として行われました。
◆用語説明
*1 がん特異的代謝
解糖系やグルタミン代謝の亢進など、がん細胞は正常細胞とは異なる代謝を行うことが示されており、がんの治療標的として注目されている。しかし、そのような代謝を行う理由や役割の全貌はまだ分かっていない。
*2 ATP
アデノシン三リン酸、細胞内でエネルギーを運搬する分子。細胞が必要とする機能を駆動するための通貨の役割を果たす。細胞増殖に必要なタンパク質や核酸を合成する際にATPが必要となる。
*3 解糖系
細胞にとって最も重要な栄養源である糖を乳酸へと分解することでエネルギーを得る代謝経路。1分子のグルコースから2分子のATPを得ることができる。1分子のグルコースから32分子のATPを得ることができる酸化的リン酸化というエネルギー効率の高い経路も存在するが、がん細胞がATP獲得効率の悪い解糖系を用いる理由は分かっていなかった。
*4 代謝熱
代謝反応によって化学結合に蓄えられたエネルギーが熱となって放出される。
*5 ¹³C代謝フラックス解析法
炭素の安定同位体¹³Cからなる糖を細胞に代謝させ、細胞内の代謝物が¹³Cに置き換わっていく様子を質量分析装置で計測することで、細胞内代謝のフラックス(時間当たり、細胞当たりの化学反応量)を調べる解析技術。
*6 フラックスバランス解析法
コンピュータ上で代謝フラックスを予測する解析手法。正確な計算を行うためには、代謝反応を式で記述した代謝モデルや考慮するべきパラメータの設定が必要となる。
◆SDGs目標
3. すべての人に健康と福祉を
9. 産業と技術革新の基盤を作ろう
◆参考URL
・岡橋伸幸准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/deb52e6cdec64eb2.html
・松田史生教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/04eb91ab5c02f5ad.html
・大阪大学 大学院情報科学研究科 バイオ情報工学専攻 バイオ情報計測学講座ホームページ
http://www-symbio.ist.osaka-u.ac.jp/
この知見から、正常細胞ががん細胞へと変化する新たなシナリオを描くことが可能となりました(図2)。正常細胞(図2左下)ががん細胞に変化する時には、多量のエネルギー(ATP)が必要となります。正常細胞と同じ経路でATPを供給すると、熱が生成しすぎて、オーバーヒート状態となります(図2右上)。つまり、がん細胞はATP生成効率が低く、熱生成が少ない経路を用いることでオーバーヒートを回避していると考えられます(図2右下)。
◆本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、がん細胞の代謝メカニズムの解明や代謝を標的とした創薬の実現が期待されます。また、本技術は他の哺乳類細胞の解析にも応用可能であり、研究チームでは、免疫細胞やiPS細胞、抗体生産細胞など、医学、生物工学分野で重要な細胞の解析への応用を進めています。
◆特記事項
本研究成果は、2025年8月20日(水)に米国科学誌『Metabolic Engineering』(オンライン)に掲載されました。
・タイトル: "Metabolic flux and flux balance analyses indicate the relevance of metabolic thermogenesis and aerobic glycolysis in cancer cells"
・著者名: Nobuyuki Okahashi, Tomoki Shima, Yuya Kondo, Chie Araki, Shuma Tsuji, Akane Sawai, Hikaru Uehara, Susumu Kohno, Hiroshi Shimizu, Chiaki Takahashi, and Fumio Matsuda
*DOI: https://doi.org/10.1016/j.ymben.2025.08.002
なお、本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 新学術領域研究「代謝アダプテーションのトランスオミクス解析」および若手研究、金沢大学がん進展制御研究所 共同利用・共同研究拠点 若手奨励研究の一環として行われました。
◆用語説明
*1 がん特異的代謝
解糖系やグルタミン代謝の亢進など、がん細胞は正常細胞とは異なる代謝を行うことが示されており、がんの治療標的として注目されている。しかし、そのような代謝を行う理由や役割の全貌はまだ分かっていない。
*2 ATP
アデノシン三リン酸、細胞内でエネルギーを運搬する分子。細胞が必要とする機能を駆動するための通貨の役割を果たす。細胞増殖に必要なタンパク質や核酸を合成する際にATPが必要となる。
*3 解糖系
細胞にとって最も重要な栄養源である糖を乳酸へと分解することでエネルギーを得る代謝経路。1分子のグルコースから2分子のATPを得ることができる。1分子のグルコースから32分子のATPを得ることができる酸化的リン酸化というエネルギー効率の高い経路も存在するが、がん細胞がATP獲得効率の悪い解糖系を用いる理由は分かっていなかった。
*4 代謝熱
代謝反応によって化学結合に蓄えられたエネルギーが熱となって放出される。
*5 ¹³C代謝フラックス解析法
炭素の安定同位体¹³Cからなる糖を細胞に代謝させ、細胞内の代謝物が¹³Cに置き換わっていく様子を質量分析装置で計測することで、細胞内代謝のフラックス(時間当たり、細胞当たりの化学反応量)を調べる解析技術。
*6 フラックスバランス解析法
コンピュータ上で代謝フラックスを予測する解析手法。正確な計算を行うためには、代謝反応を式で記述した代謝モデルや考慮するべきパラメータの設定が必要となる。
◆SDGs目標
3. すべての人に健康と福祉を
9. 産業と技術革新の基盤を作ろう
◆参考URL
・岡橋伸幸准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/deb52e6cdec64eb2.html
・松田史生教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/04eb91ab5c02f5ad.html
・大阪大学 大学院情報科学研究科 バイオ情報工学専攻 バイオ情報計測学講座ホームページ
http://www-symbio.ist.osaka-u.ac.jp/
大学・学校情報 |
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大学・学校名 大阪大学 |
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URL https://www.osaka-u.ac.jp/ |
住所 大阪府吹田市山田丘1-1 |
学長(学校長) 熊ノ郷 淳 |