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【ポイント】
・これまで国ごとに個別に報告されていた、一般的でない名前の経時的変化を実証的に検討した研究を概観した。
・一般的でない名前の増加は、これまで検討されたすべての国、ドイツ・アメリカ・イギリス・フランス・日本・中国・インドネシアで共通して見られた。この変化は、ヨーロッパ・アメリカ・アジアという多様な文化圏で共通して見られており、より世界的な傾向と言える。
・個性や他者との違いを重視し強調する方向に、文化が徐々に変容していることを示唆している。
【発表の概要】
青山学院大学 教育人間科学部 心理学科の荻原祐二准教授は、名前の経時的変化を実証的に検討している研究を概観し、一般的でない名前*1の増加が、ドイツ・アメリカ・イギリス・フランス・日本・中国・インドネシアで共通して見られる、世界的な傾向であることを示した(図1)。
先行研究は、いくつかの国で一般的でない名前が増加していることを示してきた。しかし、それらの知見は、国ごとに個別に報告されており、この現象が世界的に共通して見られるのか、一部の限られた国でのみ見られるのか明らかではなかった。
そこで本研究は、一般的でない名前の頻度の経時的変化を実証的に検討した研究を、体系的に概観した。その際、各研究の対象期間や使用指標、サンプルの特徴なども整理した。
その結果、一般的でない名前は、ドイツ・アメリカ・イギリス・フランス・日本・中国・インドネシアで増加していることが示された。さらにこの傾向は、ヨーロッパ・アメリカ・アジアという多様な文化圏で共通して見られた。よって、一般的でない名前の増加は、より世界的な傾向であると言える。この変化は、個性や他者との違いをより強調する方向に、社会・文化が変容していることを示しており、名前の変化だけでなく、社会・文化の理解にも貢献する。
本研究成果は、2025年11月25日に、国際学術誌Humanities and Social Sciences Communicationsに掲載された( https://doi.org/10.1057/s41599-025-06156-1 )。
【研究の背景】
先行研究は、いくつかの国で一般的でない名前が増加していることを示してきた。しかし、それらの知見は、国ごとに個別に報告されており、一般的でない名前の増加という現象が、世界的に共通して見られるのか、一部の限られた国でのみ見られるのか明らかではなかった。さらに、これらの報告は、心理学・社会学・言語学・人口学・地域研究など、異なる学術領域で個別に行われることが多く、そのために包括的・俯瞰的な理解が十分に行われていなかった。
そこで本研究は、一般的でない名前の頻度の経時的変化を実証的に検討した研究を体系的に概観し、一般的でない名前の増加が世界的に共通した現象なのかを明らかにすることで、個別の学術領域を超えた学際的・分野横断的な理解を試みた。その際、各研究の対象期間や使用指標、サンプルの特徴などについても整理した。
【研究結果の詳細】
その結果、一般的でない名前は、検討されたすべての国、ドイツ・アメリカ・イギリス・フランス・日本・中国・インドネシアで増加していることが一貫して示された。したがって、この現象は世界的に共通して見られるものであり、一部の限られた国でのみ見られるものではないことが明らかになった。さらにこの傾向は、ヨーロッパ・アメリカ・アジアという多様な文化圏で共通して見られた。よって、一般的でない名前の増加は、より世界的な傾向であると言える。こうした変化は、個性や他者との違いをより強調する方向に、社会・文化が変容していることを示しており、名前や名づけの変化だけでなく、社会・文化の理解にも貢献する。
また、日本では1979年以降、一般的でない名前が増加していることが示されている(Ogihara & Ito, 2022)が、アメリカ(1880年~; Twenge et al., 2010)やイギリス(1838年~; Bush, 2020)などでは、より長期間に渡って一般的でない名前が増加していることが示されている。
今回の研究で対象にしたのは、あくまで頻度に基づく一般的でない名前であり、日本において頻繁に用いられている「キラキラネーム*2」ではない。日本では、「キラキラネーム」という言葉が、明確に定義されずに曖昧に用いられており、使用者や状況によってその意味や印象が異なっている(荻原, 2022a, 2023)。そのため、「キラキラネーム」が世界的に増えているかどうかは、「キラキラネーム」をどのように定義するかに依存する(荻原, 2022b)。「キラキラネーム」を広義の「頻度が低い名前」として用いるのであれば、「キラキラネーム」は世界的に増加しているとも言える。一方で、「伝統から逸脱した名前」や「読むことが難しい名前」といった要素を含めたものとして用いるのであれば、「キラキラネーム」が世界的に増加しているかどうかは、現時点では明らかではなかった。
本研究の限界点は大きく2つある。第1に、今回扱った研究の中には、サンプルに偏りが見られたり、対象期間が十分に長くないなど、検証が十分とは言えない国がある。今後は、より詳細な検討を追加していくことが望まれる。第2に、本研究では7つの国を検討したが、十分な数とは言えない。今後は、他の国でも同様の変化が見られるのかを検討する必要がある。特に、ヨーロッパ・アメリカ・アジア以外の異なる文化圏での検証が望まれる。
・Bush, S. J. (2020). Ambivalence, Avoidance, and Appeal: Alliterative Aspects of Anglo Anthroponyms. Names, 68, 141-155. https://doi.org/10.1080/00277738.2020.1775471
・荻原祐二 (2022a). キラキラネームの定義とその構成要素 人間環境学研究, 20(2), 71-79. https://doi.org/10.4189/shes.20.71
・荻原祐二 (2022b). キラキラネームは本当に増加しているのか?人間環境学研究, 20(2), 129-133. https://doi.org/10.4189/shes.20.129
・荻原祐二 (2023). キラキラネームの定義と表記―過去の「現代用語の基礎知識」の検討― 科学・技術研究, 12(1), 67-72. https://doi.org/10.11425/sst.12.67
・Ogihara, Y., & Ito, A. (2022). Unique names increased in Japan over 40 years: Baby names published in municipality newsletters show a rise in individualism, 1979-2018. Current Research in Ecological and Social Psychology, 3, 100046. https://doi.org/10.1016/j.cresp.2022.100046
・Twenge, J. M., Abebe, E. M., & Campbell, W. K. (2010). Fitting in or standing Out: Trends in American parents' choices for children's names, 1880-2007. Social Psychological and Personality Science, 1, 19-25. https://doi.org/10.1177/1948550609349515
・荻原祐二 (2022a). キラキラネームの定義とその構成要素 人間環境学研究, 20(2), 71-79. https://doi.org/10.4189/shes.20.71
・荻原祐二 (2022b). キラキラネームは本当に増加しているのか?人間環境学研究, 20(2), 129-133. https://doi.org/10.4189/shes.20.129
・荻原祐二 (2023). キラキラネームの定義と表記―過去の「現代用語の基礎知識」の検討― 科学・技術研究, 12(1), 67-72. https://doi.org/10.11425/sst.12.67
・Ogihara, Y., & Ito, A. (2022). Unique names increased in Japan over 40 years: Baby names published in municipality newsletters show a rise in individualism, 1979-2018. Current Research in Ecological and Social Psychology, 3, 100046. https://doi.org/10.1016/j.cresp.2022.100046
・Twenge, J. M., Abebe, E. M., & Campbell, W. K. (2010). Fitting in or standing Out: Trends in American parents' choices for children's names, 1880-2007. Social Psychological and Personality Science, 1, 19-25. https://doi.org/10.1177/1948550609349515
【発表者によるコメント】
▼荻原祐二准教授(青山学院大学 教育人間科学部 心理学科)
日本では、一般的でない個性的な名前は「キラキラネーム」という日本独自の言葉で表現されることが多いため、そうした個性的な名前の増加は、日本でのみ生じていると考えられているかもしれません。しかし、個性的な名前の増加は日本以外のさまざまな国でも共通して見られており、日本に特有という訳ではありません。
一般的でない個性的な名前については、社会の注目度や関心は高いものの、エビデンスに基づく検討が十分に行われていないことも多く、現実を反映していない言説や誤解も多いです。今後も、一般的でない個性的な名前に関して実証的な検討を続けることで、名前や社会・文化の理解に貢献していきたいと考えています。
【用語説明】
*1 一般的でない名前
同研究では、名前の頻度を定量的に扱った研究を対象としている。対象とした研究では、頻度が多い名前トップ10やトップ50等の一般的な名前の割合を用いたものが多かったことが示されている。同時に、地域内で重複がない名前や、特定の割合以下の名前といった、低頻度の珍しい名前を指標として用いている研究も分析されていた。
*2 キラキラネーム
広義では、「頻度が低い名前」とされている(荻原, 2022a, 2023)。狭義では、「漢字が用いられている場合に読むことが難しく、伝統から逸脱した、頻度が低い名前で、肯定的または中立的な文脈で用いられる名前」とされている。しかし、使用者や文脈によって定義は異なっており、キラキラネームに関して主張や議論を行う際には、キラキラネームの定義、少なくともキラキラネームが何を意味しているのかを簡潔にでも説明をしてから、論を進めるべきと考えられる。
同研究では、名前の頻度を定量的に扱った研究を対象としている。対象とした研究では、頻度が多い名前トップ10やトップ50等の一般的な名前の割合を用いたものが多かったことが示されている。同時に、地域内で重複がない名前や、特定の割合以下の名前といった、低頻度の珍しい名前を指標として用いている研究も分析されていた。
*2 キラキラネーム
広義では、「頻度が低い名前」とされている(荻原, 2022a, 2023)。狭義では、「漢字が用いられている場合に読むことが難しく、伝統から逸脱した、頻度が低い名前で、肯定的または中立的な文脈で用いられる名前」とされている。しかし、使用者や文脈によって定義は異なっており、キラキラネームに関して主張や議論を行う際には、キラキラネームの定義、少なくともキラキラネームが何を意味しているのかを簡潔にでも説明をしてから、論を進めるべきと考えられる。
【論文情報】
雑誌名: Humanities and Social Sciences Communications
論文タイトル: Uncommon names are increasing globally: A review of empirical evidence on naming trends
著者: Yuji Ogihara
DOI: 10.1057/s41599-025-06156-1
論文リンク: https://doi.org/10.1057/s41599-025-06156-1
掲載日: 2025年11月25日
論文タイトル: Uncommon names are increasing globally: A review of empirical evidence on naming trends
著者: Yuji Ogihara
DOI: 10.1057/s41599-025-06156-1
論文リンク: https://doi.org/10.1057/s41599-025-06156-1
掲載日: 2025年11月25日
※本研究は、日本学術振興会による科学研究費(若手研究 19K14368)の助成を受けて実施したものです。
※論文はオープンアクセスですので、どなたでもお読み頂けます。適切な方法に従っていれば、図表を掲載して頂くことも可能です。
※本リリースにおいて用いられている図も、適切な方法に従っていれば、掲載して頂くことが可能です。
※記事や番組等において紹介して頂く際には、論文情報の説明や論文へのリンクを可能な範囲で掲載して頂くことができますと大変幸いです。
※論文はオープンアクセスですので、どなたでもお読み頂けます。適切な方法に従っていれば、図表を掲載して頂くことも可能です。
※本リリースにおいて用いられている図も、適切な方法に従っていれば、掲載して頂くことが可能です。
※記事や番組等において紹介して頂く際には、論文情報の説明や論文へのリンクを可能な範囲で掲載して頂くことができますと大変幸いです。
【発表者】
荻原祐二(筆頭著者 兼 責任著者)
青山学院大学 教育人間科学部 心理学科 准教授
ウェブサイト: https://sites.google.com/site/yujiogiharaweb/home
※著者には開示すべき利益相反はありません。
※報道原稿のうち、研究内容の事実関係および取材時の発言内容に該当する部分の正確性について、可能な範囲内で、公表前に確認させて頂くことができますと幸いです。
青山学院大学 教育人間科学部 心理学科 准教授
ウェブサイト: https://sites.google.com/site/yujiogiharaweb/home
※著者には開示すべき利益相反はありません。
※報道原稿のうち、研究内容の事実関係および取材時の発言内容に該当する部分の正確性について、可能な範囲内で、公表前に確認させて頂くことができますと幸いです。
【お問い合わせ先】
〇研究に関するお問い合わせ先
青山学院大学 教育人間科学部 心理学科 准教授
荻原 祐二(おぎはら ゆうじ;筆頭著者 兼 責任著者)
ウェブサイト: https://sites.google.com/site/yujiogiharaweb/home
Mail: yogihara@ephs.aoyama.ac.jp
荻原 祐二(おぎはら ゆうじ;筆頭著者 兼 責任著者)
ウェブサイト: https://sites.google.com/site/yujiogiharaweb/home
Mail: yogihara@ephs.aoyama.ac.jp
〇取材に関するお問い合わせ先
青山学院大学 政策・企画部 大学広報課
TEL:03-3409-8159
Mail: agu-kouhou@aoyamagakuin.jp
取材・撮影申し込みフォーム: https://www.aoyama.ac.jp/companies/interview.html
大学・学校情報 |
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| 大学・学校名 青山学院大学 |
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| URL https://www.aoyama.ac.jp/ |
| 住所 〒150-8366 東京都渋谷区渋谷4-4-25 |
| 学長(学校長) 稲積 宏誠 |
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