北里大学

世帯所得が低い世帯は乳児の体重増加不良が1.3倍 ~約55,000人の調査から~ (北里大学)

大学ニュース  /  先端研究

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北里大学医学部公衆衛生学の可知悠子らは、親の社会経済状況(所得、学歴)と、乳幼児の「体重増加不良」の関連性を調べた結果、世帯所得が低い世帯の乳児は体重増加不良が1.3倍高いことを明らかにした。本件に関する論文が2018年5月1日にスイスのオンライン学術誌「Frontiers in Pediatrics」に掲載された。

 子どもの貧困が社会問題になる昨今、親の社会経済状況(所得、学歴)が悪いと、生後まもなくから子どもの健康へ悪影響があるのではないかと懸念されている。乳幼児が月齢や性別からの期待値に沿って発育しない「体重増加不良(注1)」は、その後の発育や認知能力に悪影響を及ぼす重篤な状態である。子育て世帯への社会保障が手厚いイギリスやデンマークの研究では、親の社会経済状況とその児の体重増加不良との間に関連は示されていないが、子育て世帯への社会保障が薄いわが国では、関連がある可能性が考えられた。
 そこで、全国から抽出した乳児(平成13年生まれ34,594名、平成22年生まれ21,189名)を対象に、親の社会経済状況と児の生後18か月までの体重増加不良の関連を調べた結果、乳児が体重増加不良に陥る割合は、世帯所得が上位4分の1の世帯と比べ、下位4分の1の世帯では1.3倍高いことが明らかになった(図1参照)。また、この傾向は平成13年、22年生まれの乳児の両方で見られ、時代によらず一貫していることが示された。

【研究の背景】
 乳幼児が月齢や性別からの期待値に沿って発育しない「体重増加不良」は、その後の発育や認知能力に悪影響を及ぼすため予防が重要である。体重増加不良は貧困と関連しておきやすいことが指摘されており、子どもへの社会保障が比較的少ない日本では、貧困が体重増加不良に影響している可能性が考えられる。

【研究方法】
 厚生労働省が全国規模で実施している、21世紀出生児縦断調査に参加した平成13年生まれの乳児34,594名と平成22年生まれの乳児21,189名を対象に、親の社会経済状況によって生後18か月までに体重増加不良に陥る割合が異なるかどうかを検討した。

【研究結果のポイント】
 平成13年と22年生まれの乳児を別々に、親の社会経済状況と体重増加不良との関連を分析したところ、下記に示すような関連が一貫して見られた(図2参照)。

●世帯を等価可処分所得(注2)に基づいて均等に4群に分けた場合、上位4分の1の世帯と比較して、下位4分の1の世帯では、体重増加不良に陥る割合が1.3倍高いことが明らかになった(平成13年生まれ:調整後オッズ比(注3)1.29:95%信頼区間1.10-1.52、平成22年生まれ:調整後オッズ比1.27:95%信頼区間1.03-1.56)。この関連は出生年に関わらず認められた。
●親の学歴別に体重増加不良に陥る割合を比較したところ、平成13年生まれの乳児のみ、両親が高校卒の場合では、大学卒以上と比較して、体重増加不良に陥る割合が1.1~1.2倍高いことが示されたが、平成22年生まれの乳児では示されなかった。

【本研究の示唆、意義】
 低所得世帯の乳児は、体重増加不良のリスクが高いことが出生年によらず示された。一方、親の学歴と体重増加不良との関連は平成13年生まれでは見られたが、22年生まれでは見られなかった。本研究では、体重増加不良のメカニズムまで特定できなかったが、経済的理由で栄養のある食事を用意できないことや、ネグレクトにより栄養が不足していることが介在していると考えられる。 
 したがって、乳児の体重増加不良を予防するために、親への経済支援が必要と考えられる。たとえば、日本の家族関係社会保障費のGDP比は、H13(0.6%)から H22(1.3%)にかけて増加したが、H22のイギリス(4.0%)や スウェーデン(3.6%)と比べ、まだ少ない現状にある。子どもへの社会保障を増やすことや、また、低所得家庭への食料支援、妊娠から子育てまでの切れ目ない支援によるネグレクトの予防も対策案として挙げられる。

【掲載誌】
雑誌名:Frontiers in Pediatrics(掲載日:2018年5月1日)
      (インパクトファクター:2.172 2017)
論文名:Parental Socioeconomic Status and Weight Faltering in Infants in Japan
著者名:可知悠子(北里大学 医学部 公衆衛生学)
    藤原武男(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 国際健康推進医学分野)
    山岡祐衣(オクラホマ大学 健康科学センター子ども虐待ネグレクトセンター)
    加藤承彦(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 社会医学研究部)

※本研究は「平成28-32年度科学研究費補助金若手研究(B)(16K16631)」の助成を受けています。

【脚注】
(注1)体重増加不良は出生年別に、出生から18ヶ月までの体重増加が最も遅い方から5パーセンタイル未満と定義しました。
(注2)等価可処分所得とは、世帯の可処分所得(収入から税金や社会保険料を引いた実質手取り分の収入)を世帯人数の平方根で割って調整した額のことです。
(注3)オッズ比とは、暴露とアウトカムの関連の強さの指標です。本研究では暴露は社会経済状況、アウトカムは体重増加不良に陥る割合になります。オッズ比の値が1を超える場合、基準の暴露の人と比べて、評価項目が発生する可能性(オッズ)が高いことを意味します。

▼本件に関する問い合わせ先

北里大学 医学部 公衆衛生学

講師 可知 悠子

TEL

: 042-778-9352

FAX

: 042-778-9257

E-mail

kachi@med.kitasato-u.ac.jp