【青山学院大学】小幡玲二さん(2023年度 理工学研究科 博士前期課程修了)の研究成果が著名なドイツ学術誌「Advanced Materials」に掲載 ~新奇原子層磁性体「Fe₃GeTe₂」の物性解明と次世代素子応用への道を拓く~
この研究は、以前炭素原子1個の薄さの物質「グラフェン」の作成で開発され、世界で流行している、原子1個から数個の薄さの破片(原子層破片)を、元の結晶からセロテープで剥離して作成するという手法に基づくものです。金属から半導体、磁性体、超伝導体など、現在あらゆる原子層破片がこの手法で創製され、基礎物性、素子応用両面から激しい研究競争が行われてますが、近年さらに複数の原子層破片を、スタンプを押すように積層させてファンデルワールス力(原子同士に自然と働く引力)のみで結合する手法が開発され、大きなうねりとなっています。特に2つの原子層破片をたった1度だけ回転させて積層すると、その物性が劇的に変わるという「魔法角」が発見され、この4、5年で世界を席巻しました。
そこで私は、新奇原子層磁性体Fe₃GeTe₂(FGT)を作成し、これを2個大きく角度を変えて直接回転積層しました(図1)。すると回転角に応じて、磁気トンネル接合と呼ばれる構造が自然と創製されることを世界で初めて発見しました(図2)。一般にはこの構造、特性は2つの磁性体の間にトンネル膜を挿入しないと起きませんが、私の場合、何も挿入せずに直接積層したので、極めて不思議な結果で驚きました。大阪大学などと共同で構造を詳しく調査したところ、破片間に空いたわずか数個程度の原子の隙間(ファンデルワールスギャップ)がこのトンネル膜の役割を果たし、回転角度によって破片間に起きる結晶格子の不整合がこの隙間を変えることで、この現象が発生することを解明しました。
このFGTがかなり複雑な結晶構造を持つため、これを原子数個分に薄くする作業は困難を極め、さらにこれを回転角度を制御しながら2個積層するのはもはや職人芸の領域でした。しかも、この破片は酸化しやすいため、短時間でこれを行った後に、その上から原子層窒化ホウ素という絶縁体をかぶせて酸化を防ぐ必要がありました。連日朝から晩まで特殊な積層顕微鏡の前でこの作業に没頭し、ようやく良い特性の試料ができた時には、本当に涙が出るほど嬉しかったのを覚えています。
こうして苦労した成果が世界でも著名な学術誌に掲載され、苦労が報われました。この研究では修了時に学内大学院の薦田賞もいただくことができました。お世話になった皆さまに心より感謝いたします。
実は小幡さんは、学部時代から博士前期課程卒業までの3年間で3件も論文を発表しており、そのうち2件がこの「Advanced Materials」に掲載という快挙を成し遂げました。特にこの論文は、複雑な結晶構造を持つ原子数個の薄さの新奇磁性体破片を、元になる厚い層状結晶からセロテープを使って剝がし、それら2個の破片を面内で制御回転させながら角度をずらして積層するという超職人芸的な技が産み出したもので、壮絶な努力無しでは成し遂げられなかった素晴らしい成果です。
また、小幡さんは、当研究室に正式入室する前の3年次の春休みからすでに実験を始めており、共同研究先の東京大学にも通っていました。その後、学部・博士前期課程を通して、毎日朝から晩まで日々たゆまぬ努力を重ね、この職人芸を身に付けて見事な成果を達成したもので、本当に頭が下がる思いです。最近なかなか見かけなくなった陰の努力を黙々と継続できる素晴らしい学生でした。現在は社会人として活躍していますが、この論文掲載を聞いて大変喜んでおり、これを励みに今後より一層活躍することを心より願っています。
*²スピン:物質を構成する原子中では、電子は原子核を周回しながら自身が地球のように自転しており、この自転をスピンと呼ぶ。例えば強磁性体は、有効な電子のスピンがすべて同じ方向に向き磁化を発現することで磁石になるという特徴を持つ。この電子スピン制御の一つの方法としては、外部からの磁場印加がある。
*³磁気トンネル接合:2つの磁性体を積層する時に、その間に電子が透過(トンネル)する程度の薄いトンネル膜を挟んだ構造。同じ方向に自転する電子スピン同士はこの2つの破片間を透過しやすく、逆向きに自転するスピンは反発して透過しがたい。このため、印加する磁場を+-間で掃引し反転させると、その反転点であるゼロ磁場付近で2つの破片中の電子スピン方向が逆向きになるため、破片間の電子スピンの流れに高い磁気抵抗が生じる。この磁気抵抗の最大・最小の比が応用上極めて重要で、比が大きいほど磁気メモリ素子などへの応用が有利になる。
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