【名城大学】植物が青色光でデンプンを分解し気孔を開く仕組みを解明 −青色光受容体フォトトロピンの新たな基質WDR48を発見−
・ 青色光による気孔開口を促進する新たな分子メカニズムを解明
・ 青色光受容体フォトトロピンの新たなリン酸化基質を発見
・ 作物の光合成効率や水利用効率の向上につながる可能性
【概要】
山口大学大学院創成科学研究科の武宮淳史教授、東京理科大学創域理工学部の山内翔太助教(元 山口大学学術研究員)の研究グループは、東京農工大学大学院農学研究院生物システム科学部門の梅澤泰史教授、名城大学理工学部の堀田一弘教授らとの共同研究により、植物が青色光に応答してデンプンを分解し、気孔開口を促進する新たな分子メカニズムを解明しました。
気孔は、植物の表皮に存在する一対の孔辺細胞によって形成される微小な孔であり、青色光に応答して開口し、光合成に必要な二酸化炭素(CO₂)の取り込みを促進します。孔辺細胞は表皮細胞の中で唯一葉緑体をもち、光合成によって葉緑体中にデンプンを蓄積します。青色光はこのデンプンを迅速に分解する作用をもち、その分解によって生じた糖や有機酸などが気孔開口を促進すると考えられています。しかし、この過程を制御する分子メカニズムはこれまで明らかになっていませんでした。
本研究では、青色光によって特異的にリン酸化※1されるタンパク質「WDR48※2」を発見し、この因子が孔辺細胞におけるデンプン分解に必須であることを明らかにしました。さらに、WDR48は青色光受容体であるフォトトロピン※3と結合し、青色光依存的にリン酸化される基質であることを示しました。
本成果により、青色光がデンプン分解を介して気孔開口を制御する新たな仕組みが明らかとなりました。この仕組みを応用し、気孔開口を人為的に制御することで、光合成効率や水利用効率を向上させ、食料およびバイオエネルギー生産に資する作物の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年3月6日にイギリス科学誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。
【研究背景】
植物の葉の表皮には、「気孔」と呼ばれる一対の孔辺細胞によって形成される微小な孔が存在します。気孔は光に応答して開口し、光合成に必要な二酸化炭素(CO2)の取り込みを促進するとともに、蒸散を通じて根からの水や養分の吸収を促進する重要な役割を担っています。
孔辺細胞は表皮細胞の中で唯一葉緑体をもち、赤色光は光合成を誘導し、葉緑体におけるデンプンの蓄積を促進します。一方、青色光は青色光受容体フォトトロピンを介して、葉緑体に蓄積したデンプンを速やかに分解します。この青色光によるデンプンの分解は、孔辺細胞に特異的に見られる現象であり、気孔開口の促進に寄与します。さらに、赤色光と青色光は互いに相乗的に作用し、気孔開口を強く促進することが知られており、これらの赤色光と青色光によるデンプン代謝の制御は、相乗的な気孔開口のメカニズムのひとつと考えられています。しかし、青色光がどのような分子メカニズムによってデンプン分解を引き起こすのかについては、これまで明らかになっていませんでした。
【研究の成果】
研究グループは、リン酸化プロテオーム※4を用いて、孔辺細胞において青色光に応答してリン酸化修飾を受けるタンパク質を網羅的に解析しました。その結果、動植物に広く保存されているタンパク質 WD-repeat protein 48(WDR48)が、青色光かつフォトトロピンに依存して特異的にリン酸化されることを見出しました(図1)。
次に、シロイヌナズナのWDR48を欠損する変異体を用いて機能解析を行いました。その結果、この変異体では赤色光下では孔辺細胞の葉緑体におけるデンプン蓄積は正常に見られた一方で、青色光によるデンプン分解が起こらず(図2)、気孔開口も損なわれることが明らかになりました。さらに、WDR48の青色光に応答したリン酸化が、このデンプン分解に必須であることが分かりました。
青色光受容体フォトトロピンは、光を受けると他のタンパク質にリン酸基を付加する酵素(キナーゼ)として働きます。本研究では、WDR48は青色光受容体フォトトロピンと細胞膜および葉緑体包膜上で直接結合し、青色光によって活性化したフォトトロピンによってリン酸化される基質であることを示しました(図3)。
さらに、青色光によるデンプン分解には、従来から関与が示唆されていたBLUS1を介した細胞膜H+-ATPaseの活性化も必要であることが分かりました。一方、WDR48はこの経路とは独立したシグナル伝達経路を形成しており、両者のシグナルが統合されることでデンプン分解が引き起こされることを明らかにしました(図4)。
以上の一連の研究により、青色光受容体フォトトロピンがWDR48をリン酸化することで、孔辺細胞の葉緑体におけるデンプン分解を制御する新たな分子メカニズムが明らかになりました。さらに、赤色光によるデンプン蓄積と青色光によるデンプン分解を通して、気孔開口が相乗的に制御される分子基盤の一端が明らかになりました。
【本研究の意義と今後の展開】
本研究により、青色光受容体フォトトロピンがWDR48をリン酸化することで、孔辺細胞の葉緑体におけるデンプン分解を制御し、気孔開口を促進する新たな分子メカニズムが明らかになりました。これにより、赤色光によるデンプン蓄積と青色光によるデンプン分解が連携することで、赤色光と青色光による相乗的な気孔開口が引き起こされる仕組みの一端が明らかになりました。
気孔は光合成による二酸化炭素の取り込みと蒸散による水利用の調節を担う重要な構造であり、その開閉制御は植物の成長や環境適応に大きく影響します。本研究成果は、植物が光環境に応じて気孔開口を調節する分子基盤の理解を深めるものです。
今後、本研究で明らかになった仕組みを応用し、気孔開口を人為的に制御することで、光合成効率や水利用効率を向上させ、食料およびバイオエネルギー生産に資する作物の開発につながることが期待されます。
【発表論文の情報】
論文名:Phosphorylation of WDR48 by phototropins drives starch degradation to promote stomatal opening
(フォトトロピンによるWDR48のリン酸化はデンプン分解を誘導し気孔開口を促進する)
著者: Shota Yamauchi, Saashia Fuji, Hiroki Ikuta, Naoyuki Sugiyama, Yutaka Kodama, Luca Distefano, Haruki Fujii, Kota Yamashita, Hinano Takase, Mika Nomoto, Yasuomi Tada, Taishi Umezawa, Kazuhiro Hotta, Diana Santelia, Ken-ichiro Shimazaki, Atsushi Takemiya
(山内翔太、冨士彩紗、生田大貴、杉山直幸、児玉豊、Luca Distefano、藤井春樹、山下昂太、高瀬緋奈乃、野元美佳、多田安臣、梅澤泰史、堀田一弘、Diana Santelia、島崎研一郎、武宮淳史)
掲載誌:Nature Communications(2026年)
DOI:10.1038/s41467-026-70314-5
掲載日:2026年3月6日付
【謝辞】
本研究は、JSPS科研費 (21H02511、24K02045、19K16171、22K15144、21H02466)、MEXT科研費(21H05665、22H04726、23H04202、25H01347、20H05906、22H4735)、JST ASPIRE (JPMJAP24A1)、日本応用酵素協会、武田科学振興財団、山口大学研究拠点群形成プロジェクト、山口大学基金、Swiss National Science Foundation (310030_185241/1)の支援を受けて行われました。
【問い合わせ先】
<研究に関すること>
山口大学大学院創成科学研究科 理学系学域 生物学分野
教授 武宮 淳史(たけみや あつし)
Tel:083-933-5722
E-mail:take.pcs@yamaguchi-u.ac.jp
<報道に関すること>
山口大学 総務部総務課広報室
Tel:083-933-5007
E-mail:sh011@yamaguchi-u.ac.jp
東京理科大学 広報課
Tel:03-5228-8107
E-mail:koho@admin.tus.ac.jp
東京農工大学 総務課広報室
Tel:042-367-5930
E-mail:koho2@cc.tuat.ac.jp
名城大学 渉外部広報課
Tel:052-838-2006
E-mail:koho@ccml.meijo-u.ac.jp
【用語解説】
※1 タンパク質のリン酸化
タンパク質を構成するアミノ酸のうち、特定のアミノ酸(セリン、スレオニン、チロシン)にリン酸基が付与される化学修飾。リン酸化によってタンパク質の働きが変化し、細胞内のシグナル伝達を担う重要な仕組みとして機能する。
※2 WDR48
動植物に広く保存されたタンパク質。動物では神経系の発達やDNA損傷の修復、がんの進行制御など、様々な細胞内プロセスに関与することが知られている。一方、植物においては植物ホルモンにおける機能が報告されているものの、その機能は限定的にしか分かっていなかった。本研究により、WDR48が青色光に応答した気孔開口の制御に関与することが明らかになった。
※3 フォトトロピン
植物に特有の青色光を感知する光受容体。タンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)の性質をもち、光受容により活性化すると、他のタンパク質をリン酸化することで、情報を伝達する。気孔開口をはじめとして、光屈性や葉緑体運動、葉の平滑化など、光合成や成長の促進に関わる多様な応答を制御する。
※4 リン酸化プロテオーム
細胞や組織などの生体内で生じるタンパク質のリン酸化修飾を網羅的に解析する手法。ヒドロキシ酸修飾酸化金属クロマトグラフィーによってリン酸化ペプチドを濃縮し、その後ナノLC-MS/MS装置で分析することで、タンパク質のリン酸化状態を大規模に解析することができる。
本件に関するお問い合わせ先
名城大学渉外部広報課
- 住所
- 愛知県名古屋市天白区塩釜口1-501
- TEL
- 052-838-2006
- FAX
- 052-833-9494
- koho@ccml.meijo-u.ac.jp