<飲み心地は「喉」で変えられる!?>喉温度と飲用量から飲み心地を推定し、 温度制御で操作する技術を開発
研究成果のポイント
◆人が飲み物を飲んだときの「喉の温度」と「飲む量」を計測し、人が感じる「のど越し」「おいしさ」「心地よさ」といった「飲み心地」を推定することに成功した。
◆喉に温度を提示するウェアラブルデバイスを開発し、のど越しなどの飲み心地を変化できることを明らかにした。
◆冷たい飲み物には冷感を提示するなど、飲料と一致する温度を提示することで、飲用体験が向上することが明らかになった。
◆ヒューマンコンピュータインタラクション分野のトップ国際会議「CHI 2026」に採択され(採択率:25.3%)、全採択論文のうち上位5%の優秀な研究にのみ授与される「Honorable Mention Award」を受賞した。
概要
上堀まいさん(理工学研究科 理工学専攻 知能情報コース 博士後期課程2年)、伊藤雄一教授(理工学部 情報テクノロジー学科)らのグループは、喉のセンシングと温度提示を通じて、飲み物の「のど越し」「おいしさ」「心地よさ」を推定・変容するウェアラブルデバイスを開発した。
研究グループは、人が飲料を摂取する際の喉頭の皮膚温度と飲用量を計測するシステムを実装し、31名を対象とした実験を行った。その結果、皮膚温度変化と飲用量から「のど越し」「おいしさ」「心地よさ」といった「飲み心地」をつかさどる主観的な評価を推定し、個人ごとに異なる感覚をモデル化することに成功した。さらに、この知見をもとに、喉頭に対して冷感や温感を提示できるウェアラブルデバイスを開発した。
このデバイスを用いて20名を対象に行った実験の結果、冷たい飲み物に対して喉に冷感を提示するなど、飲料の温度と一致する温度を喉に提示することで、飲用体験が向上することが分かった。また、事前に測定した個人の飲用時の喉の温度変化に合わせて温度を調整することで、飲み物の感じ方がどう変わるかには個人差があることも明らかになった。これにより、喉の感覚を「測る」ことと「変える」ことを組み合わせる手法が、その人にとって最適な食体験を提供する上で非常に有効である可能性が示された。

本研究成果は、2026年4月13日から開催されるヒューマンコンピュータインタラクション分野のトップ国際会議「ACM CHI2026」にて採択され、全採択論文の上位5%に授与される「Honorable Mention Award」を受賞した。
※学年、所属等は当時の表記
【伊藤教授のコメント】
本研究は、喉の温度変化と味覚の新たな関係を情報学的観点から見出し、飲用体験を向上させる新しい
方法を提案しています。特に、喉へのわずかな温度変化が「のど越し」や味覚に与える影響に注目し、一人ひとりの感覚に合わせて体験を最適化できることを実証した点が重要です。今後は、VR技術などと組み合わせることで多様な食体験を生み出し、食品の開発や健康維持の分野など、さまざまな用途へ展開していきたいと考えています。
研究の背景
私たちが日常的に飲み物を楽しむとき、「のど越し」など身体の内側で生じる感覚は、味わいや満足感を形作る非常に重要な役割を果たしている。もし、コンピュータを用いてこれらの感覚をセンシングできれば、食体験そのものを再設計し、私たちの食事をより豊かに拡張する新たな技術へと応用することが可能になる。しかしながら、客観的なデータ(温度や摂取量など)から、人が主観的にどう感じているかという内面的な状態を定量的に測る手法は、これまで十分に開発されていなかった。
そこで本研究では、この課題を解決するための新しいアプローチとして「喉(喉頭)」に着目した。喉は飲み物が通過する際の感覚を鋭敏に捉える場所である。この喉の変化を客観的に測り、さらに介入する仕組みを作ることができれば、個人の感じ方に合わせたこれまでにない飲用体験のデザインが可能になると考えた。
研究の内容
研究グループは、喉(喉頭)を対象にのど越しなどの感覚である「飲み心地」を「測る」と「変える」の2つのアプローチを統合した新しい手法を開発した。本手法は大きく2つの実験を経て検証した。
まず、31名を対象とした第1の実験では、飲み物を飲んだ際の喉の皮膚温度の変化と、飲んだ量(飲水量)を計測した。その結果、これらのデータを用いることで、「のど越し」などの主観的な「飲み心地」をコンピュータ上でモデル化(推定)することに成功した。さらに分析を進めると、同じように飲んでいても、人によって飲み心地の捉え方には違いがあることが明らかになった。
次に、この計測結果をもとに、喉に対して直接的に温度(冷感や温感)を提示できる専用のウェアラブルデバイスを開発した(図2)。そして、20名を対象とした第2の実験を実施し、このデバイスを使って喉に温度刺激を与えながら飲み物を飲んでもらい、体験がどう変化するかを検証した。この実験から、2つの発見があった。まず、冷たい飲み物を飲む際には喉も冷やし、温かい飲み物の際には喉も温めるというように、「飲み物の温度」と「喉への温度刺激」を一致させることで、実験参加者全体で飲み心地や美味しさの評価が向上することが分かった。一方で、この温度刺激による効果の大きさには、個人差があることも明らかになった。第1の実験で測定した「飲用中の喉の温度変化」を分析したところ、この個人の特性によって、温度刺激が飲用体験に与える影響度合いが異なることが実証された。

これらの結果から、まずは「飲み物と喉の温度を一致させる」という全体的な手法を基本としつつ、そこに「個人の感覚モデル」を組み合わせて刺激を微調整することで、一人ひとりに合わせた理想的な飲用体験を作り出せる可能性が示された。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究の成果によって、個人の感覚の特徴や特定の飲料に合わせて喉への温度提示を調整することで、ユーザの飲用体験を個人に最適化して、体験全体を向上させることが可能となる。これにより、飲料そのものの成分を変えることなく「のど越し」や「おいしさ」を高める新たなアプローチをもたらし、これまでにない食体験のデザインにつながることが期待される。
今後は、視覚情報や仮想現実(VR)技術などと動的に組み合わせることで、実際に飲んでいるものとは異なる感覚をリアルに再現できる、新しい食体験の創出を目指す。例えば、ノンアルコール飲料を飲む際に喉へ適切な温感を提示することで、ワインやスピリッツなどのお酒特有の熱感や深い喉越しを再現し、誰もが安全に楽しめる新しい飲酒体験を提供することも視野に入れている。
このような技術は、日常の飲み物の楽しみ方を広げるだけでなく、糖分などを控えた健康飲料での満足感の向上や、高齢者や病気の方の食事支援にも役立つ可能性がある。
特記事項
本研究成果は、2026年4月に開催される「ACM CHI2026」に採択され、全採択論文の上位5%に授与される「Honorable Mention Award」を受賞した。
タイトル:“Sensing and Modulating the Feel of a Drink: A Personalized Approach via
Laryngeal Thermal Feedback”
著者名:Mai Kamihori, Kouyou Otsu, Yuichi Itoh
DOI: https://doi.org/10.1145/3772318.3790510
なお、本研究を進めるにあたり、砂原秀樹教授(慶應義塾大学)と池永全志教授(九州工業大学)から有益な助言をいただいた。また本研究の一部は、JSPS 科研費JP22K18424とJP24KJ1917の助成、さらに、JST ACT-X,JPMJAX24M3の支援を受けたものである。
関連情報
伊藤雄一研究室(χLab.)
伊藤雄一教授(理工学部 情報テクノロジー学科) 研究者情報
理工学部
お問い合わせ先
<研究に関するお問い合わせ>
青山学院大学 伊藤雄一研究室
TEL:042-759-6319
E-mail: info@x-lab.team
<産官学連携窓口>
青山学院大学 統合研究機構 リエゾンセンター
相模原キャンパス
TEL:042-756-6056
E-Mail: agu-liaison@aoyamagakuin.jp
<取材に関するお問い合わせ>
青山学院大学 政策・企画部 大学広報課
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