【城西大学】地方大学の危機は本当か? 私立大学の定員割れリスク、実は都市郊外のほうが高い傾向 ― 10年間のデータ分析から探る
■ポイント
- 私立大学の定員割れ要因を、地域・大学・時点の3つの水準(マルチレベル)から10年間にわたるデータをもちいて分析した。
- 一般によくいわれる地方大学の不利益は観察されず、むしろ3大都市圏の都市郊外に立地する大学のほうが定員割れリスクが高いことがわかった。
- また、偏差値や就職率などは、毎年の変化(フロー)ではなく、長年積み上げてきた実績や評価としての構造的な差(ストック)として受験生に評価されている可能性が示唆された。
- ただし、学生数だけは、その減少プロセス(フロー)自体が構造的な差(ストック)を上回ってリスクを高める傾向にあった。よって、経営改善には、みかけの充足率を上げるための定員削減よりも、学生の実数を維持・安定化させることが重要だと考えられる。
■研究の背景
現在、日本の私立大学の約6割が定員割れの状態にあり、大きな社会問題となっている。これまでマスメディアなどでは偏差値による市場淘汰や、地方にある小規模校の不利益といった文脈で語られることが多くあった。しかしながら、実際にどのような要因が定員割れを左右しているのか、データにもとづいた統計分析は必ずしも十分ではなかった。そこで本研究では、地域ごとの条件*1や大学ごとの特性*2、そして時点変化を区別して分析できる高度な手法(マルチレベルモデル*3)をもちいて、定員割れの精確な要因の探索を試みた。

図 入学定員充足率のリッジラインプロット*4(地域区分別):2012-2012年度
■研究成果の詳細
2012年度から2021年度までの10年間のパネルデータ*5をセットし、定員割れの深刻度合(100%未満、80%未満、60%未満)に応じた分析を行った。得られたおもな結果は次のとおり。
① 都市郊外というリスク
意外にも地方に所在すること自体が直接リスクを高める要因にはなっていなかった。むしろリスクが顕著だったのは、3大都市圏(埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫)の都市郊外(政令指定都市以外)に所在する大学であった。
② 過去の運営がストックとして効く
偏差値や就職率といった指標は、毎年の変化(フロー)よりも、その大学が長年積み上げてきた実績や評価の差(ストック)として、定員充足に影響していた。ゆえに、単年度だけ数値を操作しようとしても受験生の獲得には直結せず、長期的な信頼構築が不可欠であると考えられる。
③ 規模の安定化の重要性
一方で、規模(学生の実数)については、それが減り続けているプロセス自体が、深刻な定員割れリスクをさらに高めるという、負のスパイラルを生む傾向があることがわかった。このため、定員を減らして充足率をよくみせるよりも、まずは収入に直結する学生の実数を維持し、規模を安定させることが重要であると考えられる。

表 二項ロジスティック回帰(ランダム切片モデル)*6の推定結果:オッズ比*7
■今後の展望
本研究の結果は、単純な市場原理や立地論だけでは語れない、私立大学経営の複雑な構造を明らかにした。最近増えつつある女子大学の共学化についても、長年築いた女子大ブランドというストックを手放すリスクをともなう判断であるため、慎重な検討が必要であることが示唆される。今後はさらに詳細な学問分野の分析や、因果関係の特定をすすめることで、より具体的な大学経営への処方箋を提示することを目指している。
■論文情報
- タイトル:私立大学の定員割れを規定する要因の探索:地域・大学・時点のマルチレベルモデルから
- 掲載誌:『教育学研究』第93巻第1号、pp.14-25. (2026年3月)
- 著者:松宮 慎治
■研究助成
本研究はJSPS科研費JP24K16629、JP24K00387の助成を受けたものです。
■解説
(*1)地域ごとの条件:本研究でもちいたのは、18歳人口、1人当たり県民所得、完全失業率、県外進学率、私立大学収容率。データの出典はそれぞれ、18歳人口、県外進学率が『学校基本調査』(文部科学省)、1人当たり県民所得が『県民経済計算』(内閣府)、完全失業率が『労働力調査報告』(総務省統計局)、私立大学収容率が、分子の入学定員数は『大学四季報データベース』(東洋経済新報社)と『大学ランキング』(朝日新聞出版)および『大学の真の実力』(旺文社)、分母の高校卒業者数は『学校基本調査』。8つ地域区分が『大学四季報データベース』。地域区分の内訳は、政令指定都市A(さいたま市、千葉市、東京23区、横浜市、相模原市、川崎市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市)、政令指定都市B(札幌市、仙台市、静岡市、浜松市、新潟市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市)、都市郊外(埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫の政令指定都市以外)、地方A(北海道、宮城、静岡、新潟、岡山、広島、福岡、熊本の政令指定都市以外)、地方B(北関東(茨城、栃木、群馬)、甲信(山梨、長野))、地方C(愛知をのぞく東海(岐阜、三重)、北陸(富山、石川、福井)、京都・大阪・兵庫をのぞく近畿(滋賀、奈良、和歌山))、地方D(岡山・広島をのぞく中国(鳥取、島根、山口)、四国(徳島、香川、愛媛、高知))、地方E(宮城をのぞく東北(青森、岩手、秋田、山形、福島)、福岡・熊本をのぞく九州(佐賀、長崎、大分、宮崎、鹿児島、沖縄))。
(*2)大学ごとの特性:本研究でもちいたのは、学生数、偏差値、学問分野、開設時期、短期大学からの改組転換、女子大学、複数都道府県キャンパス、就職率、教育研究経費。データの出典はそれぞれ、学生数、学問分野、女子大学、複数都道府県キャンパス、就職率、教育研究経費が『大学四季報データベース』、偏差値が『蛍雪時代』(旺文社)、開設時期が『大学情報データベース』(東京大学)、短期大学からの改組転換が『平成29年度全国短期大学一覧』(文部科学省)。
(*3)マルチレベルモデル:データがもつ入れ子構造を精確に分析するための統計手法。たとえば「地方の小規模校が定員割れしている」という現象が想定されるとき、その原因が「地方(地域レベル)」にあるのか、それともたんに「小規模(大学レベル)」であるからなのか、従来の分析ではこれらを混同してしまいがちであった。マルチレベルモデルをもちいることで、それぞれの要因がどの階層から来ているのかを明確に区別し、特定の要因影響を過大・過小に評価してしまうリスクを避けることができる。さらにこの論文では、より発展的なWithin-Betweenランダム効果モデルをもちいることで、要因の影響が長年の運営で築き上げられた蓄積されたブランドや構造的な差(ストック)によるものなのか、それとも前年度から今年度にかけての一時的な変化(フロー)よるものなのかを区別することを試みている。
(*4)リッジラインプロット:複数のグループ(地域や年度など)のデータの分布を、山並みのような形で縦に並べて表示するグラフ。各分布の面積が1に標準化されているため、傾向を分母の違いに左右されずに比較できる。
(*5)パネルデータ:同じ対象(この研究では私立大学)を、一定期間にわたって繰り返し追跡して記録したデータのこと。
(*6)二項ロジスティック回帰(ランダム切片モデル):ある出来事が起きたか起きなかったか、という2つの状態(二項)のどちらになる確率が高いかを分析する手法であり、グループ(地域や大学)ごとに初期値が異なることを想定するモデル。
(*7)オッズ比:1より大きいとリスク増、1より小さいとリスク減。
■付録
分析にもちいた変数の基礎統計量とRのスクリプト、および表の時点の2乗項までをふくむモデルの結果は、Open Science Framework < https://doi.org/10.17605/OSF.IO/GCHYP > に公開している。
▼本件に関する問い合わせ先
<研究に関すること>
城西大学経済学部 助教 松宮 慎治(マツミヤ シンジ)(研究実施時:信州大学学術研究院総合人間科学系 講師)
E-mail: smatsumiya@josai.ac.jp
<報道に関すること>
城西大学広報課
住所: 埼玉県坂戸市けやき台1-1
TEL: 049-271-7543
E-mail: koho@stf.josai.ac.jp