廃PETからMOFを直接合成する新技術を開発 高収率81.7%を達成、CO2吸着の産業応用へ大きく前進
・廃PET(ポリエチレンテレフタレート)注1)ボトルを分解・精製せずに直接「有機金属構造体(MOF)」注2)へ変換する手法を開発。
・短時間で最大81.7%の高収率合成を達成。
・アミン修飾注3)によりCO2吸着注4)性能を向上。
【研究概要】
| 名古屋大学大学院環境学研究科のKayee Chan(カイー チャン)博士(現:香港理工大学)、ジンチェンコ アナトーリ准教授、名古屋大学大学院工学研究科の川尻 喜章 教授、Frantisek Miksik(フランティシェク ミクシイク)特任准教授らの研究グループは、廃PETボトルを原料として、多孔性材料「金属有機構造体(MOF)」を直接合成する手法を開発しました。 本研究では、従来必要とされていたPETの分解・精製工程を省略し、水熱反応によるone-potプロセス注5)によりクロム系MOFの合成に成功しました。その結果、短時間で最大81.7%という高収率を達成し、従来法に比べて大幅に効率を向上させました。 この材料は高い比表面積注6)(約2400 m2/g)を有し、廃PETを原料としても、純粋な原料から合成したMOFと同程度のCO2吸着性能を示すことが確認されました。加えて、アミン修飾によりCO2吸着性能が向上し、特に低圧条件において最大約10倍の吸着性能向上を示しました。また、10 gスケールの材料を用いた連続流通条件下での評価により、実用環境に近い条件においても高いCO2吸着性能と安定した再利用性を有することが実証されました。 本技術は、廃プラスチックの高付加価値化とCO2回収を両立するものであり、炭素回収・貯留注7)や排ガス処理プロセスへの応用が期待される、産業応用に向けた材料製造プロセスの高度化に貢献するものです。 本研究成果は、2026年4月19日に学術誌「Chemical Engineering Journal」にオンライン掲載されました。 |
【研究背景と内容】
世界で生産されたプラスチックのうち、リサイクルされる割合は依然として低く、多くが焼却または環境中に廃棄されています。特にPETは飲料ボトルや包装材料として広く利用されている代表的なプラスチックであり、その有効利用の高度化は、廃プラスチック問題の解決に向けた重要な課題です。また、産業活動に伴うCO2排出量の増加は地球温暖化を加速させており、CO2吸着を利用した回収技術の開発が強く求められています。
このような背景のもと、本研究では、廃PETを単に再利用するのではなく、高機能材料へと転換する「アップサイクル」に着目しました。PETの主成分には、その高分子骨格の大部分(約85%)を占めるテレフタル酸注8)由来ユニットが含まれており、「有機金属構造体(MOF)」の原料として利用可能なテレフタル酸構造を豊富に有していることから、廃PETを原料としてMOFを直接合成し、CO2吸着材料として活用することを目的としました(図1)。

従来、PETをMOF原料として利用する場合には、PETを化学的に分解してテレフタル酸を取り出し、精製した後に金属塩と反応させる多段階プロセスが必要でした。これに対し本研究では、廃PETボトルを前処理なしでそのまま用い、水熱反応によるone-potプロセスによりクロム系MOF(MIL-101(Cr))を直接合成する手法を確立しました。反応条件の最適化により、短時間(4~8時間)でMOF生成が進行し、8時間で最大81.7%という高収率を達成しました。これは従来報告と比較して大幅に高い値であり、材料製造プロセスの効率を大きく向上させる成果です。さらに、本手法では危険性の高い試薬を用いずに合成が可能であり、安全性および工程簡略化の観点でも優れています。
得られたMOFは、平均粒子径約50-100 nmの高結晶性ナノ粒子であり(図2)、比表面積は約2400 m2/gに達しました。細孔構造も典型的なMIL-101型構造と一致しており、純粋なテレフタル酸から合成したMOFと同等の構造特性を有することが確認されました。CO2吸着性能についても同等レベルを示し、例えば20 ℃、100 kPa条件において、MOF 1 gあたり約0.08 gのCO2を吸着可能でした。これは、約100 Lの空気中に含まれるCO2量に相当します(図2)。

さらに、MOFの細孔内にアミン基を導入するアミン修飾により、CO2吸着性能の向上を図りました。アミン分子の導入によりCO2との相互作用が強化され、特に低圧条件において吸着性能の大幅な向上が確認されました。特に、アミノ基を多数有するポリエチレンイミンを多く導入した場合には、低圧条件において最大約10倍の吸着量向上が得られました。
加えて、実用化を見据えた連続流通条件下での検証も行いました。10 gスケールのMOFペレット化試料を用いた破過応答試験注9)により、CO2を含むガス流通下において安定した吸着挙動を示すことが確認されました。繰り返しの吸脱着試験においても性能低下はほとんど見られず、高い再利用性を有することが示されました。さらに、高湿度条件下においても吸着性能は低下せず、むしろ向上する傾向が確認され、実際の排ガス環境に近い条件でも有効に機能することが示されました。
本研究は、廃PETという低コスト資源を原料として、高性能MOFの直接合成からCO2回収プロセスへの適用可能性の実証までを一貫して示した点に特徴があります。廃プラスチックの高付加価値化とCO2排出削減を同時に実現する技術として、炭素回収・貯留(CCS)や排ガス処理プロセスへの応用が期待されます。
【成果の意義】
本研究は、廃PETから高性能なMOFを直接合成し、CO2回収材料としての実用性まで示した点に意義があります。従来の2段階プロセスを省略し、短時間・高収率での合成を可能としたことで、材料製造の効率化と低コスト化に貢献します。また、連続流通条件下において安定したCO2吸着性能と再利用性を示したことから、排ガス処理や炭素回収・貯留(CCS)への応用が期待されます。廃プラスチックの高付加価値化とCO2削減を同時に実現する技術として、産業応用に向けた展開が見込まれます。
本研究は、住友財団環境研究助成ならびに名古屋大学NU部局横断イノベーション創出プロジェクトの支援を受けて実施されたものです。
【用語説明】
注1)PET(ポリエチレンテレフタレート):
飲料ボトルや包装材料などに広く使用される代表的なプラスチック。
注2)有機金属構造体(MOF):
金属イオンと有機配位子から構成される多孔性材料。極めて高い比表面積と細孔構造を有し、ガス吸着や分離、触媒などに応用される。
注3)アミン修飾:
材料表面や細孔内にアミン基(–NH2など)を導入することで、CO2との相互作用を強化し、吸着性能を向上させる手法。
注4)CO2吸着:
二酸化炭素分子を固体材料の表面または細孔内に取り込む現象。温室効果ガスの回収技術として重要である。
注5)one-potプロセス:
複数の反応工程を分離せず、単一の反応容器内で連続的に進行させる合成手法。工程の簡略化やコスト削減が可能である。
注6)比表面積:
材料の単位質量あたりの表面積を示す指標。値が大きいほどガス吸着性能が高い傾向がある。
注7)炭素回収・貯留(CCS, Carbon Capture and Storage):
二酸化炭素を回収し、地中などに貯留することで大気中への排出を抑制する技術。
注8)テレフタル酸:
ベンゼン環にカルボキシ基(–COOH)を2つ持つ有機化合物で、PETの主成分であるとともに、多くのMOF合成の原料として利用される。
注9)破過応答試験:
ガスを連続的に流通させた際の吸着挙動を評価する実験手法。実用プロセスに近い条件で材料性能を評価できる。
【論文情報】
雑誌名:Chemical Engineering Journal
論文タイトル:Direct Synthesis of Chromium MOF from Waste PET Bottles and Amine Modification: From Sustainable Upcycling to Dynamic CO2 Capture
著者:Kayee Chan, Frantisek Miksik, Hao Wang, Guanglong Huang, 林 英樹, 川尻 喜章,ジンチェンコ アナトーリ* 下線は本学関係者 *は主著者
DOI:10.1016/j.cej.2026.176457
URL: https://doi.org/10.1016/j.cej.2026.176457
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