【中部大学】オタマジャクシがカエルに変わる時、寄生虫が別種に交代することを発見—後任の寄生虫に「カスガイエンシス(春日井産)」と命名、他の両生類でも寄生虫変化や共進化の調査を続行—
研究成果のポイント
- 中部大学春日井キャンパスに生息するヌマガエルから新種の寄生性線虫を発見し、「コスモセルカ・カスガイエンシス(春日井産)」と命名
- オタマジャクシ時は、成体時に寄生する線虫とはまったく異なる分類群の種「ギリニコーラ・ジャポニカス」が寄生し、変態にともない寄生虫が入れ替わることを発見
- 寄生虫は単なる「病原体」ではなく、宿主と長い進化の歴史を共有してきた共生生物であることを示唆
- 両生類の変態は、動物寄生性の進化や宿主と寄生虫の共進化を理解するための優れたモデルとなる
研究概要
「春日井」の名を持つ新種の線虫
研究グループは2020年から2023年にかけて、愛知県春日井市にある中部大学春日井キャンパスの実習水田に生息するヌマガエルの生態を調査しました。その結果、変態後のカエルから未知の線虫を発見しました。形態観察とDNA解析を組み合わせた詳細な研究により、これまで知られていない新種であることが判明し、発見地である春日井市にちなんでCosmocerca kasugaiensis (コスモセルカ・カスガイエンシス)と命名しました。「エンシス」は、ラテン語で「産」や「生息」を意味する接尾辞です。世界中には数多くの生物が存在しますが、その多くはまだ名前すら付けられていません。新種の発見と命名は、生物多様性研究の第一歩となります。
オタマジャクシとカエルでは「寄生虫の世界」が違う
今回の研究で特に興味深かったのは、寄生虫の入れ替わりです。オタマジャクシからは寄生虫ギリニコーラ・ジャポニカスが見つかりました。一方、変態後のカエルからは
新種のコスモセルカ・カスガイエンシスが見つかり、両者が同時にカエル体内で共存することはありませんでした。つまり「オタマジャクシの寄生虫」と「カエルの寄生虫」はまったく異なることが明らかになったのです。カエルは成長の途中で、水中生活から陸上生活へと大きく環境を変えます。そのため接触する生物や感染経路も変化し、寄生虫の種類も大きく入れ替わると考えられます。
また、寄生虫というと病気の原因となる危険な生物という印象があります。しかし今回発見された線虫は、宿主の腸内で世代を重ねながら長い年月にわたって共存してきた生物です。健康な野生個体から普遍的に見つかることからも、少なくとも宿主と長期間共存してきた「共生パートナー」とみなすことができます。
3億年にわたる進化を解く鍵
魚類の祖先は約3億5千万年前に陸上へ進出し、やがて両生類へと進化しました。そして両生類は現在でもオタマジャクシのときに鰓呼吸、成体の時に肺呼吸という、水中生活と陸上生活の両方の特徴を残しています。そのため、両生類は動物がどのように環境を変えながら進化してきたかを理解する重要なモデル生物です。今回の研究は、宿主だけでなく寄生虫もまた、こうした環境変化に適応しながら進化してきたことを示しています。長谷川研究室では寄生虫を単なる病原体としてではなく、宿主とともに進化してきた生物として捉えており、今回の2種の線虫も、ヌマガエルの生活史に適応しながら長い進化の歴史を歩んできたと考えられます。オタマジャクシからカエルへの変態に伴う寄生虫の交代は、宿主と寄生虫がどのように共進化してきたのかを理解する新たな手がかりとなります。
生物保全への貢献
世界では現在、多くの両生類が絶滅の危機に直面しています。寄生虫のことを見過ごされがちですが、実は地球上の生物多様性の大きな部分を占めている生物です。生物を保全するためには、私たちが目にすることができる動植物だけではなく、目に見えない寄生虫を含む生態系全体のつながりを理解することが重要です。今回の成果は、目に見えにくい寄生虫の多様性を明らかにするとともに、生物多様性保全の新たな視点を提供するものです。
本研究は、中部大学応用生物学部、中国・河北師範大学、英国・ロンドン自然史博物館による国際共同研究として実施されました。今後は、カエルだけでなく、イモリやアシナシイモリを含む両生類の変態に伴う寄生虫の変化と、宿主・寄生虫の共進化の仕組みについて研究を発展させる予定です。
今回の研究成果は、10月22日付(英国時間)で、国際学術出版社Cambridge University Pressが発行する英国科学専門誌Journal of Helminthology(電子版)に掲載されました。
論文情報
雑誌名:Journal of Helminthology (Cambridge University Press)
タイトル:Description of Cosmocerca kasugaiensis n. sp. (Nematoda: Cosmocercidae) and redescription of Gyrinicola japonicus (Nematoda: Gyrinicolidae) from the Indian rice frog Fejervarya kawamurai (Amphibia: Dicroglossidae)(日本語訳:ヌマガエルに寄生する新種の線虫コスモセルカ・カスガイエンシスの特徴と、ギリニコーラ・ジャポニカスの再記述)
著者:Hui-Xia Chen1、Xue-Feng Ni1、水越雅人2、長江星八2、David I. Gibson3、長谷川浩一2※、Liang Li1(1. 中国・河北師範大学、2.中部大学、3. 英国ロンドン自然史博物館、※連絡著者)
DOI: https://doi.org/10.1017/S0022149X26102478(オープンアクセス)
お問い合わせ先
研究内容に関すること
長谷川浩一 中部大学 応用生物学部環境生物科学科 教授
E-mail:koichihasegawa[at]fsc.chubu.ac.jp ※アドレスの[at]は@に変更してください。
本件に関するお問い合わせ先
中部大学 入試・広報センター(広報課)
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