赤ちゃん星が磁力線を吐き出す「くしゃみ」で新発見 アルマ望遠鏡で暖かいリング状ガス雲を初観測!
【発表のポイント】
・原始星(星の赤ちゃん)が誕生した直後はその周りのガスが複雑な挙動をするため明らかになっていない点が多い。
・アルマ望遠鏡は様々な波長の電波を観測することができるが、特にサブミリ波帯(高周波数)は観測の条件が厳しく、世界的にも観測が進んでいなかった。
・高周波受信機であるBand 9で観測すると、原始星のすぐそばに約1,000 天文単位に及ぶリング状でかつ周囲よりも暖かいガス雲を発見。星の赤ちゃんの「くしゃみ」による衝撃波で形作られたと考えられる。

図1: アルマ望遠鏡の観測に基づく分子雲コアMC 27内部の想像図。右下にあるのが原始星およびその周りを取り巻く円盤であり、そこからリング状に暖かいガスが広がっている。リングの内部には磁力線が貫いている。
(Credit: Y. Nakamura, K. Tokuda et al.)
【発表内容】
星が生まれる“瞬間”のガスは、なぜ見えにくいのか
星(太陽のような恒星)が生まれる直前・直後の数千年〜数万年は、重力による星の近くへのガスの落下運動が活発です。また分子雲コア(※1)は磁力線に貫かれており、ガスと共に星の赤ちゃんである原始星(※2)に磁力線の束(=磁束)が持ち込まれます。このガスの運動と磁束が複雑に相互作用するため、原始星の誕生の直前・直後の様子に関してはまだ理解が進んでいない点が多くあります。さらに、この時期のガスは温度10 ケルビン (-263℃)程度の冷たく、分厚い層に覆われているため、原始星の極近傍で起こっている現象が必ずしも正確に捉えられないことも、星の誕生の詳細過程を探る上での困難な点の一つでした。
本研究チームは、アルマ望遠鏡(※3)のコンパクトアレイと高周波受信機Band 9を用いて、おうし座方向にある誕生後間もない原始星が潜む冷たい高密度分子雲コアMC 27を一酸化炭素の高励起線(※4)で観測しました。これは、密度・温度ともに周囲よりも高い部分が選択的に捉えることができると期待される手法です。その結果、これまでの観測では厚い層に覆われていてほとんど見えていなかった分子雲コアの中心、すなわち原始星付近のガスが明瞭に検出できることを示しました。
直径約1000天文単位の“温かいリング”を発見
観測データから、原始星の近くに直径約1000天文単位規模のリング状ガス雲が浮かび上がりました(図1および図2)。このリング状ガス雲の電波強度を詳しく測定すると、周囲の冷たいガスより少なくとも10 ケルビン以上は温度が高いことが分かりました。

図2: (a)アルマ望遠鏡を用いて観測したMC27。カラーは一酸化炭素の高励起線を示す。クロスの位置に原始星が存在する。(b)アルマ望遠鏡とスピッツァー赤外線望遠鏡との合成図。オレンジ色がアルマ望遠鏡で観測した一酸化炭素高い励起線の分布。青および緑色で見られるのが原始星からの双極分子流で形作られたと思われる特徴を示す。
Credit: 徳田一起(香川大学)/ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/NASA/JPL-Caltech
“爆発”ではなく、磁場がガスを押し出した?
リング状構造を作るには、ガスが押し広げられるようなエネルギー供給が必要です。一方で、リング中心に既知の原始星以外に新たな天体が存在する証拠はなく、そのほか原始星からの双極分子流(星の産声)などよく知られた現象で説明することが難しいことが分かってきました。実際、この天体の赤外線観測で得られていた双極分子流で形作られたと思われる特徴とも一致しません(図2b)。本研究チームは、原始星近傍を貫いていた磁束が急激に外側に向かって再配置される「交換型不安定性(※5)」に着目しました。この現象が起こると、磁場によってガスが外側へ押し出され、結果としてリング状のガス雲が形成されます。理論研究では、原始星から数百天文単位の距離で強い磁場が形成され得ることが示されており、強い磁場がある場所ではガスが音速を超えて衝撃波を生み出します。その結果、加熱源となる星などが存在せずとも、衝撃波によってガスが温められると考えられます。
一酸化炭素の高励起線観測は、星形成初期を読み解く“新しい窓”
よく観測されるミリ波帯の放射は冷たい外層に吸収されやすく、またアルマ望遠鏡がはじめとする干渉計観測が苦手とする薄く広がった分布をしています。今回の成果は、サブミリ波帯にある一酸化炭素の高励起線が、星形成初期に重要な「温かい・動的なガス」を分子雲コア中心付近で捉える強力な手段になり得ることを実証しました。交換型不安定性によって形作られたとされる間接的な証拠はこの天体の過去の研究でも得られていました。しかし、リング状の形を持つことと温度が上昇していることを同時に捉えたのは初めてです。今後、より高分解能の観測や、他の天体との比較も通してリングの温度・密度・運動を精密に決定し、原始星の成長史と原始星円盤形成のシナリオを検証が大きく進むと期待されます。
論文情報
掲載誌:The Astrophysical Journal Letters
論文タイトル:ALMA Band 9 CO(6–5) Reveals a Warm Ring Structure Associated with the Embedded Protostar in the Cold Dense Core MC 27/L1521F
著者:Kazuki Tokuda, Mitsuki Omura, Naoto Harada, Ayumu Shoshi, Naofumi Fukaya, Toshikazu Onishi, Kengo Tachihara, Kazuya Saigo, Tomoaki Matsumoto, Yasuo Fukui, Akiko Kawamura, Masahiro N. Machida
DOI:10.3847/2041-8213/ae47ec
用語解説
※1分子雲コア: 宇宙空間(特に星と星の間の星間空間)には星の材料となる水素原子/分子を主成分としたガスが漂っています。その中で特に水素分子が豊富に存在する場所が分子雲です。さらに濃くなった場所は分子雲コアと呼ばれており、 これが星の卵に相当します。通常は10 ケルビン (-263℃) 程度と非常に冷たい温度を示します。
※2 原始星:分子雲コアが重力によって収縮し、原始星(星の赤ちゃん)が誕生します。周囲のガスが降り積もりながら成長している段階です。
※3 アルマ望遠鏡: 南米チリのアタカマ高地、標高約5,000メートルの場所に設置された電波望遠鏡群で、66台のアンテナから構成されます。特に分子ガスの観測に優れ、世界最高水準の観測性能を持っています。本観測では、特に日本がその開発に重要な役割を果たしたアタカマコンパクトアレイを使用しており、より空間的に広がった天体構造を捉えることを得意とします。
※4 一酸化炭素の高励起線:一酸化炭素分子が「より激しく回っている状態」から出る波長0.4mmのサブミリ波帯に存在する電磁波です。こうした線は、通常よく電波天文学において観測に用いられるミリ波帯(2.6mmや1.3mm)の一酸化炭素低励起線に比べて、より温かいガスやより密度の高いガスがあると強く光りやすい、という特徴があります。
※5 交換型不安定性:磁気流体不安定の一つで、磁場の強さとガスの密度(またはガスの圧力)の比が重力の方向に対して急激に変化すると起こります。今回のような星の赤ちゃんが誕生する現場では、原始星円盤の縁で磁力が急に変化し強い場所ができ、浮力と類似した機構によって磁束が円盤の外部へ放出されます。
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講師 徳田 一起(とくだ かずき)
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