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有配偶女性のキャリアパターンと離職・転職の選択要因に関する実証分析―転職(正社員・非正社員)を含めた女性のキャリア選択の全体像を明らかに―

有配偶女性のキャリアパターンと離職・転職の選択要因に関する実証分析―転職(正社員・非正社員)を含めた女性のキャリア選択の全体像を明らかに―
 日本女子大学(東京都文京区、学長:篠原聡子)の人間社会研究科社会福祉学専攻の博士後期課程の聶 逸君(ネ イジュン)さん(2025年度修了)が、博士論文研究の一環として、有配偶女性の離職・転職・就業継続に影響する要因を、「全国就業実態パネル調査」2016~2023年のデータを用いて実証分析しました。その結果、30代では離職リスクが相対的に高まりやすい一方、40代以降では就業継続の割合が高まり、転職の多様化も確認されました。また、所得保障となる「雇用保険」への加入・受給や教育訓練、学習行動といった支援条件が女性のキャリア形成と深く関わることが明らかになりました。なお、この研究は研究科在籍時に人間社会学部社会福祉学科の永井暁子(ながい あきこ)教授の指導のもと行われ、その研究成果は社会政策学会誌『社会政策』に掲載されました。
 本学では、学生および卒業生のキャリア形成とライフデザインを総合的に支援するため、2026年に「JWU キャリアライフセンター」を新たに設置しました。本研究成果は、女性のライフイベントとキャリア形成を支えるための支援の在り方を実証的に示すものであり、同センターの取り組みを考えるうえでも重要な示唆を与えるものです。

【発表のポイント】

  • 出産や育児といったライフイベントが重なる時期の女性の就業行動:図1に示すとおり、30-39歳では離職無業への移行率が相対的に高く、とくに末子が0〜5歳の女性は12歳以上の子をもつ女性と比べて離職無業に移行しやすい。一方、40歳以降では就業継続の割合が高まり、転職も正社員・非正社員の両面で一定程度みられる。
  • 制度の強力な後押し:所得保障となる「雇用保険」への加入・受給は、離職後のキャリア形成を支える重要な要因である。女性が正社員として転職する確率は仕事を続ける場合より約3.5倍高いことが示された。
  • 企業内教育のパラドックス:  図2に示すとおり、職場外訓練(OFF-JT)は正社員への転職確率を約1.7倍に高める可能性がある。一方で、職場内訓練(OJT)を受けた女性では正社員への転職確率を同じく約1.7倍に高めるが、非正社員への転職確率が約2.7倍に達することが確認された。OJTとOFF-JTはいずれも女性のキャリア形成に必要な訓練であり、その効果の違いは、日本の労働市場における女性のいわゆる「周辺的配置」の再生産と関連している可能性がある。
  • 読書やインターネットでの調べものなどの自発的な学習行動も、実務スキルの獲得や転職準備と関連しており、女性のキャリア形成を支える支援策の充実が求められる。
図1: 年齢別にみた有配偶女性のキャリアパターン(2016-2023年)
図2:主要変数の相対リスク比(RRR):就業継続を基準=1

【概要】

 本研究は、有配偶女性のキャリアパターンに着目し、就業継続、離職無業、正社員への転職、非正社員への転職という4つの選択に影響する要因を、「全国就業実態パネル調査」2016~2023年のデータを用いて実証的に分析したものである。従来、有配偶女性の就業に関する研究では、出産退職や再就職に焦点が当てられることが多かった。しかし、本人の希望や家庭状況に応じたキャリア形成を考えるうえでは、就業継続か離職かだけでなく、より条件に合った職場へ移る「転職」という選択肢にも注目する必要がある。そこで本研究では、「離職」と「転職」を区別し、さらに転職先の雇用形態まで含めて比較した。分析の結果、育児期の家庭責任、前職の雇用形態、雇用保険、教育訓練、学習行動が、キャリア選択と密接に関わることが明らかになった。

(1)これまでの研究で分かっていたこと
 これまでの研究では、有配偶女性の就業行動について、いくつかの重要な知見が蓄積されてきました。まず、結婚・出産・育児によるキャリア中断が離職の主要な要因であることが繰り返し確認されており、末子の年齢や子どもの有無が就業継続に大きく影響することが示されています。また、学歴や夫の年収といった個人・世帯の属性も、離職や再就職のタイミングに関わることが指摘されてきました。
 教育訓練や制度的支援については、雇用保険への加入や教育訓練給付制度の利用が、非正規雇用から正規雇用への移行確率を高めることが実証されています。さらに、読書やインターネット活用などの自発的な学習行動が、女性の再就職にプラスの効果をもたらすことも示されてきました。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
 一方で、女性の就業行動の研究は「離職」または「再就職」のいずれかを個別に分析するものが多く、就業継続・離職無業・転職(正社員・非正社員)という多様なキャリア選択を同時に比較・包括する視点は、これまで十分には検討されていませんでした。本研究では、有配偶女性のキャリア選択を4つのパターンに分けて比較し、離職だけでなく転職先の雇用形態も含めた全体像を明らかにしました。その結果、30代における離職無業リスクの高まりと40代以降の安定化(図1)、雇用保険への加入・受給が、就業継続を基準とした場合に、正社員への転職可能性と強く関連していること(約3.5倍)、OJTとOFF-JTが転職行動に与える対照的な効果(図2)が確認されました。また、学校に通う、読書やインターネットで調べものをするといった自発的な学習行動が、実務スキルの獲得や長期的なキャリア形成に貢献することも明らかになりました。

(3)本研究で用いた分析手法
 リクルートワークス研究所『全国就業実態パネル調査』2016-2023年のデータを用い、20〜59歳で就業している、または就業していた有配偶女性を対象に分析を行いました(延べ観測数45,822)。就業継続・離職無業・正社員転職・非正社員転職の4カテゴリーを比較するため、同一人物の時間的変化とマクロな時点特有の影響を同時に制御可能な「混合効果多項ロジスティック回帰モデル」を適用しました。

(4)研究の波及効果や社会的影響
 本研究は、有配偶女性のキャリア形成を、個人の意欲や属性だけでなく、雇用保険やOJT/OFF-JT、学習行動といった「支援条件や環境」との関係から実証的に捉えた点に大きな意義があります 。とくに、制度的支援(雇用保険)と正社員転職との強い関連が示されたことは、女性がライフイベントの影響を受けながらも働き続けられる社会を実現するための政策立案に寄与します 。大学や行政、企業におけるキャリア支援、リスキリング支援を検討する際の重要な基礎資料として活用が期待されます 。

(5)今後の課題
 本研究では、キャリア選択に影響する要因を定量的に分析しましたが、離職や転職の背景には、職場文化、働き方の柔軟性、ケアを必要とする家族の状態、子育て観、家事・育児の分担状況など、数量化しにくい要素も存在します 。今後は、こうした側面も視野に入れながら、有配偶女性のキャリア形成をより多面的に検討していく必要があります 。また、転職の「質」や、その後の就業安定、所得変化まで追跡する研究へと発展させることも今後の課題です 。

(6)研究者のコメント
 有配偶女性の就業行動は、これまで主に「離職」や「再就職」という形で議論されてきました 。しかし実際には、同じ職場で働き続ける、無業になる、別の職場へ移るなど、多様な選択が存在します 。本研究を通じ、雇用保険のような制度的支援や、OFF-JT、自発的な学習行動がキャリア形成といかに深く関わっているかがデータとして示されました 。ライフイベントによって女性がキャリアを断念しなくてもよい社会を、制度と支援の両面から考える必要があると感じています。

(7)用語解説
・有配偶女性:配偶者のいる女性。調査上は婚姻状態にもとづいて把握される
・ OJT(On-the-Job Training):職場で実際の業務を通じて行われる教育訓練(職場内訓練)
・OFF-JT(Off-the-Job Training):通常業務から一時的に離れて受ける研修や講座などの教育訓練(職場外訓練)
・雇用保険:失業時の給付や教育訓練給付、再就職支援などを行う公的なセーフティネット

(8)論文情報
雑誌名:社会政策学会誌『社会政策』
論文名:有配偶女性のキャリアパターンと離職・転職の選択要因に関する実証分析
執筆者名(所属機関名): 聶 逸君(日本女子大学)
掲載日時(現地時間): 2026年3月20日
掲載URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/spls/17/4/17_117/_article/-char/ja
DOI:10.24533/spls.17.4_117

【日本女子大学について】

日本女子大学は、日本初の組織的な女子高等教育機関として創立し、2021年に120周年を迎えました。私立女子大学唯一の理学部を有し、文理融合の教育環境をもつ女子総合大学です。「私が動く、世界がひらく。」のタグラインのもと、自ら学び、自ら行動し、新しい価値を創造できる人材を育てています。2024年度は「建築デザイン学部」を開設し、昨年度には「食科学部」を開設、さらに今年度には文学部2学科の名称変更をしました。2027年度には「経済学部(仮称)」の開設(構想中)、2028年度には「ファッションデザイン学部(仮称)」および「人間科学部(仮称)」の開設(構想中)と、継続して大学改革を進めていきます。 詳しくは、 https://www.jwu.ac.jp をご覧ください。

本件に関するお問い合わせ先

学校法人 日本女子大学 法人企画部 広報課

住所
〒112-8681 東京都文京区目白台2-8-1
E-mail
n-pr@atlas.jwu.ac.jp

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