弘前大学などの共同チームがドローンを用いたレーザ計測(UAV LiDAR)による地すべりの地下構造推定技術を開発 ― 地すべり災害の早期復旧を支援し、地域のWell-being向上へ
■本件のポイント
- ドローンによるレーザ測量で捉えた地表面の変化から、地下のすべり面の形状を推定する新たな技術を開発。
- ボーリング調査が限られる状況でも、地すべりの地下構造を準立体的に把握することが可能。
- 規模の異なる地すべりに適用し、推定結果がボーリング調査結果と高い一致を示すことを確認。
- 本手法は復旧の迅速化に寄与し、人口減少時代における技術者不足の課題に対応するとともに、地域のWell-being維持に貢献することが期待されます。
■本件の概要
わが国では、人口減少と高齢化の進行に伴い、地すべり災害の調査や復旧を担う技術者の不足が懸念されています。一方で、近年は豪雨の頻発化・激甚化により土砂災害が増加しており、地すべり災害への迅速な対応の重要性が高まっています。しかし、地すべり技術者の育成には長い時間を要するため、短期間で必要な人材を確保することは容易ではありません。
地すべり災害では、復旧が長期化すると、交通網や生活基盤の復旧が遅れ、住民生活や地域経済に大きな影響を及ぼします。その結果、人口流出や地域活力の低下につながるおそれがあります。そのため、住民の安全・安心な暮らしや地域のWell-being(ウェルビーイング)*1を維持するためにも、地すべり災害からの迅速な復旧が求められています。
地すべり対策を進めるうえでは、地下に存在する「すべり面」*2の深さや形状を把握することが最も重要な基礎情報となります。すべり面とは、地すべりによって土塊が移動するときに滑る地下の境界面のことです。従来は、地面に穴を掘って地下の状況を直接調べるボーリング調査*3によって確認されてきました(図1)。しかし、ボーリング調査には多くの時間と費用を要するため、災害直後に広範囲の地下情報を把握することは容易ではありません。このため、限られた人員でも安全かつ効率的にすべり面を推定できる新たな調査手法の開発が求められています。

従来のボーリング調査では、多大な時間・労力・コストを要し、安全面や技術者不足の観点からも課題が指摘されている。
このような背景のもと、岩手大学大学院連合農学研究科(弘前大学配属)の社会人大学院生・荻田茂さんは、弘前大学農学生命科学部の鄒青穎准教授および奥山ボーリング株式会社の技術者と共同で、ドローンに搭載したレーザ計測(UAV LiDAR)*4により取得した地表面データを活用し、地表面の情報のみから地下のすべり面形状を推定する新たな手法を開発(図2)。この研究成果は、日本時間2026年6月15日に、リモートセンシング分野の国際学術誌『Remote Sensing』に掲載されました。同誌は、関連分野においてQ1(上位25%)に位置づけられる国際的に評価の高い学術誌です。

ドローンレーザ測量で取得した高精度な地形データを3次元解析することで、地下のすべり面形状を効率的に推定する。
本研究は、荻田さんが奥山ボーリング株式会社において地すべり調査の実務に携わる中で「限られた調査情報から、より迅速かつ効率的に地すべりの全体像を把握できないか」という問題意識を抱いたことがきっかけとなったもので、その実務的な課題に対する解決策の一つとして取りまとめられました。
本手法では、異なる時期に実施したUAV LiDAR測量データを比較することで地表面の変位を解析し、その情報をもとに地下のすべり面を推定します。さらに、変位データに含まれるノイズを低減する処理と曲線近似手法を組み合わせることで、従来*5よりも客観的に、地下のすべり面の全体的な形状や広がりを再現できることを示しました(図3)。
調査では、規模の異なる複数の地すべり地を対象として、ドローン測量から推定したすべり面の深さや形状を、ボーリング調査によって実際に確認されたすべり面と比較しました。その結果、推定されたすべり面はボーリング調査結果と概ね一致し、さらに、推定したすべり面から算出した移動土塊量は、ボーリング調査に基づく推定値に対して最大96%の一致率を示しました。

地表面のわずかな変化から地下のすべり面を推定し、地すべりの全体像を立体的に把握することを可能にした。
これらの結果から、本手法は、地すべり発生直後の危険度評価や効率的なボーリング調査計画の立案、さらには3次元安定解析を行う際の有効な補完技術となることが示されました。特に、技術者不足が懸念される人口減少社会において、限られた調査情報から地すべりの全体像を迅速に把握し、復旧計画の策定や防災上の意思決定を支援する実用的な技術として期待されます。また、迅速な復旧を通じて、住民の安全・安心な暮らしを守り、地域のWell-beingの維持・向上にも貢献することが期待されます(図4)。

本技術は、地すべり発生後の迅速な危険度評価や復旧計画の立案を支援するとともに、技術者不足が進む人口減少社会において、調査・対策の効率化を通じた持続可能な災害対応への貢献が期待される。
■用語解説
*1 Well-being(ウェルビーイング):
心身ともに健康で、安心して自分らしく暮らし、働くことができる良好な状態。近年では、一人ひとりの幸福だけでなく、地域社会全体の安全・安心や持続可能な発展を考える上で重要な概念として注目されています。本研究で開発する技術は、地すべり災害後の迅速な危険度評価や復旧計画の立案を支援するとともに、危険な現地調査の負担軽減や防災業務の効率化を実現します。これにより、地域住民の安全・安心な暮らしと、防災に携わる人々の働きやすさの向上に貢献し、災害に強く持続可能な地域社会のWell-beingの向上につながることが期待されます。
*2 すべり面:
地すべりが発生するときに土塊(地面のかたまり)がその上を滑って移動する地下の境界面のこと。地すべりはこのすべり面に沿って土塊が移動する現象であるため、対策や復旧工事においては、すべり面の位置や形状を正確に把握することが極めて重要となります。
*3 ボーリング調査:
地面に専用の機械で穴(ボーリング孔)を掘り、地下の土や岩の状態を直接採取・観察する調査方法。
*4 ドローンに搭載したレーザ計測(UAV LiDAR):
ドローン(UAV:無人航空機)に搭載したレーザを地表に照射し、その反射時間から地形の3次元形状を高精度に計測する技術。
*5 荻田ら(2024)は、航空レーザ測量によって得られる地表面変位ベクトルを用い、2次元的にすべり面形状を推定する手法を提案。本研究ではこの手法を発展させ、より客観的かつ準立体的に地下のすべり面を推定できる新たな手法を開発しました。
参考論文: 荻田 茂, 林 一成, 阿部 真郎, 鄒 青穎(2024):航空レーザ測量による地表面変位ベクトルからのすべり面形状推定、日本地すべり学会誌、61(4)、123-129、https://doi.org/10.3313/jls.61.123
■論文情報
- 雑誌名: Remote Sensing
- タイトル: Displacement-based estimation of quasi-three-dimensional landslide slip surfaces using UAV LiDAR data
- 著者名: Shigeru Ogita, Shoutarou Sanuki, Kazunori Hayashi, Keita Ito, Shinro Abe, Ching-Ying Tsou
- DOI: https://doi.org/10.3390/rs18121984
- URL: https://www.mdpi.com/2072-4292/18/12/1984
■研究支援
本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」(課題番号:JPJS00420240013)の支援を受けて実施されました。
本件に関するお問い合わせ先
弘前大学農学生命科学部
准教授 鄒 青穎(ツォウ チンイン)
- 住所
- 青森県弘前市文京町3番地
- TEL
- 0172-39-3842
- tsou.chingying@hirosaki-u.ac.jp