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法政大学市ケ谷キャンパス近隣の外濠に生育する緑藻「サガミボルボックス」:広域調査と核ゲノム解析から新種として正式記載

法政大学市ケ谷キャンパス近隣の外濠に生育する緑藻「サガミボルボックス」:広域調査と核ゲノム解析から新種として正式記載
法政大学自然科学センター・法学部の植木紀子教授、同大学の野崎久義兼任講師(研究当時)、大阪工業大学の松﨑令講師らの研究グループは、2024年に法政大学市ケ谷キャンパス近隣の外濠から緑の真珠とも呼ばれる緑藻ボルボックス(注1)を発見しました。これは東京都から128年ぶりの再発見であり、この外濠の種は日本固有のサガミボルボックス(注2)であると同定されました。しかし、サガミボルボックスは、近縁種であるフェリスボルボックス(Volvox ferrisii)とDNA配列の一部が非常によく似ていたため、これまで正式な種としては記載されていませんでした。そこで今回、外濠や琵琶湖を含む本州の14地点から得られたサガミボルボックス10株とフェリスボルボックス10株を比較し、接合子の形態観察と複数の核ゲノム領域解析(注3)を実施しました。その結果、サガミボルボックス(Volvox sp. Sagami)は生物学的に独立種であることが判明し、Volvox sagami sp. nov. として正式に新種として記載しました。本研究の成果は、2026年6月17日付で国際藻類学会誌『Phycologia』に掲載されました。

◆背景

 ボルボックス(Volvox)は、淡水中を泳ぐ多細胞性の球状緑藻で、多細胞化、細胞分化、性や繊毛(鞭毛)運動の進化などを研究するモデル生物として世界的に注目されつつあります。その美しき球体は「緑の真珠」とも呼ばれ古くから人類を魅了してきました(図1)。現在までに約26種のボルボックスが世界各地から報告されています。
 日本では11種が明らかになり、その中の4種が日本固有種と考えられます。本研究グループは、2024年に法政大学市ケ谷キャンパス近くの外濠から得られたSB01株を「サガミボルボックス」(Volvox sp. Sagami)と同定し、東京都では明治時代以来128年ぶりにボルボックスが確認されたことを報告しました(2024年10月17日法政大学プレスリリース)。
 しかし、サガミボルボックスの分類学的位置づけには課題が残されていました。サガミボルボックスはもともと相模湖・津久井湖から採取された日本固有種であり、接合子(受精卵)の数と棘でボルボックスの既知種と明瞭な差異が認められたものの、近縁のフェリスボルボックス(Volvox ferrisii)と比較するとDNA配列が非常によく似ていたため、正式な新種としては記載されていませんでした(Nozaki et al. 2016, PLOS ONE)(図2)。

図1. 法政大学市ケ谷キャンパスに隣接する外濠産の「緑の真珠」サガミボルボックス。スケールは500マイクロメートル。暗視野顕微鏡で植木紀子教授が撮影した原図。
図2. 従来の文献に基づくサガミボルボックスとフェリスボルボックス。

◆研究内容と成果

 今回、本州の淡水域14地点から得られたサガミボルボックス10株とフェリスボルボックス10株を対象に、形態比較と核DNA配列解析を行いました(図3)。核DNA配列解析では、フェリスボルボックスの核ゲノム情報(未発表)をもとに5つの単コピー核遺伝子の部分配列と核ITS領域の解析を実施しました。
 まず、有性生殖によって作られる接合子の形態を比較しました。ボルボックスでは、接合子の数、大きさ、表面の棘の構造が種を識別する重要な手がかりになります。サガミボルボックスでは、接合子の数や大きさ、棘の長さがフェリスボルボックスとは異なる範囲を示しました。
 次に、核DNA配列を用いた解析を行いました。核ITS領域だけでは両者の違いは明瞭ではありませんでしたが、psbO、atp2、actin1、eflMIDの5つの単コピー核遺伝子では、サガミボルボックスとフェリスボルボックスは明確に別々のグループとして区別され、両者における遺伝的な交流は認められませんでした(図4)。
 これらの結果から、研究グループはサガミボルボックスがフェリスボルボックスとは生殖的に隔離された独立種であると結論し、Volvox sagami sp. nov. として正式に新種として記載しました。

図3. 本研究で解析したサガミボルボックス10株とフェリスボルボックス10株の14地点の産地。
図4. 本研究で明らかになったサガミボルボックスとフェリスボルボックスの差異と分類学的結論。

◆今後の展望

 本研究により、これまでVolvox sp. Sagamiと呼ばれてきた日本固有のサガミボルボックスの分類学的位置づけが明確になりました。外濠で見つかった株を含む各地の株を比較したことで、身近な水辺から得られた微細藻類が、新種記載につながる重要な研究材料となることも示されました。また、サガミボルボックスとフェリスボルボックスは、琵琶湖の同じ水域からも見つかっており、近接した環境に生育しながらも遺伝的に区別されることが示されました。今後、湖沼、水田、都市部の水域などをさらに調査することで、ボルボックス類の分布、生態、種分化の過程について理解が進むと期待されます。

【注釈】
(注1)ボルボックス:学名Volvox、和名オオヒゲマワリ。淡水に生息する遊泳性・多細胞性の緑藻。多数の細胞が球体の表面に並び、内側に次世代の個体を形成する。

(注2)サガミボルボックス:相模湖など日本の淡水域から報告されてきたボルボックスの日本固有種。本種は雌雄同体種で、有性生殖が誘導されると卵と精子束の両方をもつ両性型の有性球体が作られ、受精後に接合子(受精卵)がつくられる(図 5)。これまでVolvox sp. Sagamiと呼ばれていたが、本研究によりVolvox sagami sp. nov. として正式に新種記載された。種小名のsagamiは、本種が最初に記録された相模湖を含む旧国名「相模」に由来する。

(注3)核ゲノム領域解析:葉緑体やミトコンドリアに含まれるDNAではなく、細胞核に含まれるDNA配列を比較する解析。核ゲノム領域のうち複数の単コピー核遺伝子の解析は、有性生殖による遺伝子の交流・隔離が検出できると期待されていたが、微細藻類では本研究で初めて実施された。本研究では、核ゲノムに含まれるITS領域と5つの単コピー核遺伝子を用いて、サガミボルボックスとフェリスボルボックス(V. ferrisii)の関係を調べた(図4)。

図 5. サガミボルボックスの生活環。Nozaki et al. (2016, PLOS ONE) と本研究に基づく。

【発表論文】
・タイトル:Molecular and morphological delineations of two homothallic monoicous species, Volvox sagami sp. nov. and V. ferrisii (Volvocales, Chlorophyceae) in Japan
・著者:Hisayoshi Nozaki, Ryo Matsuzaki, Kohei Takahashi, Kayoko Yamamoto, Shigekatsu Suzuki, Ryo Ootsuki, Masanobu Kawachi, Yuuhiko Tanabe, Noriko Ueki
・掲載誌:Phycologia
・URL:https://doi.org/10.1080/00318884.2026.2683158
・DOI:10.1080/00318884.2026.2683158

【発表者】
 本研究の発表者は以下のとおりです。
 植木 紀子(法政大学自然科学センター/法学部法律学科・教授)
 野崎 久義(研究当時:法政大学・兼任講師、現在:日本女子大学・客員研究員、国立環境研究所・研究協力、東京大学・客員共同研究員)
 松﨑 令(大阪工業大学・講師)

【他共同研究者】
 高橋 昂平(東京大学・客員共同研究員)
 山本 荷葉子(国立環境研究所・特別研究員)
 鈴木 重勝(筑波大学・助教)
 大槻 涼(駒澤大学・講師)
 河地 正伸(国立環境研究所・シニア研究員)
 田辺 雄彦(国立環境研究所・主幹研究員)

▼本件に関するお問い合わせ先

【取材に関するお問い合わせ先】
 法政大学 総長室広報課
 TEL:03-3264-9240
 E-mail:pr@adm.hosei.ac.jp 

【研究内容に関するお問い合わせ先】
 法政大学自然科学センター・法学部 教授 植木 紀子
 TEL:03-3264-4142
 E-mail:noriko.ueki@hosei.ac.jp

添付資料