【青山学院大学】アクティブポリマーの振る舞いの解析と理解のための基礎理論を構築
本研究成果は、"Compounding formula approach to chromatin and active polymer dynamics"、"Physics of active polymers: scaling analysis via a compounding formula"が Physical Review Letters、Physical Review Eに掲載された。
【研究成果のポイント】
■ アクティブポリマーの非平衡ダイナミクスを特徴づけるスケーリング則の導出
■ 細胞内の生体高分子の振る舞いを理解するための基礎理論構築
【概要】
本研究は、アクティブポリマーの振る舞いを理論的に解析し、その背後にある普遍的な側面を明らかにしたものである。アクティブポリマーとは、エネルギーを消費して自発的に動き回るような素子が一次元状に繋がったものである。通常、ポリマー(=高分子)とは、モノマーという繰り返し単位が重合して鎖状に連なった巨大分子のことであり、巨大分子形成により新たに発現する物性を系統的に研究するのが高分子物理学である。従来の高分子物理学では、モノマーは熱的に揺らぐ受動的な素子と考えるが、これでは、細胞内の非平衡過程によりエネルギー消費を伴うような生体高分子の運動を記述することはできない。このような問題意識の下、本研究では、アクティブポリマーを記述する基礎的なモデルを取り上げ、その動的な性質について理論的解析を行った。特に、細胞内のDNAやクロマチンの動きを念頭に置き、近年の生細胞イメージングの観測結果をどのように解釈すべきかについても議論を行った。
【研究の背景】
高分子は、モノマーと呼ばれる基本ユニットが繋がってできた巨大な分子である。モノマーとしては様々な化学構造のものがあり、そのため世の中には多種多様な高分子が存在する。例えば、ポリエチレンやポリスチレンのような合成高分子のほか、私たちの体の中にあるタンパク質やDNAも高分子である。これらの高分子の性質を理解することは、工業的応用にも重要であり、生命現象の理解にも欠かすことができない。
構成要素であるモノマーの構造が違えば、高分子の振る舞いも異なってくるというのは当然のことである。それでも大雑把に言えば、これらの高分子は、どれも長い鎖状の分子といえる。そして、この長い鎖状の分子であることに由来する普遍的な振る舞いが見られる。この高分子(=長い鎖状分子)の振る舞いに見られる普遍性という概念は、20世紀後半の高分子物理学の発展の中で、強く認識されるようになった。
一方で、生物物理学の分野では、近年、細胞核内にある遺伝子を蛍光で標識して、顕微鏡下、遺伝子が細胞核内を動く様子をリアルタイムで観測することが可能になっている。遺伝子の実態はDNA上の塩基配列であるので、遺伝子の運動とは、詰まるところ、DNAという長い高分子上の特定の部位の運動ということになる(図参照)。遺伝子がどのように動くかをきちんと理解することは、遺伝子発現の機構を解明する上でもとても重要である。そこで、高分子物理学の立場から遺伝子の運動を考えることには大きな意義があると思われるが、このアプローチには素朴な疑問が付きまとう。というのは、通常、高分子物理学では、熱平衡状態にある高分子の振る舞いを考えるのであるが、生きている細胞は熱平衡状態にはない。細胞のような定常的にエネルギー消費を伴う非平衡状態におかれた高分子の振る舞いはどのようなものなのか?
【研究内容】 熱平衡状態にある高分子には、熱揺らぎが作用している。細胞のような非平衡な環境下におかれた高分子は、熱揺らぎの他に、例えば、細胞の代謝活動に由来する揺らぎが作用すると考えられる。このような揺らぎは、熱揺らぎとは異なり、非平衡揺らぎと呼ばれる。このような非平衡揺らぎが、高分子を構成する個々のモノマーに作用するような高分子をアクティブポリマーと言う。本研究では、上記の素朴な問いに答えるために、最も簡単だと思われるアクティブポリマーのモデルを取り上げ、その理論的解析を行った。中でも、高分子の運動を考える上で重要となる「協働運動のドメイン」という概念を取り上げた(図)。このドメインは、時間スケールとともに増大していくが、熱平衡状態にある高分子とアクティブポリマーでは、このドメインサイズの時間スケール依存性が異なることを明らかにした。これにより、アクティブポリマーのダイナミクスを特徴づけるスケーリング則を導出した。

【本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)】
アクティブポリマーの振る舞いは多様であり、近年、様々な角度から研究が行われている。そのような状況下、アクティブポリマーの基礎モデルが示す現象についての物理的描像を明確にすることができたことには大きな意義があると考えている。今後は、得られた知見を基にして、様々な状況へ拡張、展開していくことが期待される。DNA、クロマチンの運動を通して遺伝子発現の問題とも関係し、基礎生物学の問題とも深く関わってくる可能性を秘めている。
【論文情報】
掲載ジャーナル Physical Review Letters
論文タイトル Compounding formula approach to chromatin and active polymer dynamics
著者 Takahiro Sakaue, Enrico Carlon
DOI https://doi.org/10.1103/y2y6-jfyt
掲載日 2026.7.31
掲載ジャーナル Physical Review E
論文タイトル Physics of active polymers: scaling analysis via a compounding formula
著者 Takahiro Sakaue, Enrico Carlon
DOI https://doi.org/10.1103/fhd9-l9l4
掲載日 2026.7.31
【参考URL】
青山学院大学理工学部坂上研究室ウェブサイト
http://www.phys.aoyama.ac.jp/~w3-sakaue/
【問い合わせ先】
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