アストロサイトがパーキンソン病病理の進展を促す可能性 ~原因タンパク質凝集の仕組み解明、新たな治療法開発に期待~
・脳内で神経細胞を支える「アストロサイト注 1)」が、パーキンソン病の原因タンパク質「α-シヌクレイン注 2)」の凝集体成熟を促進することを発見。
・アストロサイト内のリソソーム酵素「カテプシンD注 3)」がα-シヌクレインを加工することを発見。
・α-シヌクレインを取り込んだアストロサイトは細胞老化様の状態に変化し、加工したα-シヌクレインが神経細胞へ受け渡される可能性を明らかにした。
・通常は神経細胞を保護しているアストロサイトが、疾患時には逆に病理形成を促進している可能性を示した。
【研究概要】
| 名古屋大学大学院理学研究科の花房 洋 准教授の研究グループは、神戸大学大学院医学研究科の高井 義美 特命教授の研究グループとの共同研究により、アストロサイトがパーキンソン病の原因タンパク質「α-シヌクレイン」の凝集体成熟を促す新たな仕組みを明らかにしました。 パーキンソン病は、α-シヌクレインが異常に凝集し、脳内の神経細胞間を伝播・蓄積することで発症・進行すると考えられています。これまでアストロサイトは、異常なa-シヌクレインを取り込んで除去する「掃除屋(保護的役割)」と考えられてきました。しかし本研究では、マウスの共培養系を用いた解析により、アストロサイトが取り込んだα-シヌクレイン をリソソーム酵素「カテプシンD」で切断・加工し、より凝集しやすい状態にして神経細胞へ受け渡すことで、神経細胞内でのα-シヌクレイン凝集体形成を促進することを突き止めました。さらに、α-シヌクレインを取り込んだアストロサイトは老化様態に変化し、加工したα-シヌクレインが神経細胞へ受け渡される可能性も示されました。 本成果は、アストロサイトが疾患時には病理進展を促進する「裏の顔」を持つことを明らかにしたものであり、アストロサイトやカテプシンDを標的とした新たなパーキンソン病治療法の開発につながると期待されます。 本研究成果は、2026年10月2日18時(日本時間)付国際学術雑誌『EMBO Reports』に掲載されました。 |
【研究背景と内容】
パーキンソン病は、運動機能を制御する神経細胞が脱落していく進行性の神経変性疾患です。患者の脳内では、「α-シヌクレイン」と呼ばれるタンパク質が異常に凝集し、「レビー小体」や「レビー神経突起(Lewy neurite)注 4)」と呼ばれる特徴的な病理構造を形成します。これらの異常凝集体は、発症の10〜20年も前から脳内の細胞間を伝わり、新たな凝集を誘導しながら病理を拡大させていくと考えられています。
これまで、α-シヌクレインの凝集や伝播メカニズムは主に、神経細胞を中心に研究されてきました。一方で、脳内には神経細胞を支える「アストロサイト」と呼ばれるグリア細胞が豊富に存在します。アストロサイトは細胞外の不要なα-シヌクレインを取り込んで分解することから、異常タンパク質を除去する「掃除屋(保護的役割)」として機能すると考えられてきました。しかし一方で、過剰に取り込んだアストロサイトが神経毒性を発揮するという報告もあり、その詳細な役割には不明な点が多く残されていました。そこで研究グループは、アストロサイトが取り込んだα-シヌクレインをどのように処理し、それが神経細胞での凝集体形成にどのような影響を与えるのかを調べました。
生体内を模倣したマウス初代培養神経細胞とアストロサイトの共培養系に、凝集体形成のシード(種)となる線維状のα-シヌクレイン(α-シヌクレイン preformed fibril: PFF)を添加して解析を行ったところ、予想に反して、アストロサイトが存在すると神経細胞内に形成されるレビー神経突起(LN: Lewy neurite)様凝集体が大型化することを発見しました(図1A)。さらに、あらかじめPFFを取り込ませたアストロサイトと神経細胞を共培養すると、アストロサイトから神経細胞へPFF が受け渡され、神経細胞内で凝集体の形成が誘導されました(図2)。

図1 アストロサイトによる神経細胞内レビー神経突起(LN)様凝集体の肥大化
(A)上段はα-シヌクレインPFF添加10日後の神経細胞、下段は神経細胞とアストロサイト。右拡大図内の矢印は、肥大化した神経細胞内LN様凝集体を示している。Bar:50μm
(B)アストロサイトのカテプシンDをshRNAでノックダウンすると、LN様凝集体のサイズが減少する。

あらかじめアストロサイトにα-シヌクレインPFFを取り込ませた後、神経細胞と共培養すると、アストロサイトから神経細胞のシナプスへとPFFが受け渡される(矢印)。
次に、アストロサイト内でのα-シヌクレインの処理メカニズムを解析しました。アストロサイトに取り込まれたα-シヌクレインPFFはリソソームへと運ばれ、タンパク質分解酵素「カテプシンD」によってC末端が切断され、凝集性の高いα-シヌクレインPFFが産生されていました。このカテプシンDの働きを阻害したところ、神経細胞内におけるLewy neurite様凝集体の大型化が顕著に抑制されました(図1B)。つまり、アストロサイトはα-シヌクレインをリソソーム内のカテプシンDで「より凝集しやすい形に加工」してから放出・伝播させ、神経細胞内でのα-シヌクレイン凝集体成熟を促進する(図3)ことが示されました。
さらに、α-シヌクレインPFFを取り込んだアストロサイトでは、リソソーム膜の損傷、細胞老化様の変化、カテプシンD自体の発現上昇が認められました。α-シヌクレインPFFが蓄積し損傷したリソソームの一部は、オートファジーによって包み込まれるものの分解されず、細胞外で検出されました。これらの結果から、損傷したリソソームに含まれるα-シヌクレインPFFが細胞外に放出され、神経細胞へ伝播されている可能性が示されました(図3)。

【成果の意義】
本研究は、パーキンソン病におけるアストロサイトの役割を「保護的な掃除屋」だけではなく、病理形成を促進し得る「加工・伝播ハブ」として捉える新たな視点を提示する画期的な成果です。
特に、本来はタンパク質を分解して凝集を防ぐ役割を担うカテプシンDが、アストロサイトに取り込まれた異常なα-シヌクレイン(α-シヌクレインPFF)のC末端を切断し、その後の神経細胞内における凝集性の強い悪質なシード(種)を作り出してしまうという病態サイクルを明らかにしました。今後は、神経細胞単体ではなく、「神経―グリア細胞間の相互作用」に着目した病態解明が進むとともに、アストロサイトのリソソーム機能やカテプシンDを標的とした、パーキンソン病病理の進行を抑制する治療薬の開発につながることが期待されます。
本研究は、JSTムーンショット型研究開発事業(JPMJMS2024)および日本医療研究開発機構(AMED)「脳神経科学統合プログラム(Brain/MINDS 2.0)」(JP24wm0625317)の支援のもとで行われたものです。
【用語説明】
注 1)アストロサイト:
脳内に存在するグリア細胞の一種。神経細胞への栄養補給、構造的支援、細胞外環境の維持など、脳の恒常性維持に必須の役割を担う。
注 2)α-シヌクレイン:
主に神経細胞のシナプス前末端に存在するタンパク質。パーキンソン病やレビー小体型認知症患者の脳内では、このタンパク質が異常に折りたたまれて凝集し、神経細胞の機能低下や細胞死を引き起こすと考えられている。
注 3)カテプシンD:
細胞内のリソソーム(不必要になった物質を分解する小器官)の中に存在する主要なタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)。
注 4)レビー神経突起(Lewy neurite):
パーキンソン病患者の神経細胞の突起内に見られる、α-シヌクレインの異常凝集体からなる病理構造。
【論文情報】
雑誌名: EMBO Reports
論文タイトル: Astrocytic Cathepsin D promotes a-synuclein processing and Lewy neurite-like aggregate maturation
著者: *花房洋、*大橋洸太、*生島広夢、*本田由里花、*久本直毅、亀山武志、宮田宗昭、水谷清人、高井義美、*松本邦弘 (*名古屋大学)
DOI: 10.1038/s44319-026-00927-w
URL: https://link.springer.com/article/10.1038/s44319-026-00927-w
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