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【学習院大学】国の行政文書の移管・廃棄は規程どおりに運用されているか―中央省庁16機関・約11万件の管理簿の分析とAIによる点検手法の検証―

ポイント
・国の行政文書は、作成した省庁が一定の期間(保存期間※1)手元で使ったあと、廃棄※2するか、国立公文書館へ移して永久に保存(移管※3)します。学習院大学計算機センターの久保山哲二教授と、オーストラリア国立公文書館などでディレクターを務めたAdrian Cunningham氏は、各省庁が公開している管理簿から、中央省庁16機関・約11万件の行政文書ファイル※4の記録を分析し、この仕組みの運用実態を調べました。
・政府の指針が「移管する」と定める13種類の文書では、どの種類でも管理簿上の移管の割合が100%に満たず、全体ではおよそ3件に1件が廃棄とされていました。
・移管・廃棄の判断には、省庁・機関の違いよりも、各機関が文書に付けている分類(人事、契約など)の違いのほうが、約10倍大きく影響していました。
・国立公文書館は年間数百万件の行政文書ファイルを限られた人員で審査しています。AI(機械学習※5)を使って、膨大な記録のなかから人が確認すべきものを絞り込めることを示しました。
・この成果は2026年9月25日、アーカイブズ学分野の国際学術誌Archival Scienceに掲載されました。日本の研究機関の著者による同誌への論文掲載は、確認できた範囲では初めてです。

■研究の概要

 国の行政文書には「保存期間」が定められています。これは国立公文書館で保存する期間ではなく、文書を作成した省庁が手元で使う期間です。この期間が終わると、文書は国立公文書館へ移管されて永久に保存されるか、廃棄されます。その扱いは期間が終わる前に決めておくもので、公文書管理法(2011年施行)のもとでは、主な文書の種類について政府の指針が定めています。

 しかし、指針どおりの運用を個々のファイルの記録で確かめた研究は、これまでありませんでした。本研究では、各省庁がインターネット上(e-Gov※6)で公開している「行政文書ファイル管理簿※7」から、ほぼ全件を取得できた16機関・約11万件のファイルを分析しました。その結果、指針が「移管」と定める種類のファイルでも、管理簿上はおよそ3件に1件が廃棄とされていました。また、移管・廃棄の判断には、省庁・機関の違いよりも、各機関が文書に付けている分類(人事、契約など)の違いのほうが、はるかに大きく影響していました。

 さらに、AIを使うと、人が確認すべき記録を絞り込めることを示しました。AIが判断を代わりに行うのではなく、膨大な記録のなかから人が見るべきものを選び出す使い方です。

 研究の構想と設計、データの収集と分析は久保山教授が行い、結果の考察は、各国の理論や実務もふまえて、久保山教授とCunningham氏が議論を重ねて共同で行いました。成果は、国際学術誌Archival Science(Springer Nature)に掲載されました。同誌は2001年に創刊された、アーカイブズ学を専門とする代表的な国際学術誌の一つです。

■研究の背景

 各ファイルの保存期間と、期間が終わった後の扱いは、各省庁の「行政文書ファイル管理簿」に記載されます。政府の指針(行政文書の管理に関するガイドライン)は、法律や政令の制定、閣議決定など22種類の文書について保存期間を定め、そのうち13種類は期間が終わった後に移管するとしています。各省庁はこの指針に沿って独自の規則を作り、各課・各室が保存期間表を作って日々の文書に当てはめます。

 国立公文書館は、2024年度に、保存期間を定める段階で約353万件、廃棄の直前に約402万件の行政文書ファイルを審査しました。同館の常勤職員は89名(2025年4月1日現在)で、審査はその一部の職員が担っています。

 しかし、この仕組みの運用を個々のファイルの記録にまでさかのぼって確かめた研究は、これまでありませんでした。

■研究の内容

 e-Govで公開されている管理簿から、ほぼ全件の記録を取得できた16機関の約11万件を分析しました。各機関がファイルに付けている分類を指針の22種類に対応づける作業には大規模言語モデル※8を用い、できあがった対応表は著者が確認しました。指針が移管と定める13種類に当たる8,405件のうち、管理簿上で移管とされていたのは65%でした。政令や閣議決定は9割以上が移管とされる一方、法律の制定・改廃は54%、ほかの行政機関に示す基準は24%でした(図)。なお、管理簿に書かれているのは各機関が決めた扱いで、実際に廃棄されたことまでは確認できません。また、同じ文書を複数の課が持つ場合は、中心となる課の分を移管し、ほかの課の写しは廃棄するのが通例です。3件に1件のすべてが規程から外れた扱いというわけではありません。

 保存期間表は機関ごとに作られるので、機関によって扱いが大きく違うと思われがちです。しかし実際には、機関による差は小さく、各機関が文書に付けている分類(人事、契約など)による差が、その約10倍ありました。

 2011年以降に作られたファイルは、移管の割合が低く見えます(2010年以前46%、2011年以降20%)。ただし、これは扱いが変わったためではありません。古いファイルほど、移管されやすい長期保存のものが多く管理簿に残っているためです。

■本研究の意義と今後の展開

【AI技術の適用可能性】

 まず、管理簿に書かれたファイルの名称や分類などをAIに学習させ、ファイルごとに移管・廃棄の扱いを予測させました。次に、指針では移管とされる種類なのに廃棄とされているファイル、つまり規程から外れている可能性のあるファイルを、AIに見分けさせました。学習に使っていない、2023年以降に作られたファイル約2,000件で試したところ、約9割についてはAIの判断がはっきり分かれ、残る約1割はAIにも判断がつきませんでした。この1割と、AIの判断が管理簿の記載と食い違う少数のファイルに、人の確認を集中できます。AIが判断を代わりに行うのではなく、人が見るべきファイルを選び出す使い方です。

【今後の展開】

 対象を中央省庁全体に広げ、機関ごとの運用の違いを比較する研究を進めています。また、各課・各室が作る保存期間表そのものの分析、独立行政法人や地方公共団体への展開、他国との比較、年を追った変化の追跡も課題です。

■用語解説

※1 保存期間:各省庁が行政文書を手元に置いておく期間。文書を作成・取得したときに、文書の種類に応じて定める。期間が終わると(必要があれば延長したうえで)、廃棄か国立公文書館への移管が行われる。移管された文書は国立公文書館で永久に保存される。

※2 廃棄:保存期間が終わった行政文書を、内閣総理大臣の同意を得たうえで処分すること。

※3 移管:保存期間が終わった行政文書を国立公文書館などへ引き渡すこと。移管された文書は特定歴史公文書等として永久に保存される。

※4 行政文書ファイル:関連する行政文書をまとめて管理するために一つにしたもの。管理簿の記載や国立公文書館の審査はこの単位で行われる。

※5 機械学習:大量のデータから規則性を学び新しいデータについて予測や判別を行う技術。

※6 e-Gov(イーガブ):デジタル庁が運営する行政情報のポータルサイト。国の行政機関が公表する行政文書ファイル管理簿を、省庁を横断して検索・閲覧できる。

※7 行政文書ファイル管理簿:各省庁が作成・公表する、保有する行政文書ファイル(保存期間1年以上のもの)の一覧。ファイルの名称、分類、保存期間、保存期間が終わった後の扱い(移管または廃棄)などが記載される。

※8 大規模言語モデル:大量の文章から学習し文章の理解や生成を行うAI。本研究では各機関のファイルの分類をガイドラインの分類に対応づける作業の支援に用いた。

■研究助成

 本研究は株式会社NXワンビシアーカイブズから共同研究による資金の一部提供を受けました。本発表は、学習院大学国際論文助成事業より掲載費の助成を受けています。

■発表者

久保山 哲二(学習院大学計算機センター/人文科学研究科アーカイブズ学専攻 教授)
Adrian Cunningham(独立研究者・コンサルタント(オーストラリア))

■論文情報

論文名:Records Disposition in Japan’s Central Government: Norm, Practice, and the Applicability of AI(日本の中央政府における記録の処分 ― 規範、実務、AIの適用可能性)
雑誌:Archival Science, Vol. 26, Article 43(2026年9月25日公開)
著者名:Tetsuji Kuboyama, Adrian Cunningham
URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s10502-026-09561-w
DOI:10.1007/s10502-026-09561-w

■添付資料

図 指針が移管と定める13種類の文書に当たるファイルについて管理簿に移管と記録された割合 … 赤い点が管理簿に移管と記録された割合、青い×印が指針の定める割合(100%)、括弧内はファイル数

■研究に関するお問い合わせ

学習院大学 計算機センター
教授 久保山 哲二(くぼやま てつじ)
E-mail : kuboyama@tk.cc.gakushuin.ac.jp

■報道に関するお問い合わせ

学習院大学学長室広報センター
Tel:03-5992-1008
E-mail:koho-off@gakushuin.ac.jp

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