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立命館大学情報理工学部准教授・西浦敬信 3次元音場再生の新方式「音像プラネタリウム」の開発

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立命館大学情報理工学部では,西浦敬信准教授らの考案による全く新しい3次元音場*再生方式「音像プラネタリム」を開発した。本方式は,多数の超音波スピーカ*を用い,壁面反射を利用して任意地点での音像定位*を実現する斬新な高臨場感音像提示方法で,立体音響,3次元情報提示の分野の新たな潮流となる可能性を秘めたものである。

 立命館大学情報理工学部では,西浦敬信准教授らの考案による全く新しい3次元音場*再生方式「音像プラネタリム」を開発した。本方式は,多数の超音波スピーカを用い,壁面反射を利用して任意地点での音像定位を実現する斬新な高臨場感音像提示方法で,立体音響,3次元情報提示の分野の新たな潮流となる可能性を秘めたものである。

【従来方式との比較】
 3次元音場はこれまでバーチャルリアリティ(VR)分野で盛んに研究されてきたが,人間の頭部周辺の音の伝達特性(頭部伝達関数)を基にヘッドホンを用いて3次元音場を再生するバイノーラル方式や,物理的にスピーカをサラウンド配置する5.1chサラウンド方式が主要方式となっていた。また,次世代技術としてこれまで注目されていたトランスオーラル方式も,3次元音場を構築する再生音場の自由度が低く,実用化には程遠い状況であった。これに対して本方式は,超音波スピーカの鋭い指向特性を積極的に利用した全く新しい3次元音場再生方式であり,バイノーラル方式の欠点である頭部伝達関数の個人性問題やヘッドホンによる圧迫感を解消し,さらに5.1chサラウンド方式のようにスピーカを受聴者の周囲にサラウンド配置することなく,3次元音場を再生することが可能な画期的な技術である。特に超音波の壁面反射を利用することで,スピーカを配置していない方向や場所にも音像を構築することができるため,視覚分野の複合現実感(Mixed Reality; MR)技術との相乗効果も大いに期待できる。
 音像プラネタリウム方式とその他の従来方式を比較すると,多数の体験者に高い没入感が与えられること,再生音場の自由度が大きいことが特徴といえる。特に,現在MRにおいて一般的に用いられるバイノーラル方式と比較すると,ヘッドホンを装着する必要がなく,頭部伝達関数のような個人性問題も生じないため,MRとの親和性が極めて高いという特長を有している。

【研究開発の経緯】
 本方式は,科学研究費補助金・基盤研究(A)「視聴覚併用複合現実空間の表現力向上に関する研究」[H21~24年度,研究代表者:田村秀行(立命館大学・教授)]から生まれたものであり,引き続き同研究制度の下に,当該技術の完成度向上を目指している。
 MR技術は,現実世界と仮想世界を実時間で融合表示する技術で,既に先行研究では「2x2方式視聴覚併用MRシステム*」を世界で初めて開発した。同システムでの聴覚MRは,バイノーラル方式を採用し,開放型ヘッドホン*により現実世界の実音と仮想世界の人工音の融合・反射・遮断を実現していた。この方式では,体験者個々人がヘッドホンを装着するという制約があったため,複数の体験者が3次元空間内の任意の地点で,同時に3D音像定位を体感できることが望まれていた。それを解決すべく「音像プラネタリウム方式」の着想が生まれ,鋭い指向特性を持つ「超音波スピーカ」の採用により,本方式の実現が可能となった。
 「音像プラネタリウム」という名称は,Base Unitから放射される超音波が,壁面で反射して音像が定位することに由来している。また,本方式による視聴覚MR体験空間は,「X-Media Galaxy(クロスメディア・ギャラクシー)」と呼んでいる。
 本方式は,複数人によるMR体験に適した高臨場感音像提示方法として考案されたものであるが,単独で3次元音場再生方式として見た場合にも,上述のように従来方式にない特長を有しており,立体音響分野に新風を吹き込むものと期待されている。

【超音波スピーカの原理と特長】
 超音波スピーカは,人間の耳には聞こえない高い周波数の波(超音波)を放射する。波は一般的に低い周波数ほど同心円状に広がり,高い周波数ほど直進する。よって,通常人間が知覚できる高さの音波をスピーカから放射した場合,同心円状(全方位)に音波が伝播するが,超音波スピーカの放射特性は,直進的な鋭い指向特性となる。

 また,超音波スピーカは超音波をキャリアとして利用することで,鋭い指向特性を維持しつつ人間が知覚できる高さの音波を放射できる特性を持っている。具体的には,再生対象となる音源(Audio signal)を超音波(Carrier signal)により変調させ超音波スピーカから放射する。すると,空気の非線形性により,超音波にひずみが生じる。このひずみが人間の耳で知覚可能なAudio signalとなる。放射される音波はあくまで鋭い指向特性を有する超音波であるため,非線形ひずみにより生じるAudio signalも同様に,鋭い指向特性を有するという特長がある。

 さらに,超音波は壁面で鏡面反射する特徴も有している。当然のことながら超音波の反射音波も直進性を有するため,人間に届く反射音波を受聴すると反射位置から音が放射されたような錯覚が生じる。この現象を応用し,超音波をあらゆる方向から壁面反射を用いて受聴者に到達させることで,様々な壁面に音像が存在するように知覚させることができる。

 音像プラネタリウム方式では,この特性を活用して3次元音場を構築している。具体的には,部屋の中央に配置した複数の超音波スピーカで構成されているBase Unitから,様々な方向に超音波を放射することで,反射面となる天井や壁に様々な音像を構築する。この方式は実際に音像を反射壁面に構築するため,反射壁面を工夫することで,室内のあらゆる場所から音像を知覚可能な環境を構築することもできる。

【将来の展望】
 映画の3Dブームに端を発し,家庭用TVやゲーム機にも3次元映像のブームが到来する中で,高臨場感映像に見合った「3次元音場再生」への関心も高まっている。
 VR/MR研究から生まれた本方式は,複数人の任意地点における同時体験という点で,従来方式にない特長を有しているため,少人数での仮想体験システムから,大ホールでの大掛かりな立体音響再生システムに至るまでの様々な応用が期待できる。
 特に,可搬型のベースユニットだけで実現でき,壁面にスピーカを埋め込む事前工事を必要としないことから,簡便で機動性がある立体音響システムとしての価値が高く,立体音響での新しい設計方法が生まれてくる可能性も考えられる。また,スピーカの設置されていない場所に音像を構築することができるため,立体音響,3次元情報提示の分野の新たな潮流となる可能性を秘めたものである。さらに,ベースユニット上段に搭載した超音波スピーカだけでなく、ベースユニット下段に低域を表現できるサブウーファーも搭載することで,超音波スピーカで「音像」を天井や壁面に構築し,サブウーファーで「拡散音(残響音)」を音空間全体に表現することも可能となり,将来的には,より臨場感あふれる3次元音場再生装置としての発展的拡充も計画している。
「音像プラネタリウム方式」の基本原理の有用性は確認できているが,その実用化や性能向上は「超音波スピーカ」の高性能化・高信頼化・低価格化にかかっているとも言える。超音波スピーカは,市販されて日が浅く,まだ供給メーカーも限られているが,すでに一部実用化されている技術であり,本方式への関心が高まることで,超音波スピーカの研究開発自体がさらに促進されることも期待できるところである。

【特許出願・学会発表】
・本方式は,2009年度内に特許出願済みです。
発明の名称:音響システム及びその仮装音源の設定方法
出願人:学校法人立命館
発明者:西浦敬信,森勢将雅,廣川孝太郎,杉林裕太郎,田村秀行,柴田史久
提出日:平成22年 3月29日
出願番号:特願2010-075788


▼お問い合わせ
 立命館大学理工リサーチオフィス TEL.077-561-2802